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第2話『柔らかい身体と固い距離』
「玲央、バスケほんと下手だよな〜」
「……うるさい」
体育の授業終わり、ヘトヘトになって着替え室に戻ってくる途中。
笑いながら肩を寄せてくる蒼真に、玲央は半分うつむいたまま息をついた。
「つか、ドリブルのとこ、足にボールぶつけてたの見たわ」
「……見なくていいとこ見るなよ」
「いやー、でもさ。あんだけ運動ダメなくせに、体やわらかいのギャップすごくてウケるんだけど」
「……は?」
「だって、柔軟んとき、前屈ぺたっていってたじゃん? あれ見たとき、正直──」
蒼真は口元をいたずらっぽく歪め、耳打ちするみたいに顔を近づけてきた。
「──れお、えっちぃ身体してんじゃんって、思った」
「っ……な、なに言って……っ!」
玲央は目を見開き、耳まで真っ赤に染まる。
すぐに背を向けて歩こうとするが、蒼真が腕をつかんでそれを止めた。
「ごめんごめん、冗談だって。……でも、赤くなるの反則だわ。マジでかわいい」
「や、め……ばかっ……」
玲央は小声でそう吐き捨て、蒼真の腕を軽く払いのける。
けれど蒼真の笑みは崩れず、そのまま肩をすくめて見送った。
──心臓が、うるさい。
冗談、ってわかってる。
でも、ああいうふうに言われると、わけがわからなくなる。
***
昼休み。玲央は教室の窓際で、ひとりパンをかじっていた。
蒼真はいつも通り、女子グループに囲まれて笑ってる。
その様子を見ながら、心のどこかで「俺なんかじゃ、ダメなんだ」って思う。
それでも──
「玲央ー。はい、コーヒー牛乳。甘いの好きだろ?」
当たり前みたいに自分の前に座ってきて、ドリンクを差し出す蒼真。
「あ……ありがと」
「なんか、さっきの柔軟のときからテンション低くね?」
「別に、そんなんじゃ……」
「そっか。ま、俺が変なこと言ったのは悪かったけど」
蒼真は少しだけ真面目な顔をして、玲央を見た。
「……でも、ホントにそう思ったんだよ。玲央、もっと自分のこと自覚したほうがいい」
「……なにが」
「可愛いの、バレバレだし。俺以外にも、見られるぞ?」
その言葉が、なぜかひどく胸に刺さった。
それって──独占欲、みたいな感情?
「……冗談、きつい」
「うん、いつも通り」
蒼真はニッと笑いながら、玲央の頭をくしゃっと撫でた。
玲央は目を伏せ、顔を隠すようにパンをかじる。
心臓の音が、またうるさくなった。