テラーノベル
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化け物の身体が、教室の壁を突き破って吹き飛ぶ。
ドゴォンッ!!
瓦礫と血が飛び散った。
だが朧は止まらない。
赤い瞳には、完全な殺意だけが宿っていた。
鬼気が暴れ、教室全体が軋む。
化け物は崩れた壁の中から這い出てくる。
顔は半分潰れているのに、まだ笑っていた。
「かえ……せ……」
掠れた声。
その赤い目は、まだ湊を見ている。
執着。
獲物を奪われた飢えた獣みたいだった。
湊は床へ崩れ落ちたまま、震える息を吐く。
服は裂け、首筋には赤い痕が残っている。
恐怖で力が入らない。
すると朧が、すぐ湊の前へ膝をついた。
「……レナード」
低い声。
怒りを押し殺している声だった。
大きな手が、そっと湊の頬へ触れる。
確認するみたいに。
本当に無事か確かめるみたいに。
湊は震える指で、朧の服を掴んだ。
「……おそ、い……」
涙混じりの声。
朧の目が揺れる。
その瞬間。
後ろで化け物が絶叫した。
「アアアアアッ!!」
長い腕が再び伸びる。
狙いは湊。
だが次の瞬間――。
ドンッ!!!
朧が化け物の顔面を掴み、そのまま床へ叩きつけた。
教室が揺れる。
さらに蹴り飛ばす。
壁が砕ける。
化け物は血を撒き散らしながら笑っていた。
「ほしい……そのこ……」
その言葉を聞いた瞬間。
朧の鬼気がさらに濃くなる。
空気が重い。
呼吸すら苦しい。
朧は化け物を見下ろしながら、低く呟いた。
「……殺す」
その声だけで、化け物の笑みが初めて歪んだ。
次の瞬間。
ドゴォォォンッ!!!
朧の拳が、化け物の上半身ごと床を砕いた。
絶叫。
黒い血。
化け物の身体が痙攣する。
それでもまだ、赤い目だけは湊を見ていた。
執念みたいに。
朧は完全に理性が切れかけていた。
鬼の本性。
圧倒的な暴力。
湊はそんな朧を見ながら、小さく名前を呼ぶ。
「……朧」
その声で、鬼の動きが止まる。
赤い瞳が、ゆっくり湊を見る。
そこには怒りだけじゃない。
恐怖があった。
また失うかもしれなかった恐怖。
朧はゆっくり湊を抱き寄せる。
強く。
離したくないみたいに。
そして首筋へ顔を埋め、震える声で呟いた。
「……二度と、離れるな」
湊は朧の腕の中で、荒い呼吸を繰り返していた。
心臓がうるさい。
まだ身体が震えている。
化け物に触れられた感触が、肌へ残っていた。
首筋を舐められた感覚。
冷たい指。
裂けた笑顔。
思い出しただけで気持ち悪い。
朧はそんな湊を抱き締めたまま離さない。
鬼気はまだ消えていなかった。
むしろ静かに煮えたぎっている。
「……朧」
湊が小さく呼ぶ。
すると朧は、ゆっくり顔を上げた。
赤い瞳。
まだ怒りが残っている。
湊は少し困ったように笑った。
「苦しい……」
その瞬間、朧の腕が僅かに緩む。
だが離してはくれない。
むしろ壊れ物を扱うみたいに、そっと抱き直した。
「……すまん」
低い声。
珍しく弱い声だった。
湊はその胸へ額を預け、小さく息を吐く。
「怖かった……」
正直な言葉。
その瞬間、朧の身体がピクリと震えた。
湊を抱く力がまた強くなる。
「……もう来ない」
まるで自分に言い聞かせるみたいに呟く。
だがその時だった。
ザーッ……
校内放送からノイズが流れる。
二人の身体が止まる。
次の瞬間。
『あぁ〜……残念』
司会者の声。
楽しそうな笑い声。
『せっかく面白くなってたのに』
朧の目が鋭く細くなる。
湊も顔を上げた。
校内放送は止まらない。
『でも安心してください♪』
『まだ試験は終わってませんから』
その瞬間。
ガコンッ!!
教室の床が揺れた。
湊の顔色が変わる。
次の瞬間――。
床が崩れた。
「っ!!」
一気に足場が消える。
湊の身体が宙へ投げ出された。
暗闇。
落下。
「朧――!!」
咄嗟に伸ばした手。
だが届かない。
視界の中で、朧の表情が初めて完全に崩れた。
そして湊は、そのまま闇の中へ落ちていった。
#ホラー小説
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