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ナッキは衝撃を受けていた。
どうやら凶悪な悪魔に、モロコの卵が一方的に襲われている訳ではなく、お互いに三十個ずつ相手の卵を食べているらしいし、昔からの慣習、伝統に従っている様だったからである。
しかもお互いに相手の事を悪魔と呼び合っているそうだ。
その上、モロコ達にとっては生臭くて不味いらしい。
若(も)しかしたら、いいやかなりの高確率で相手も同じ様に思っているのではないだろうか?
取り決めた数以上の被害が皆無であることから、ナッキは確信を持つのであった。
「ねえ君たちさあ、随分立派な感じで議論してたけどさぁ、これってどちらが先に始めたかとかさあ、伝統だっけか? 言い伝えとかだったら破った場合のペナルティとかね、そこら辺の事は判っているのぉー?」
サムが胸を張って答えた。
「ふんっ! 代々言い伝えられて来た事だ、と思う! ペナルティと言うか、言い伝え通りにしなかった場合には、きっと恐ろしい事が起こるんじゃないか、そんな風な気もするしっ! 兎に角! お互いに産卵期が来たら三十個ずつ相手の卵を食べるっ、ずっとそうして来たのだ! 掟なんだよ、決まり事には従わなければならない! 我々の代で無責任に改める事などもっての他だ、法令遵守、改悪反対!」
カーサが呆れ捲った表情で返す。
「あのなぁ、時代は変わっていくんだぞ、望むと望まざるとに関わらずな! 掟や決まり事だって時代時代に合わせて柔軟に変化していくのが当然じゃないか! これは掟だけに限った話じゃないぞ! 俺は見てきたんだ、下の池でメダカ達が強固な防衛施設、『メダカの城』を築き上げているのをな…… あの迫力…… ああ言った最新の軍備なんかも積極的に取り入れていかなければならない、そう言う時代なんだよ!」
「あ、あれは増水した時の用心に――――」
「軍備拡張だとっ? それが相手を刺激するんだっ! いいか? 車座で酒でも酌み交わせば――――」
「そんな事言っていたら、敵に先手を打たれるぞっ! こうしている間にも敵が攻めてくるかも知れないんだぞ、待ったなし――――」
「あー、もういいから黙ってよっ! 君たちの理屈や主張なんかどうでも良いよっ! 何だかんだ言ってるけど君たち両方とも只の臆病者なんじゃないか! 子供を守りたい? だったら相手にそう伝えてみれば良いじゃないかあ! それで何か問題が有って解決できなかったら話し合って、工夫して、知恵を絞って、それでも駄目なら、そこで初めて戦うとかの話になるんじゃないの? 普通に考えれば判るんじゃん! それを一々大仰な言い回しで…… 素直に言えばいいじゃん、戦いとか怖くて怖くて吐きそうなので無理です、とか、強い仲間や良い武器がなかったら怖くて夜も眠れません、とかってぇ!」
「「……」」
ナッキの言葉が的を射ていたのだろうか、サムとカーサだけでなくこの場に集まっていた全モロコが、一様に口を閉ざして俯き固まってしまったではないか。
ナッキは溜息を吐きつつ言葉を続けた。
「本当に臆病なんだね、君たちってさ! もう良いよ僕が君たちの代わりに相手と話し合ってきてあげるよ、それで良いでしょ?」
この言葉には議長のモロコが慌てた素振りで答えた。
「えっと、全権委任大使と言う事でしたら評議会で議題にあげて何度か議論をした後、評議と参議の多数決を取る必要が有ります、その後、各種の手続きと議会への宣誓をして頂いた上で――――」
「あー! じゃあ、君たちの代わりじゃなくて僕個人が自分の都合で行ってくるならさ、そんな面倒な手続きは要らないわけでしょ! 僕はモロコの子分でも何でも無いんだから自由でしょ! 違うかいっ!」
サムがおずおずと口にした。
「我が国の不利益になる事を認める訳には……」
「おい馬鹿、やめろ、よ……」
止めるカーサの声もナッキのイライラとした表情の前に小さくなって行く。
ナッキはモロコ全体を見回しながら言った。
「暴れるよ? 死ぬよ? 君たち……」
『……』
今度こそ、誰も文句を言わなかった事にホッとしたナッキは聞く。
「んで相手はどこにいるんだい? それで彼らの名前、いいや種族名はなんて言うのかな?」
議長が答えた。
「この池の西側です、浮き草が水面(みなも)にたくさん有る辺りが奴等の本拠地です」
「うん、それで種族名は?」
「……悪魔」
「種・族・名!」
「っ! か、カエル、です……」
「へー、カエルね、んじゃ行って来るよ」
そう言うと、無言のモロコたちを顧みる事も無く、池の西を目指して泳ぎ出すナッキであった。