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理屈重視のモロコ達の本拠を後にしたナッキは、迷いも見せずに、下の池よりも東西に伸びきった、上の池の西側を目指していつも以上のペースで鰭を動かしたのである。
やがて、モロコの議長が言っていた通り、水中に丸い影がそこかしこに射し始め、暫(しばら)くすると、浮き草が水面(みなも)を覆い尽くしてしまったのか、薄暗いばかりの世界が水中に現れたのである。
「ここら辺じゃあ無いのかな? んでも、魚っ子一匹見当たらないけどなぁ? ……あ? あれってぇ! おおいぃ、君たちってカエル君じゃないのぉ? おおい! 待ってよぉ、僕の話を聞いておくれよぉっ!」
薄暗い水の中で、慌てた様にこの場から立ち去ろうとしていた幾つもの小さな影の内、数体が振り返ってナッキの声に耳を澄ませている様であった。
『……』
言葉は無い物の、見事な泳ぎは魚の仲間に違いない、そうナッキに思わせた、と同時にその姿はと言えば、魚とは似ても似つかない、四肢を持つ陸上に生きる生物のような容姿であったのである。
言うなれば、半獣魚、であろうか?
まるでクリーチャーの如き、奇怪な姿に度肝を抜かれたナッキであったが、一瞬の後、気を取り直して再び彼らに声を掛けるのである、ナイスガッツである。
「ね、ねえ、カエル君たち、僕は下の池から来たんだけど、銀鮒のナッキ、『メダカの王様』をやらして貰っているんだけどさ、君たちに提案、って言うかお願いが有って訪ねて来たんだよぉ、ねえ、お願いだから君たちのリーダーとか、中心になっているカエルに会わせてくれないかい? どうだろうか? ねえ、頼むよ? ね!」
不思議な姿をしたカエルたちは小さな声で暫く話し込んでいたが、やがて返事をくれたのであった。
「判りました、メダカの王様、銀鮒のナッキさん…… 我等のリーダー、殿様であるゼブフォ様に貴方の希望を伝えます! それまでここに留まって居てくれますか? これ以上の進入はお互いの為にならないと思いますので! どうでしょう?」
ナッキは嬉しそうに答える。
「勿論だよ! ここにジッとしているって約束するよ! じゃあ、殿様だっけか? ゼブフォ様を呼んで来ておくれよ! 頼むね、カエル君たちぃ!」
答えを返して来てくれたカエルは踵(きびす)を返したきり、ナッキを見ずに答えた。
「私はメスです、カエル君は不適切ですが…… まあ、良いでしょう、暫くお待ち下さいませ」
スイッスイッスイッ~!
魚類とは又違った泳法で素早く泳ぎ去ったカエル達を見送ったナッキは感心した様な声を上げる。
「女の子だったんだな、これは失礼な事をしてしまったな、次からはユニセックス、じゃなくてジェンダーフリーに気をつけて話をしなきゃいけないなぁ…… 勉強になるぞぉ」
そんな風に考えながら、言われた通りにその場から動かずに待っていると、程無くして頭上の浮き草の幾つかが|僅《わず》かに沈み、それと同時に水中に一匹のカエルが姿を現した。
全体にほっそりとした褐色の体に、目から尻に掛けて二本の黄色が鮮やかなラインを引いている、先程のメスガエルである。
「お待たせしましたナッキさん、殿様がお会いになるそうです、その位置で真上の水面から顔を出してください」
「えっ、この上? う、うん良いけど……」
水陸両生生物だと聞いていたのだが、どうやら会見は陸上でやるらしい、そう聞いたナッキは一瞬戸惑いを見せたが、モロコの卵のためだと覚悟を決めて真っ直ぐ上に泳ぎあがり、浮き草の隙間から顔を覗かせるのであった。