【EP.1 孤独と螺旋階段】
記憶がない。
知らない天井。
音のない雑音。
冷たさが私の体を 巡る。
おはよう、私。
初めまして、私。
自分の居場所が分からないとき、大体は自分の名前は覚えている。
なのに、私は名前を知らない。
自分の見た目さえも知らない。
ここは、どこなのだろう。
焦燥さえも感じるただの一室、
目の前にあるのは一つのドアだけ。
とりあえず、ドアを開けてみる。
「!」
ドアを開けると、どこまで続いているのか分からないほど長い螺旋階段が目を埋め尽くす。
私はただ、困惑している。
ただ、分からないままだ。
それでも私はその螺旋階段を登らなければならない。
だってここには、螺旋階段しかないから。
私は階段を登る。
今自分が何階にいるかも数えずに。
ずうっと数えるのもめんどうくさい。
だから、色々なことを考える。
例えば、仮に私の名前を考えるとしたらどうするだろう。
でも、私が今何年を生きているのかも、流行りの名前も分からない。
有名人の名前も、アイドルの名前も、私は知らない。
結局たどり着いた答えは、私の名前なんてなくても大丈夫なことだ。
だって、私以外に人はいないから。
もし誰かがいたなら、私のことを「ねえ」とか「きみ」と呼べばいい。
今度は明確に判断できることを考えよう。
それなら、私が今分からないことだ。
私が今わかっていないことは、自分の名前、年齢、見た目、自分がいる場所、家族構成、最終的な目的。
もしかしたらどこかで、私の帰りを待っている人がいるかもしれない。
そうなると、私の最終的な目的は、待っている人の元へ帰ることなのだろうか。
でも、待っている人がいないかもしれないじゃないか。帰れないかもしれないじゃないか。
なら、私の最終目的はなんなのだろう。
私が何かを思い出したところで、ここから出る方法に繋がるわけがない。
何階かは分からないが、まだ地面が見えるほどの高さについた時。
そこにひとつ、油性ペンが落ちていた。
そして、文字が書いてあった。
その文字は焦っていたのかぐちゃぐちゃで、とても汚かった。
なんとか書いてある文字を解読すると、それはひとつの点として生まれた。
『ばけものがくる』
ひらがなで幼稚な字でそう書いてあった。
その言葉の意味を私は理解できなかった。
でもここは先程より血なまぐさい。
私はこの油性ペンを持っているべきだ。
安堵していた私の視界に、黒い大きな影が映る。
ばけものがくる
その言葉の意味をやっと理解した。
ただ、私は逃げないといけない。
ただ、意味がなくても。
そして、黒い影が私を蝕む。
記憶がない。
知らない天井。
音のない雑音。
冷たさが私の体を巡る。
手に持ってる油性ペン。
おはよう、私。
はじめまして、私。
コメント
2件
いや、好き。多分ループ系って事?めっちゃ良。ゲームみたいで楽しそう。