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「あのごだまばね?」
あ?しっかり喋れよ。
「キミが8話で殴ったからだ」
もはや、顔の造形を保つのが限界の域に達した様子の師匠が、ふらふらとバーテンダーの定位置に戻っていくのを僕は、内心ニヤニヤしながら眺めた。師匠に罪はないが、あのキモさは正直いって、万死に値する。だって。僕らは帰ってから「イヤん」を連呼する師匠を思い出すたび、食べ物が喉を通らないんだし。
そのうち、“師匠に殺される”気がする。
「なんであんなことしたんだよ」
だって、「イヤァァァァァァ♡」って。めちゃくちゃ悦んで(ヨロコンデ)たじゃん。
「ああいう人なんだ。知ってるくせに」
そーか?初めて知った。あんな人、ラノベかマンガの世界外にもいるんだな。
バーテンダー風のテーブルクロスで顔を拭く師匠の前でボクは、師匠が作った傘付きの、柑橘系カクテル風ミックスジュースをゴクゴク飲んだ。
リンゴとユズと檸檬の香りが仄かに香る味。柑橘系の酸味が、リンゴの酸味といい具合に合わさって、舌の上で“ピリッ”とする。カクテルを飲んだことがなくても、カクテル風だとわかるミックスジュースを作れるなんて。師匠は“バーテンダーとしては”天才的だ。
ていうか、よく飲めるな。こんなトキに。
「自分がやったんだろ?」
そうだっけ??
「あの『木霊』(コダマ)はね」
やっと、バーテンダーらしく(本職は陰陽師なのだが)なった師匠は、何事もなかったようにニコニコしながら、シェーカーをシャカシャカ振り振り僕に・・いや、正解には“ボク”にいった。
「あの木霊は『ネナシカズラ』の植物から培養した”5-Eランク”の霊なのよ」
「5-E?」
5-Eって、たしか・・・。ポケットのメモを探ると、初めて師匠と仕事をした当時の走り書きがあった。
めッちゃくちゃ『低級使役霊(シキガミ)』の部類霊じゃねーかッ!もし、追っ手がいたら、どーするつもりだったんだよ。シャレになんねーぞ。マジで。
「あの、師匠。1-Aじゃなくても、せめて、2-Bクラスの使役霊(シキガミ)でもよかったんじゃないですか?」
そーだ。そーだ。
「今回の敵が『陰陽師』だからよ。ちょっとは頭使いなさい」
頭使いなさい?バカに言われた!頭使いなさい??なんだと、コノヤローーー
「抑えて、抑えて」
「ん?ジュースのおかわり?」
バカか、この師匠。
師匠はバーテンダーよろしく(何度もいうが、この人の本職は陰陽師だ)シャカシャカ振りまくっていたシェーカーを開け、先ほどまで、ユズと檸檬のカクテル風ミックスジュースが入っていた、グラスにトクトクと注いだ。
って、おい。
「あの、師匠。混ざっちゃいません?」
そーだ。そーだ。
僕らが師匠に抗議すると、師匠は「うふふ」と、キモく笑ったあと、埃っぽくなったグラスをキュッと拭いた。
「いいの。美味しければ。失敗したってお客にはわからないもの。失敗した!なんて顔でジュースを出されても、美味しくないでしょ?だから、大切なのは自分を信じて堂々と構えることなのよ」
いや、いや。「うふふ」とかいって、弟子に抱きつこうと襲いかかる上に、髪の50%オレンジに染めた人間にそんなこといわれたって。・・なぁ?
「そうか・・失敗したってわからない」
マジか。
「ビクビクしてたって仕方ない!行動に移すしか道はないって!!そういうコトですね!!師匠」
いや、ぜってーちがうから。
「行ってきます!!!!」
おいィィィィィィッ!
「あらあら。まだ残ってるのに」
薄暗いバーのカウンターで、師匠はバーテンダーと陰陽師の、山と積まれた冊子の中から“光るモノ”を取り出し、『BAR 96』と書かれた店を後にした。