テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#2 出逢いの証明
fjsw side
あの日、初めて元貴に声をかけられたときのことは、今でもはっきり覚えている。
僕は二十歳で、少し背伸びした金髪にしてみた頃で、見た目はやんちゃに見えただろうし、自分でも少し不安だった。
だけど、あのときの元貴は真っ直ぐな目をしてた。僕を試すでもなく、探るでもなく、ただ「一緒にやりたい」っていう気持ちだけをぶつけてきた。
「一緒に音楽やりませんか」
そう聞かれて、僕は不思議とすぐに頷いたんだ。
誰かに誘われるなんて思ってもみなかったけど、その声は嘘じゃないと感じたから。
あのとき、出会えたことがすべての始まりだった。
本当に、それだけで僕の世界は変わったんだ。
最初の頃の元貴は、大人びて見えるのに不器用で、でもその不器用さも全部愛おしかった。
練習の合間にふと見せる笑顔とか、真剣に曲を書いてる横顔とか。
気づいたら、視線で追いかけている自分がいた。
そして、ある夜、打ち上げの帰り道だった。
夜風が少し冷たくて、海沿いの道をふたりで歩いているとき。
元貴が突然立ち止まって、少し震える声で言った。
「涼ちゃん、俺……好きだと思う」
あのときの表情は、今でも忘れられない。
恥ずかしそうに俯いて、でもちゃんと僕を見てくれてた。
「俺と……付き合ってほしい」
胸の奥が熱くなって、言葉にならなかった。
でも気づいたら僕は笑ってて、首を縦に振ってた。
「うん、俺も好きだよ」
それだけで、世界が色づいた気がした。
あの夜から、僕たちは恋人になったんだ。
それからの毎日は、本当に奇跡みたいだった。
初めてステージに立った日も、初めてテレビに出た日も、全部元貴が隣にいてくれた。
若井も一緒にいてくれて、僕たちはただ音楽が好きで、同じ夢を見てた。
活動休止のときは正直、心が折れそうだった。
でも、元貴が「またやろう」って言ってくれて、若井も「絶対戻ろうぜ」って言ってくれて。
だから僕も、もう一度信じようって思えた。
再び3人でステージに立ったとき、客席の景色が滲んで見えたのは、多分涙だったんだろう。
こんなに幸せでいいのかって思った。
もう一度音楽を届けられることが、本当に奇跡だと思えた。
_でも、その奇跡は長くは続かなかった。
病院で医者から余命を告げられたとき、最初は何を言われているのか理解できなかった。
耳の奥で何度も「あと少し」という言葉が反響していた。
怖かった。
死ぬのが怖いというより、元貴や若井を残していくことが怖かった。
あのふたりは僕のすべてだったから。
出会えたことが何よりの宝物で、その日々を失うのが何よりも怖かった。
それでも、嘘をつき続けることはできなかった。
元貴も若井も、大切だからこそちゃんと伝えたかった。
言葉を探しても、うまく言える自信なんてなかった。
だけど、それでも伝えなきゃと思った。
スタジオの空気は静かで、潮の匂いが少し漂っていた。
僕の胸の奥では心臓が暴れていて、声を出すのも怖かった。
それでも僕は、ふたりを見つめて言った。
そして、僕はふたりに、病気のことを打ち明けた。
Lonelinessってどのライブも最高