テラーノベル
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いつもは「最強の保育士」として二人を支えている涼架。しかし、あまりにも高いプロ意識で園の子どもたちに全エネルギーを注ぎ続けた結果、ついに糸が切れてしまったようです。
ある休日の朝。リビングに現れた涼架は、いつもの元気な「おはよう!」ではなく、目に涙をいっぱい溜めて、愛用のタオルを握りしめながら「……ふえぇ、おなかすいたぁ……」と泣きべそをかいていました。
「えっ、りょうちゃん!? どうしたの……って、これ、僕がこの前なったやつ!?」
「……。おい、涼架さん。……返事しろ」
元貴が慌てて駆け寄りますが、涼架は元貴の首にしがみつき、「おなかすいたの! まんま! あっこ(抱っこ)!」と完全に幼児化。二人は顔を見合わせ、覚悟を決めました。
かつては「お世話される側」だった元貴ですが、毎日の学校での仕事が彼を強くしていました。
「大丈夫だよ、りょうちゃん。今すぐ美味しいの作るからね。ひろと、あやすのは任せたよ!」
元貴はパニックになるどころか、子どもの「不快」の原因を素早く察知します。
まず、涼架が安心できるように、お気に入りのぬいぐるみを並べ、ブランケットで秘密基地のようなスペースを作成しました。
「噛むのが疲れちゃってるのかも」と判断し、野菜たっぷりの柔らかいスープをさっと調理。
「はい、あーん。美味しいかな?」
元貴の優しい声かけに、涼架は「おいちい……」とニコニコ。元貴のその手つきは、もはや立派な「お兄さん先生」そのものでした。
一方、抱っこをせがまれて涼架をひょいと持ち上げた滉斗。彼は動じることなく、その状況を公認心理師の視点から淡々と実況し始めました。
「……なるほど。これは典型的な『退行による自己防衛』だな。普段、保育士として他者の情緒を優先しすぎている反動だ。今の彼の欲求は、マズローの欲求階層説で言うところの最下層、『生理的欲求』と『安全の欲求』に完全に特化している」
「ひろと! 分析してないで、ちゃんとトントンしてあげて!」
「分かっている。今、愛着形成における『安全基地』としての役割を遂行中だ。……見ろ、元貴。抱きついた時の手の握り込み反射が強くなっている。これは彼が深層心理で、俺たちへの全幅の信頼を……あ、指噛まれた」
「分析してるからだよ!」
その後も、滉斗の職業病は止まりません。
涼架が積み木を崩して喜ぶと、「破壊衝動の解放によるカタルシス効果だな」とボソリ。
涼架が元貴の膝で眠りにつくと、「レム睡眠への移行を確認。非常に深い安心状態にある」と手帳にメモ。
元貴が「もう、ひろとは理屈っぽいんだから」と苦笑いしながら涼架の寝顔を撫でると、滉斗も眼鏡を上げ、少しだけ表情を和らげました。
「……理屈はどうでもいい。ただ、こいつがこれだけ無防備になれるのは、俺たちがいるからだってことだけは、データなしでも証明できる」
夕方、目を覚ました涼架は、自分が元貴の膝枕で、滉斗に手を握られたまま寝ていたことに気づき、一気に顔を沸騰させました。
「あ、あ、あああああ……! ごめん! 僕、何してた!? まんまって言った!? 抱っこって言った!?」
「言ったよ。心理学的に非常に興味深いデータが取れた。感謝する」と無表情な滉斗と、「りょうちゃん、お肌つやつやだよ」と微笑む元貴。
「もう……! 明日からまた先生やるの、恥ずかしすぎるよぉ……!」
叫ぶ涼架でしたが、その心は不思議なほど軽くなっていました。誰よりも「お世話」のプロである彼が、一番信頼する二人に「お世話」されたこの日は、3人にとってまた新しい絆の形となったのでした。
コメント
2件
いつも信頼されてる涼ちゃんが可愛くなった🫶🏻💗