私の失踪やら、謝罪パーティーから、真一郎くんのプロポーズ事件まで怒涛のような日々が終わり、久々に家に帰った。
さすがに放任主義の母親でも心配していただろうと思っていたのだが……。
私の嘘を信じて、「お友達のところはもう大丈夫なの?」と開口一番に聞いてきた。そこまで娘のことを信じてくれる母親を素直に凄いと思った。転生してから、恋愛脳の母親が全く理解できないし、私の方がしっかりしているから母親の方が娘みたいだなんて思ったこともあったのだが…。こんなにも娘を信じてくれるなんて…と壊れっぱなしの涙腺がまた崩壊しそうになった。
「……キリちゃん、本当のこと言ってもママは反対しなかったわよ?」
「…へ?」と鼻をすすりら熱くなった目頭を抑えて母親を見ると………………何?そのドヤ顔。
「彼氏と一緒にいたんでしょ?ママはそういうの理解あるから正直に言ってくれればいいのに♡」
………前言撤回。スンっと一瞬で涙が引っ込んだ。私の感動を返して。
後日、真一郎くんのバイク屋でそんな話をしていると、真一郎くんはバイクを弄る手を止めて何か考え込んだ。
で、真一郎くんの思案の結果…突撃彼女のお宅訪問!!!!が今まさに実行されているのである。
しかも、マイキーくんとイザナくんも同行して来た。
え?なんで一緒に来たの?保護者枠?ガヤ枠?
とりあえず来てしまったので、皆んなに家に入ってもらい居間に並んで座わらせた。母親には一応彼氏が挨拶に来ると伝えていたのだが、まさかの来訪者が3人という展開に少し驚いていた。
3人の前にお茶菓子の苺大福を出して、お茶の準備をしにキッチンに立つと、母親がスッと隣に並んだ。
「キリちゃん、3人も同時なんて……「違っ…」……やるわね♡」
「……………違うから。1人だから」「そうなの?…じゃあどの子かしら?」
母親は居間の方をチラチラと覗いている。
真一郎くんは背筋を伸ばして正座している。かなり緊張しているのか、壁の一点を見つめたまま固まっている。
イザナくんは一般家庭に興味津々なのか、キョロキョロと部屋を見回してから、苺大福に手を伸ばして、パクッと一口頬張った。初めて食べるのかキラキラと大きな目を輝かせている。
マイキーくんはイザナ君と同じく胡座で一番リラックスしているようで、苺大福を大きな一口で頬張ると、ハムスターのように頬袋を膨らませている。もちゃもちゃと咀嚼しながら、真一郎くんの苺大福にも手を伸ばして奪い取った。
そんな様子を見ながら、母親は探偵のように口元に指を当てながら、私の彼氏が誰か推測している。
「金髪の子はキリちゃんより年下かしら?キリちゃんはしっかりしてるし、姉さん女房で引っ張っていってあげるのも向いてるわね。銀髪の子はキリちゃんより少し上かな、あの位の年齢で哀愁漂わせてるなんて…キリちゃんと似たとこあるわね。年齢より落ち着いたカップルって感じになりそうね。黒髪の子はキリちゃんよりもだいぶ上に見えるし、どちらかの保護者の人かしら?」
勝手な予想を口に出す母親を残して、淹れ終えたお茶を盆に乗せて居間に向かう。
お茶を出していると、母親がパタパタと居間に戻ってきて私の隣に座って、さて、と言った感じで3人を順に見る。
イザナくんとマイキーくんが顔を横に向けて真一郎くんの方を向く。私も真一郎くんの方に顔を向ける。
「ひゃじめ…、まして。佐野ひん…いちろうといいます」
(((噛んだ…しかも2回も…)))
顔を向けていた3人の脳内に一言一句同じ言葉が浮かぶ。
「き、き、キリコさんと……お付き合いさせていただいてましゅ」
(((…また噛んだ!!!)))
「まぁ、貴方がキリちゃんの彼氏さん?」「はい!!……あの、キリコさんよりも年上なんですが、俺…真剣なんで!!」「はい、キリちゃんをよろしくお願いします♪」
あっさりと承諾されて、真一郎くんはポカンと口を開いたまま固まってしまった。年齢だとか色々と反対されることを想定していたんだろうけど…。
「年上の彼氏さんがいるなら、春から一人暮らしになっても安心だわ♡」
「へ?………一人暮らしって何の話?」「あら?話してなかったっけ?」
突然母親から爆弾を投下された…。この母親に常識を求めることは諦めたけど、そんな大事なこと………報連相って知ってる?
どうやら母親は例の彼氏と結婚して、彼の地元に戻ることに決めたらしい。彼は裏社会に片足を突っ込んでるので、足を洗って地元で稼業を継ぐそうだ。キリコがまだ中学生だから、せめて高校までは待とうと彼は言ってくれたらしいが…「キリちゃんは私よりもしっかりしてるから大丈夫」と母親が押し切ったらしい。
今までも一人暮らしと変わらない生活だったし……まぁいいか。この母親を一般的な母親の概念に当てはめようとしても無駄だ…と諦めた。
実は決め手になったのは、地元の稼業っていうのが有名な造り酒屋だそうで……日本酒送ってもらえるじゃん♪
意外にも第三者もこの爆弾に食いついてきた。
「キリコ一人暮らしすんの?家探すならパーちんに言えばいいぞ!」「引越しで人手がいるなら、部下を出すから!」
前のめりで提案してくるマイキーくんとイザナくんとは対照的に真一郎くんは黙り込んだままプルプルしている、かと思ったら…
「中学生が一人暮らしはダメ!!!!!!」
突然の反対発言に他の人の言葉が止まる。
「…………一人とか危ないから…それなら……うち部屋余ってるから」
今度は真一郎くんが爆弾を投下した。
真一郎くんの発言に一気に形勢が変わった………。
「そうだよ!キリコ!!うちに住めばいいじゃん!!」「いや、そんな…ご迷惑になるし……」「それなら俺もマンション引き払ってそっちに住む」
「いやいやいやいやいやいや、待って!!!!そんなの急に決められることじゃないでしょ!!!」
「うちに来れば、エマがご飯作ってくれるぞ」「うっ……それは………」
マイキーくんの魅力的すぎる提案に心が揺れる。
「俺ともいつも一緒にいれるしな」「………………」
真一郎君の発言に揺れた心がスンと止まる。
「仕事の送り迎えもしてやれるぞ」「うううっ…………」
イザナくんの提案にまた心がグラグラと揺れる。
「俺と一緒だぞー」「………………」
「じゃあ、いつご挨拶にお伺いしましょうか♡」
母親の中ではすでに決定事項になってしまっていたようだ。真一郎くんの発言にキャ♡と少女のような表情を浮かべていた時点で、私がゴネても無駄だんだろうな……。
ノリノリの佐野兄弟に押される形で、あれよあれよという間に佐野家に居候することになった。エマちゃんは喜んでくれたし、万作さんも快く迎え入れてくれた。
同じタイミングでイザナくんも事務所の近くに借りてたマンションを引き払って、佐野家に住む様になった。一気に賑やかになった佐野家での居候生活が始まる。
同棲じゃないから……私はあくまで居候。
新学期前に引越しを終えたのだが、転校はせずに前の学校にそのまま通うことにした。エマちゃんと同じ学校に通うのも楽しそうだけど、授業中は貴重な睡眠時間なので……今の学校で築き上げた睡眠環境を捨てることができなかったのだ。授業中に枕とアイマスクで寝てても何も言われない環境って最高じゃん。
ちなみにマイキーくんは無事高校に進学した。三ツ谷先輩も同じ高校の服飾科らしい。ドラケンくんとイヌピーくんも同じ高校だが、定時制で夜に通いながら昼間は真一郎くんのバイク屋を手伝うらしい。真一郎くんが学生時代は貴重だから高校卒業してから働けばいいと言ったらしいが、すぐに働きたい2人と意見が合わずに妥協案として定時制となったらしい。ちなみにマイキーくんはドラケンが定時制だっていうのを知らなかったようで、合格発表で聞かされて拗ねていた…。
マイキーくん1人で学校とか……大丈夫かな?
真一郎くんとイザナくんは新年度とはいえ、社会人なので特に生活が変わることはないようだ。
新学期も始まって、佐野家の居候生活にも慣れてきた。他人の家に一緒に住むので、色々大変かと思っていたのだが……想像以上に快適だった。
朝はエマちゃんが美味しい朝食を作ってくれる。朝食の手伝いを申し出たが、それよりも…と頼まれたのは兄弟達を起こす係だった。
真一郎くんは最初のうちは私が起こす度に驚いて飛び上がっていたが、最近は慣れてきたのか…寝起き顔に甘い声で「おはよ」とか言ってくる。一応付き合っているし、甘い雰囲気に応えてあげるべきなのかもしれないが……正直それどころではないのだ。
だって次に起こしに行くマイキーくんが大変だから!!寝ぼけたまま猫みたいに擦り寄ってきて腰に腕を回して、寝ぼけているとは思えないほどの力で布団に引っ張り込まれるのである。初日にそんな目にあって、イザナくんに救助させるという手間を煩わせてしまった反省を活かして、起こし方を模索中である。
人を目覚めさせるには外部からの刺激が有効である。特に五感に刺激を与えると良いとされている。
ということで、普通に電気をつけたり、強めに揺さぶってみた。
全く効果が無かった……。なので、もう少し刺激を強くしよう。
アンモニア成分を含む薬品を染み込ませた布を顔の前で振ってみた。身動ぎをして匂いから逃げようとするので、そこに医療用のペンライトの光で追い討ちをかける。タオルケットを使って光を遮ろうとするが、使い込まれたタオルケットは目が荒くなっていて防ぎきれなかったようだ。最後に仕上げとして、顔に水を数滴垂らす。
結果、飛び起きた。成功だ。
でも…飛び起きたというか、飛び蹴りをかましながら起きた、が正確な表現だった。一応反撃に備えて、水滴を垂らした後すぐにベッドの陰に避難したので、蹴りを食らうことはなかったけど…危険なのでもうやらない。
毎朝こんな死闘は避けたいので、ベストな起こし方を誰か教えてほしい…。
ちなみにイザナくんは起こしに行く前に起きている。なんなら、起こしにきてくれる…ベッドに潜り込んで寝顔眺められるのは恥ずかしいから辞めてほしい…。
朝から大変な仕事を終えて朝食を済ませると、各々が学校や職場に向かう。私は学校が遠くなってしまったのだが、マイキー君の学校と同じ方面ということもあってバイクに乗せて送ってくれる。
近くまででいいって言ってたんだけど、いつも校門前まで送ってくれる。マイキーくんはウチの学校でも有名人だから……毎朝目立つので勘弁してほしいが、まぁ送迎なしで歩いて通うのは面倒なので我慢する。
すでに学校で私はある意味目立ってるらしい…。
新学期早々に担任に呼び出されて、今後の授業態度について注意?を受けた。
3年になって受験を控えているので、周囲への影響を考えて、寝る時は教室じゃなくて保健室を利用するようにと…。単位は保健室登校だか何かの措置で何とかなるそうなので、遠慮なく保健室のベッドで寝させてもらおう。やっぱり転校しなくて良かった!先生、卒業までよろしく!!
放課後はマイキーくんかイザナくん、一虎くんの誰かがお迎えに来てくれる。
家に帰る時はマイキーくん、黒龍の会社へ行く時はイザナくん、間医院か往診に直行する時は一虎くん。恵まれすぎてて、私ってどこかの国のVIPだったっけ?って勘違いしそうになる。
ちなみに一虎くんも高校に進学して、間医院でのアルバイトを継続している。通常の診療時は受付をしていて、「トラちゃん」って呼ばれておば様達のアイドルなんだそうだ。「良かったね、女性にモテたいって言ってたもんね」って言ったら、以前ならすごい嫌そうな顔をしていたと思うけど、「んー、おばちゃん達みんな優しいし、モテ期来てっかもな」って笑ってた。最近一虎くんの成長が著しい!!
裏の診療はほぼ私が引き継いだので、通常診療の合間に師匠から獣医学について教えてもらっているらしい。空き時間は私の送迎をして、助手として手伝ってくれるようになった。内面もそうだし、学力面でも急成長が著しい。今まで真面目に勉強していなかったからか、吸収率がすごくて、私も師匠も教えるのが面白くなってきてしまっている。
ちなみにココくんに私のスケジュール調整と依頼管理をしてもらっているでの、以前のような過密スケジュールで廃人になることもないだろう。闇医者という仕事柄、深夜などの仕事も多いが人間的な生活は送れている。
エマちゃんと夕食を作ったりもすることもあるし、万作さんと囲碁や将棋を指したりする時間もある。マイキーくんとイザナくんは送迎中に寄り道してお茶とかしたりもしている。以前に比べてQOL爆上がりなのだ!!!
今日は深夜に往診が1件あるだけで、珍しく夕飯には全員が揃っていた。エマちゃんが作ってくれた美味しそうなご飯が食卓に並んで、みんなで仲良く…おかずを奪い合いながら食事をしていた。
そんな中、真一郎くんが突然お箸を置いて、バンと机を叩いて叫んだ。
「家族会議だ!!!!!」
真一郎くんの挙動に全員の箸が一瞬止まったが、発言を聞くと、全員が何事もなかったかのように食事を続けた。
「そうだ、キリコ、後で鶴蝶が決算報告書持ってくるから一緒に確認してくれ」「了解〜」
「俺も宿題あんの、手伝って」「マイキーずるい!うちも数学教えて欲しいんだけど」「いいよー、じゃあ一緒にやろう」
「あっ、万作さん、食事終わったら血圧測りますね」「あぁ、頼む」
「お前ら!!!俺の話を!!!聞け!!!!!」「「「「うるさい」」」」
あ、拗ねた。わかりやすいくらいにいじけてる。他の人達は真一郎くんがいじけようが一切気にもとめないように食事を続けている。むしろ箸が止まっている間に真一郎くんのおかずを奪ってたり、嫌いなものを真一郎くんの皿に乗せたりしている。
「……夕飯終わったら一回私は席を外すので、家族会議なり何なりやってください」
食事が終わらないと片付けも出来ないので、仕方なくと言った感じに私がそ告げると、真一郎くんはこちらを見て駄々っ子のように首を振った。
「違う!!話したいのはキリコちゃんのことだから、居てくれなきゃダメなの!!!」
全員の視線が冷たい視線が真一郎くんに向かう。…まぁ私も同じ温度で真一郎くんを見てるけど。
「みんな忘れてるかもしれないけど、キリコちゃんは俺の彼女だから!!一緒にすんでるのに俺との時間全然ないのおかしくない?もうちょっと気遣いとかないわけ?」
「「「「「ご馳走様でした」」」」」
真一郎を残して全員が呆れながら食卓を離れた。
万作さんの血圧を測って、宿題を持ってきたマイキーくんとエマちゃんの隣でわからないところを説明していると、イザナくんがコーヒーを淹れてくれた。しばらくすると鶴蝶くんが来たので、イザナくんと並んで報告を聞いた。
そろそろ往診に向かう時間だと時計を見て立ち上がると、イザナくんとマイキーくんも立ち上がって送ると言ってくれた。どっちが送るかで言い争っているのを聞きながら、部屋の隅に視線を移すと、一足早く梅雨入りしたかのようなどんよりとした空気を纏って部屋の壁を指でなぞっている大きな子供がいた。
チラチラとこちらを見てくる姿にイラッとした。言いたいことあるならハッキリ言えばいいのに…。私と同じことを思ったのであろうエマちゃんが立ち上がった。
真一郎くんの側までいくと、真一郎くんの頭の上からメットを落とした。
ゴチンッッと良い音が響いた。
「真にぃ、ウザい。一走りしてスッキリしてくるまで帰って来ないで」
真一郎は衝撃でチカチカと星が飛んでいたのだが、妹の直球すぎる厳しい言葉に頭を摩りながら立ち上がった。
そのまま私の腕を取って、言い争う弟達の脇をスッと抜けて家の外まで引っ張っていった。
真一郎くんのバイクを置いてあるところまで引っ張って連れて来られて、途中で慌てて掴んだ上着と荷物を身に付けていると、ズポッとメットを被らされた。メットの顎紐をカチッと止めてくれた手はそのままギュッと抱きしめられた。
「あー……さっきはごめん。なんか俺全然余裕なくて…キリちゃんがイザナとか万次郎と仲良くしてんのに……妬いた」
素直に気持ちを吐露されると、さっきのイラつきも消え失せて……ちょっと母性本能くすぐられた。残念ながら私は真一郎くんみたいに素直になれないから、背中に腕を回して答える位しかできないけど。
「今日の仕事って遅くなる?」「いえ、診察とかだけなので遅くないですよ」「じゃあ帰ってきたら晩酌付き合ってくれる?ベンケイからいい酒もらったんだ」「未成年に飲酒勧めていいんですか?」「うっ…………ちゃんと責任は取るから」
最後だけ真っ直ぐな声色で抱き締める力が強くなった。きっと無意識にしていることなんだろうけど……そういうとこ、ほんとズルい。
主です!
久しぶり!前の話とは違う作品?というか前のストーリーとは繋げずに書きます。でもストーリーは続きですのでご安心下さい♪
❤️1007です♡
コメント
4件
お久しぶりです‼️ お話とっても楽しみにしてました とっても面白かったです‼️ 続き楽しみに待ってます 頑張ってください(๑•̀ㅂ•́)و✧
お久しぶりです!!! 楽しみにしてました!!! 真一郎君の嫉妬かわいい♡ これからも頑張ってください!!!