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お久しぶりです‼️ ずっと楽しみにしてました〜‼️ 今回も本当に面白かったです 続き楽しみに待ってます✨ 頑張ってください💪
お久しぶりです!!! 今回も最高です!!! 武臣、女らしさの強要は駄目だとやっと気づいたか… 次も楽しみにしています!!!
コンコンとノックして訪れたのは市民病院の病室だった。ベッドに寝たままで我々に片手を上げてくれるのは明司さん。普段はぴったりと後ろに撫で付けられたオールバックだが、緩く流されただけのようで顔まわりに髪の毛が落ちてきている。事故の連絡をもらって、真一郎くんと一緒に見舞いに来たが、思ったより元気そうだ。
真一郎くんの「大丈夫か?」という問いかけにも、笑いながら答える余裕もあるので心配はなさそうだ。明司さんが差し出してきた診断書を確認すると大腿骨の骨折のみだそうだ。
「なぁ、キリコ。仕事帰りの事故だったら労災降りるんだよな?」タバコを咥えながら聞いてくるので、咥えたタバコを奪い取って、ついでに手元の箱とライターも合わせて没収した。
「仕事の帰路なら労災対象ですよ……でも寄り道して飲みに行ったりしてないですよね?」「え…?一件くらいだから酔ってねぇよ」「酩酊具合は関係なくて…日常生活に不要な寄り道しちゃうと帰宅中って扱いにならないので、労災はおりないはずですけど」「マジで…?」「……その辺は専門の人に確認してください」「くっそ…認められなかったら、ブラック企業だわ」
拗ねた明司の言葉にピクッと反応する。
その程度でブラック企業だと……?私がオーナーの株式会社黒龍をブラック企業だと……?
この体に転生する前に超絶ブラック勤務の病院で働いて倒れて、たぶん死んだ私の前でよくもそんなことを言えるもんですね…。そんな経験もあって自身がオーナーを務める企業は白くあれ!と色々頑張っている私の前で……。
「き、きりちゃん?顔…こわいぞ…。武臣!!お前それは自己責任だろうが!!」
隣にいた真一郎くんが怒りでドス黒いオーラを醸し出している私を心配して、明司さんの足をバシンッと叩いた。
「真一郎くん、大丈夫ですよ。うちは純白のホワイト企業なので〜。社員の健康もしっかり管理してきますよ〜明司さんはタバコもお酒も大好きみたいだし、せっかくの機会ですし体の隅々まで検査してもらいましょう。悪いところ見つかるまで入院してもらいましょうか?もちろん病院内は禁酒禁煙ですけどね」
にっこりと笑顔で言いながら、先程没収したタバコをグシャと握り潰してゴミ箱に落とした。
「悪いとこ見つかるまでって……言ったか?」「俺もそう聞こえた………おい、早く謝れ!!!」
「おーい、着替え持ってきたぞぉ!」
不穏な空気の病室にノックもなく扉を開けて入ってきたのはワカさんだった。その後ろからベンケイさんとセーラー服の美少女が続いて入って来た。
薄いピンクのふわふわしたショートボブの女の子は武臣さんに荷物の入ったバッグを投げつけた。ふわふわした見た目と行動のギャップに目を丸くしていると、私に気付いたようだ。
「誰?武臣の彼女?…ロリコン?」「違ぇよ!!真の彼女だよ!!ロリコンは真一郎だ!!」「ロリコンじゃねぇわ!!……まぁ俺の、彼女だけど」
真一郎くんが照れながらこっちを見てくるんだけど…さっきから私ロリ扱いされまくってる?誰もそこは否定してくれないんだ…。まぁ真一郎くんとの年の差を考えれば仕方ないか…。
「はじめまして、手塚桐子です……ワカさんの妹さん?」「あ?俺の妹じゃなくて武臣の妹の千壽」
ワカさんじゃないの?武臣さん…の妹?どっちかっていうと見た目はワカさんの方が似てる……。
ワカさんと千壽ちゃんと武臣さんの顔を順に見て首を傾げていると、口を開いたのは武臣さんだった。
「本当に俺の妹だから。ワカのジムでもよく間違えられるし…ジムよりも女らしい習い事とかにしろって何度も言ってんのに」「千壽は才能あるんだから、そんな事言うな!!!」「才能あったって女の子なんだぞ。強くたって仕方ねぇだろう!」
明司さんの発言に口を挟んだのはベンケイさんだった。しかし「強くたって仕方ない」という発言はベンケイさんだけじゃなく、他の人の導火線にも火をつけた。
「てめぇ、そういうのは千壽よりも強くなってから言え」「女でも強くたって良いだろう!!」「女だって強いほうがカッコいいでしょうが!!」
ワカさんの反論に被せるように言い返したのは、千壽ちゃんと私だ。
明司さんは、また始まったとばかりに頭をかいて呆れているようだ。
「俺は兄貴だから妹には女らしくいて欲しいんだよ。真も妹いるしわかるだろ?」「え?俺?……まぁわからなくもないけど……」「だろ!!!本当にお淑やかさのかけらもねぇし、女なら可愛いものとかに興味持ってほしいだけなのに……千壽、お前最近何にハマってんだっけ?」「は?最近は……UFC?」
「何それ?」「海外の総合格闘技の団体だ。ちなみにキリコは何にハマってんの?」「最近はグラフト採取のRTA」「……え…何それ?」「えっと、血管バイパスを作るのに、血管を採取して綺麗に整えるんだけど、それのタイムアタック」「…………お前は女子力以前の問題だな」
補足説明ついでに聞いてきたワカさんだけじゃなくて、全員が私の答えに呆れ果てていた。千壽ちゃんだけはよく意味を理解できていないのか、可愛い顔でコテンと首を傾げていたけど。
「真、お前も彼女がこんなでいいのか?」「いや、キリちゃんらしいし……」「もっと女の子らしくなってほしいとか思わねぇの?」「怪我した時とか大丈夫ですか?痛くないですか?って聞かれて優しくしてほしくねぇの?」「それは確かに…この前怪我した時も超的確に処置だけされたな……」
「……武臣、お前看護師にそれ言われたんだろ?」
ワカさんの指摘にギクってと肩を震わせたことで、その通りと認めているのと同義だ。
「…ま、まぁ……そうだけど、やっぱ白衣の天使ってだけあって優しいし、気遣いしてくれるし、女らしいなって思うだろ!!」
………白衣の天使ねぇ。確かに病気や怪我で弱ってるところに優しくされれば、そう見えるのかもしれないけど。元病院勤務医だった私は知っている、彼女達にとって白衣は戦闘用の鎧なんだと。
看護師が患者に優しいのはそれが仕事だから。バイク屋がバイク売ったり、警察が悪い人捕まえたり、暗殺者がターゲットを殺すのと同じ。結局は金の為なんだよ。もちろん人を救いたいとかって気持ちもあるだろうけど、看護師の仕事は重労働だし、ミスも許されないシビアな世界だし、面倒な患者や医者を相手にストレスだって溜まるだろうし、女性が多い職場なので女の確執やら色んな面倒ごとも処理していかなきゃいけない。給与は他の職よりもいいのは専門職だからというだけではないと思う…。
メンタルも経済的にも強い看護師を女らしいというのか…。
そんなことを考えていたのだが、男性的にはやはり看護師という職業は魅力的なのか武臣さんだけでなく、真一郎くんとワカさん、ベンケイさんまで納得していた。まぁAVでも人気ジャンルみたいだし…男性人気は高いでしょうね〜。
「ねぇ、千壽ちゃん…エロオヤジは放っておいてアイス食べに行かない?」
好物でもやけ食いしよう声をかけてみたら、アイスという単語に目を輝かせてくれたので一緒に病院の売店に来た。冷凍庫のアイスを物色しようとしたが、千壽ちゃんの姿が見えないので売店から出て探してみたら、自動販売機の前にいた。懐かしいアイスの自動販売機だった。
チョコミントのアイスをスッと差し出されて、同じチョコミントを持った千壽ちゃんがニカッと笑いながら「これオススメ」と差し出してきた。「ありがとう」と受け取って、病院の中庭のベンチに移動してアイスの包装をペリッとめくる。子供の頃にスイミングスクールの後によく買ってもらったなぁ、なんて思い出しながら懐かしいチープな味を堪能する。
「武臣がなんかゴメンな…昔っから女らしくしろって言われてるんだけど、兄弟もチームも男ばっかで女友達とかいねぇから女らしくってわかんなくて…」
アイスを舐めながら千壽ちゃんが申し訳なさそうに呟いた。
「女らしくって…どっかに手本でもあればいいんだけど…」「千壽ちゃんは女らしくなりたいの?」「あー……なれるなら、だって女らしくなれば武臣も…」「武臣さんに言われたから女らしくなりたいの?そんなの別に無視しといても…」「武臣にギャフンと言わせられるかなって…」「ギャフン!?……武臣さんを見返してやりたいだけ?」「うん♪」
武臣さんに言われたから女らしくなりたいって言うのかと思ったら…武臣さんを見返すだけの為だけって…しかもギャフンって……。
そういうことなら…全力で協力する!!
協力を申し出たら嬉しそうに笑顔で携帯を差し出してきたので、そのまま連絡先を交換した。女らしさは私から教えられることなんて何もないし、作戦を立てて連絡すると伝えた。
▽
後日、千壽ちゃんを呼び出した。休日なのに千壽ちゃんは制服姿だった。どうやら制服とチームの服しかないらしい。
今からいくところを考えると少しまずいかもしれないが……まぁいいか。
渋谷の繁華街にある雑居ビルのエレベーターに乗り込む。ビルの前にはいかがわしい看板が並んでいた。目的の階で降りると、受付までツカツカと進んでいく。
「たのも〜!」
受付でこちらを見ずに座ったままの人物に声をかけると、怪訝そうな顔でこちらを振り返ったのはドラケンくんだった。
「な…おま……は?………ちょ…こっち入れ!!」
動揺を隠しきれないドラケンくんは受付の隣の扉を開くと、私と千壽ちゃんを受付の奥に押し込んだ。
バイク屋での仕事を始めたが、たまに実家の方でも手伝いをしていると聞いていたので、ドラケンくんが居る時間を見計らって訪れたのである。一応忙しくないように夕方の時間帯を狙ったので、受付には他に誰もいなかった。
「お前、ここがどんな店か知ってんだろ?未成年立ち入り禁止!!」「ドラケンくんだって未成年だし…。あっ、こちら、千壽ちゃん♪」
突然自己紹介された千壽ちゃんは「ども」と頭を下げるとドラケンくんをジーッと見ていた。ドラケンくんも応じるように会釈を返すが、すぐにこちらに向き直った。
「何しに来たんだよ!!しかも制服の奴とか連れてくんな!!危ねぇだろ!!」「何しにって……お色気修行?私たちに女らしさを教えてください!!」
きちんと説明していなかったからか、千壽ちゃんもそういうことかとやっと理解したようで、私に倣って頭を下げた。ドラケンくんは、はぁーっと盛大なため息を落として椅子にどすんと腰を下ろした。
「キリコ、ここはお色気修行する場所じゃない。修行を終えた猛者達が実践する場所だ。わかるか?」「はい!なので師匠になってくれそうなお姉さんを紹介してください!いくらでも出します!!」「金出せば話してくれる奴はいるだろうけど……お前に変なこと教えたら、後でどやされんの俺なんだって…」
「東卍のドラケン?」
突然割って入ってきた千壽ちゃんに、そういえば千壽ちゃんのことは紹介したけど、ドラケンくんの紹介はしてなかったと思ったのだが…あれ?知り合い?ドラケンくんの方をジッと見ると、「そうだけど……えっと…」と呟いているので、知り合いではなさそうな雰囲気である。
「ジブンは瓦城千咒だ」「え……あの無比の……?」
千壽ちゃんが頷くと、ドラケンくんは驚いた顔で千壽ちゃんをじっと見た。
「……キリコだけじゃなく瓦城千咒も一緒とか。絶対無理だわ……俺何回殺されることになんだ?…… お前らすぐに帰ってくれ!!今すぐにここから帰れ!!お前らのセコムに見つかっただけでもヤベェから!!!!!!」
ドラケンくんが焦って受付どころか店から押し出そうとしてくる。「女らしさ教えて〜!!」「教えろ〜」とドラケンくんにしがみ付いて抵抗する。
振り払おうとするが、私には力を入れると怪我をさせるかもしれないし、千壽ちゃんは力を入れないと引き剥がせないという状況に苦戦しているようで…再び、はぁ〜と盛大なため息が聞こえたので、これは押し勝った!と思ったのだが…。
「女らしさなら俺んとこよりも適任者がいるだろうが…」
しがみついたままでドラケンくんの顔を見上げると、適任者の名前を言われて、すぐに納得してパッと腕を離した。千壽ちゃんはよくわからないようだが、私が離れたので同じように腕を離して、きょとん顔でこちらを見てくる。
「よし、じゃあ新しい師匠のもとへレッツゴー♪」と私が拳を掲げて歩き出すと、「おー♪」と言いながら後ろを付いてきてくれた。
ドラケンくんは台風のように去っていった二人を見送ると、「はぁ…まじで災難だわ」と呟きながら、しがみつかれていた腹を摩った。ちなみに千壽ちゃんがしがみ付いていたところは赤くなっていたそうだ……私のところは無傷だったらしいけど。
▽
千壽ちゃんと共にドラケンくんの実家を後にして向かったのは、私の知り合いの中でお嫁さんにしたいランキングダントツNo.1のお宅。
そうだった。AVとかの話に惑わされていたが、兄が妹にお色気増強を求めるなんてことはないだろう。そうだ、方向性を間違えていた。向上すべきは夜の戦闘力ではなく女子力だ。
「と言うわけで……たのも〜!!」
インターホンを鳴らして出てきたのは三ツ谷先輩。おかしな挨拶に「どうした?」と言いながらも、千壽ちゃんと二人を家に招き入れてくれた。ルナマナちゃんはお友達の家に遊びに行っているらしく不在だった。
ルナマナちゃんに手土産として持たせた残りだという手作りクッキーと紅茶を入れてくれた。
「千壽ちゃん、これだよ!!!こういうのを学ばなきゃなんだよ!!!」「クッキーって…作れるんだ………」
「あのさ…食べながらでいいから、何しに来たのか説明してもらっていい?」
三ツ谷先輩に言われて、千壽ちゃんの紹介とここにきた経緯を簡単に説明して、「弟子にしてください!!」と二人揃って頭を下げた。
三ツ谷先輩は少し伸びた髪をポリポリと掻きながら困った顔を浮かべた。
「別に料理とか裁縫とか教えるのはいいんだけど、明司さんの考えは俺は理解できねぇかな」「大丈夫です、それは私もそうなんで。男はこうあるべきだとか、女なんだからとかって昭和な思考は無理です」「そうだよな…別に男とか女じゃなくて、得意なことすりゃいいだけだしな」「ジブンは…小さい時から女らしくって言われ続けたけど、何が女らしいかは全然教えてくれなくて……よくわかんねぇけど、武臣のいう女らしいってのが向いてなさそうなのはわかる…」「ちなみに千壽ちゃんは料理とかするの?」「卵焼き作ろうとしたら、レンジが爆発した………」
三ツ谷先輩と顔を見合わせて、うん、これはダメなやつだわ、と理解した。
「服も流行りとかわかんないし、何が似合うのかもわかんねぇから、兄貴のお下がりばっか着てたし」「それは勿体無ぇって!!!!」
突然雄叫びのように興奮して大きな声をあげる三ツ谷先輩に、私と千壽ちゃんはビクッと肩を震わせた。
「あっ、ワリィ。いや、でもスタイルもいいし、スポーティなのもガーリーなのも似合いそうなのに勿体無くて…」「ジブン、喧嘩ばっかしてるからスカートとか履かないし…」「喧嘩?……センジュって言ったよな?………もしかして梵の瓦城千咒か?」「そうだけど?」
「あの……さっきもドラケンくんが言ってたけど、明司千壽じゃないの?カブラギって?」
三ツ谷先輩も千壽ちゃんのことを知っているみたいだけど、どういうことかわからないので口を挟んだ。すると、千壽ちゃんは梵というチームのトップだと教えてくれた。
「え??千壽ちゃんって暴走族のトップだったの!?そんなに可愛いのに?喧嘩できるとは思えない程の細腕なのに…たくさんの男達を率いてるんだ…凄いね」
正直に思ったままの感想を述べると、ニカッと笑って力こぶを作ってくれた。
「キリコ……お前も大概だからな。腕力はねぇけど、黒龍で元天竺の連中や大量の族上がりの荒れくれ物共率いてんだからな」「黒龍って武臣のとこの会社?」「あぁ、キリコはそこのオーナー」「え??キリコってすげぇんだな!!武臣の上司じゃん!!」
さっきの千壽ちゃんと同じようにニカッと笑って返しておいた。
「…ってか、お前らは腕力とか経済力はその辺の男共よりも圧倒的に勝ってんだから、女子力とかもういいだろ」「…そういうもんなの?まぁ腕力も女子力も兼ね備えてる三ツ谷先輩に言われても…」「いや、俺は女子力とか…家事は必要だからやってただけで、自分から求めてねぇから…。まぁ、そういう女は女らしくとかっていう奴に限って自分は男としてちゃんと出来てねぇことも多いから、気にしなくていいんじゃねってこと。他に優れてることあるなら、そっち伸ばしたほうがいいだろ」
……さすが、三ツ谷先輩だ。確かに女らしくしろと言うなら、自分自身は男らしさを持っているのかを先に確認すべだった。それなら、この前読んだ漫画が参考になるな〜なんて思い出していると、悪い笑顔になってると引き気味に三ツ谷先輩に突っ込まれた。
女子力向上が必要なさそうなら、そろそろお暇しようかと千壽ちゃんに告げたのだが、私たちの肩にポンっと三ツ谷先輩の手が置かれた。何か嫌な予感をしながらも振り向くと、三ツ谷先輩は爽やかな笑顔を浮かべていた。
「女子力は上げて上げられなかったけど、アドバイスしたり協力したんだから、俺の方にも協力してくれるよな?」
その笑みは千壽ちゃんが「東卍は隊長クラスでもこの圧なのか…」と呟く程で、二人して身構えた。三ツ谷先輩からのお願いは学校の課題で作った服のモデルをして欲しいということだった。千壽ちゃんにはファッションについてのアドバイスもするからとのことで、私も断りきれずに了承してしまった。
▽
数日後には武臣さんの退院も決まって、まだ松葉杖で大変だろうからと真一郎くんが迎えに行った。その間に佐野家の庭に特注で作ってもらった大きな鍋が運び込まれる。
協力者として、エマちゃん、イザナくん、ワカさん、ベンケイさんの面々も準備に勤しんでいる。千壽ちゃんも計画を話すと面白そうとノリノリで準備をしている。何もしらないのは武臣さんと真一郎くんだけだ。
計画なんて大層なものではないのだが、三ツ谷先輩のいうとおり男らしさを見せてもらうだけである。参考にしたのが、真一郎くんの部屋にあった男塾という漫画なので、きっとターゲットの二人も説明しなくても理解してくれるだろう。漫画の中では色々な男塾名物があるが、今回は油風呂を用意した。
漫画の中では、油を満たしたタライを火にかけて、熱された油の風呂に入って熱さに耐えるというものだ。ちなみに根性がなくて暴れたりすると、タライに浮かべた蝋燭が倒れて油に引火してしまうという不屈の精神を試すものらしい。昔の少年漫画って色んな意味で熱いねw
ワカさんとベンケイさんに話をした時には、マジで油風呂見れんの??と興奮ぎみに食いついてきた。もしターゲットが根性無しだった場合に備えて、大量の消化器と氷水、全身やけどにも対応できるだけの薬も抜かりなく準備している。
油を注いで火を焚べるのは二人が帰ってきてからにしようということで、必要なものを庭に並べて準備だけ整えて待った。
真一郎くんの店の車が到着すると、中から二人が降りてくる。退院祝いをしてもらえると勘違いして呑気に歩いてくる二人を庭に呼ぶ。
庭に置かれた1m以上ある大きな鍋や油の缶を二人は怪訝そうに見ている。
「これ何?芋煮会でもすんの?」
鍋を指差しながら真一郎くんは尋ねてきた。ワカくんとベンケイくんはすでに笑いが堪えきれずにお腹を抱えている。
「武臣さんは千壽ちゃんに女らしさを求めてるじゃないですか、それならご自身にも男らしさを見せてもらおうと思って」
そこまでいうと、武臣さんは並んでいるものから何かを悪い予感を感じたのか逃げ出そうと踵を返す。しかし、松葉杖ではまともに走ることもできずに、ワカさんとベンケイさんにすぐに捕まった。必死に抵抗している様子に、まだ唯一状況できていない真一郎くんが首を傾げる。
勘の悪い兄の元にエマちゃんが漫画を差し出すと、真一郎くんはやっと理解したようだ。ブンブンと手を振って、「いや、それはダメだって!!!!武臣退院したばっかだし!!!」と叫んだ。
同じようにワカさんたちに捕まっている武臣さんも「俺は男塾生じゃねぇから!!!!無理無理無理無理無理無理無理無理!!!!」と必死に抵抗している。
仕方ないので、千壽ちゃんの手を引いて、武臣さんのところに近づいた。
「武臣さん、男らしくないですよ〜。千壽ちゃんに女らしさ求めるなら、ご自身も……ねっ♪」「いやいやいやいや、そんなこと言っても…これは無理だって!!!俺は千壽のことを思って女らしくっって言ってただけで!!」「自分も出来ないことを人に押し付けないでください」「………悪かった。もう言わなぇから、マジで勘弁してくれ!!!!」「ですって、千壽ちゃん、どうする?」
もう言わないと言質取れたので一件落着……と思ったんだけど…
「………ジブンは油風呂見たい」
まさかの千壽ちゃんが男塾にハマってしまったようで、生油風呂に目を煌めかせてしまっていた。
流石に医者として止めたよ。
「千壽ちゃん、きっと武臣さんだと速攻で火だるまになるから…そしたら火傷の手当てとか私の仕事増えるから勘弁して」と。
そしたら渋々ながらも了承してくれた。代わりにまたアイス食べに行こうって言われて、可愛くてキュンキュンした。
火だるまにされかかった二人は、そんな私たちの発言を聞いてか、彼女らには女らしさの前に教えなくてはいけないものがあると思ったとか。
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手塚桐子(てづか きりこ)
中学3年生、兼闇医者、兼株式会社黒龍のオーナー、兼佐野家の居候。「女子力は金で買うもの」と転生前に女医の先輩から教わった。高級化粧品やエステやらで見た目の女子力は買えることを知っている。中身の方の女らしさ?それは転生しても無理だったから来世に期待…。
千壽
何かキリコとはウマの会うし、面白い遊びに誘ってもらえて嬉しい。「これが女子会ってやつか?」と勘違いしているうちは女子力は上がらない。油風呂の一件以降、エマとも仲良くなって女の子ってこういうものかと初めて知って衝撃を受けた。
明司武臣
飲んだ帰りに車に轢かれて足を骨折して入院。見舞いにきてくれた仲間とダベってただけなのに、退院祝いに油風呂を用意されてしまった。妹のことを思って言い続けていたことだが、良くなかったとやっと気づいた。二度と女らしくとか口に出さないと決意した。
真一郎
ダチの見舞いに行っただけなのに巻き込まれた。別にキリコに女子力を求めている訳ではないが、恋愛初心者なので女の子に夢を見ている部分はある。まさか自分の持ってる漫画を再現しようなんて思考に至るとは思いもしなかったが、キリコならやりかねないとも思ったとか。亭主関白に憧れもあったが、そんな理想は速攻で封印した。キリコにバレたら男塾名物の餌食になる…。
ワカ、ベンケイ
見舞いの時には一緒にAV談義に参加したが、別に女に理想は抱いていない。キリコからの仕返しには面白そうと参加したが、思ったより本気だった…。でも消火器やら手当ての準備までしているところがキリコらしいよな〜と自分は安地にいるので呑気に笑ってた。
ドラケン
突然修行に来られて焦った。特に千壽がセーラー服で来たので、一瞬面接かと思ったとか。客がいない時で良かったが、キリコにもしものことがあったら佐野家総員で潰されるところだった。しかも一緒にきたのが梵の千咒って…初代黒龍からも潰されるじゃねぇか!!!二度と実家には来んな!!!と強くキリコに言い聞かせた。
三ツ谷
突然修行に来られても通常運行。ジェンダーレス思考の良妻賢母。特に何もせずにお茶だけで帰っていったが、美少女モデルをゲットできてラッキー☆あの二人を餌にすれば男性モデルはいくらでも掴まるだろうというところまで考えていた策略家。
随分と間があいてごめんなさい💦