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「アルバムだけじゃなく、記念樹まで……」
その先は言葉にならずに、そよぐ風に梢を揺らす木を、彼はただじっと眺めた。
「このお庭そのものが、お父様みたい……」
「ええ…本当に。まるで父の想いに抱かれているようで……」
色とりどりに咲く花を見つめていると、彼のお父様が種や苗から丹精を込めて育てたのだろうことは、容易に想像がついた。
「父は、私には内緒でここへ来て、この庭の手入れをしていたんですね…」
「ええ…」と頷いて返すと、
「あの人は、私をどこまで泣かせたら……」
彼が呟いて、木の幹にゆらりと凭れ掛かると、滲む涙に目元に片手をあてがった……。
「これからは、あなたと一緒にここを守っていけたらって……」
言いながら、涙のつたったその頬へ手を添えると、
「ええ…ずっと、二人で共に守って……」
頬にあてた私の手に、そっと自分の手を重ね合わせた彼が、
「父の想いを、絶やさないように……」
いつからこの人はこんなにも柔らかに笑うようになったんだろうと思える、温かで幸せな微笑を浮かべた──。
この笑顔も、ずっと大切に守っていきたいと感じながら、
「……それともうひとつ、私からあなたに伝えたいことがあって……」
そう、切り出した──。
「なんですか?」と、首を傾げる彼の耳に唇を寄せて、
「……赤ちゃんができたみたいです」
いつ伝えようかと思っていたことを、彼へ話して聞かせた──。