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「たーだいまっと。」
学校を終えまっすぐ帰って来た千春はハイウエストジーンズとトップスのラフな格好に着替える。
「今日は塩と砂糖と胡椒・・・紅茶も持って行くかなー。」
そして扉を開けると侍女2人とローレルが部屋にいた。
「ただいまー。」
「「おかえりなさいませ。」」
「こんばんわチハルさん。」
3人は笑顔で挨拶を返してきた。
「ローレルさん久しぶりー報告は無事おわった?」
「はい、後日ハース伯爵が現地の者を連れて来るそうで、そこで詳しく話をするそうです、それ次第でまたお聞きする事も有るかと思いますので。」
「了解!その時はこの部屋の方がすぐスマホで調べれるし、ココでお願いしていいですか?」
「はい分かりました、でもこの部屋は異世界の門が有りますから隣の部屋にしましょう、改築も進んでいますから、あと魔法の基礎をお教えしてませんでした、申し訳ありません。」
苦笑いをしながらそう伝えると深々と頭を下げた。
「メグ様に何か言われました?」
そう言いながら荷物をテーブルに置く。
「それはもう・・・コッテリと絞られました。」
「あははは!どんまーい!」
ケラケラと笑いながらローレルを励ます千春だが、ローレルは泣きそうだ。
「それでローレルさんはその報告だけで待ってたの?」
「はい、そうです大事な案件なので報告にとお待ちしてました。」
「それじゃ私たちは厨房に行きましょうか。」
「チハル今帰って来たばかりでしょう?一息吐いてからでも良いのでは?」
サフィーナは直ぐに移動しようと言う千春を気遣っていた。
「んー、あ、それじゃこの紅茶いれてくれる?向こうで買って来たんだー。」
紅茶を渡すとサフィーナは蓋を開ける、軽く香りを嗅ぎ準備を始めた。
「それじゃ私はこの調味料を持って行きましょうか?」
モリアンが持ってきた塩とかを持ち上げた。
「あ、モリアンそのままここに入れて頂戴。」
そう言ってアイテムボックスを開く。
「はい、全部入れますか?」
「うん砂糖と胡椒も入れちゃって。」
モリアンはそっとアイテムボックスの窓に入れて行く。
「安定して開ける様になりましたね、練習したんですか?」
「魔力操作は向こうで毎日やってるけど魔法自体は発動できないんだよねー、出来たら向こうで入れてくるんだけどね。」
「あちらの世界では何かしらの制限か、魔法に対する負荷が掛かるのかも知れませんね。」
「まぁ今んとこは向こうで使えなくても問題無いし良んじゃない?こっちで使えれば十分だよ。」
アイテムボックスを閉じサフィーナが淹れた紅茶を飲みながら話をする。
「よし、それじゃ厨房へ行こうかー。」
「あ、チハルさん厨房は王宮の方ですよね?魔導士団の方が近くないですか?」
「そっち知ってる人居ないし、王宮の方なら王様達も食べれるじゃない。」
「そう言えば紹介してませんでしたね。」
「うん。」
ローレルもハハハと笑い納得した、そしてローレルは職務室に戻ると帰っていき千春達3人は王宮の厨房へ向かった。
「ルノアーさん来たよー。」
「おう、いらっしゃい準備は出来てるぞ、他に何が必要か言ってくれれば揃えるが。」
そう言って鶏ガラスープを見せた。
「今日はクリームシチューっていうスープを作るんだけど、王様達の分と他の人の分も作る?」
「もし作れるなら作ってやりたいな、必要な材料は?」
「その鶏ガラスープと同じくらい牛乳ってある?」
「いや、大鍋だと半分くらいの量しか無いな。」
「それじゃその牛乳全部と倍の鶏ガラスープ使って具を多めに入れれば大鍋2つ分は作れそうだね。」
「了解それじゃ大鍋2つに分けておこう、シャリー聞いた通りだもう一つ大鍋を準備して移してくれ。」
「はい!」
今日もシャリーが鶏ガラスープを作ったみたいだ、アク取りは大事だからねーと千春も笑みが出る。
「それじゃ人参と玉ねぎジャガイモと鶏肉を使おうかな。」
「王族にも出すんだよな?ジャガイモはダメじゃないか?」
「なんで?」
「偶にだが腹を壊すことがあるからな、王族には出してないんだよ。」
「あーコッチはそれ知らないパターンかー、ジャガイモが緑色に変色してたり芽が出てる所は毒があるからソコをしっかり取って使えば大丈夫だよ。」
「そうなのか!?それは良い事を聞いた!」
「ジャガイモはトロミも出るしシチューには入れたいから準備してもらっていいかな、一応品質チェックはしておくから。」
「分った」
そういって材料を揃えるルノアー、千春は調味料を揃えていく。
「じゃぁ野菜は全部皮を剥いて一口で食べれるくらいのサイズにどんどん切って行ってくださーい。玉ねぎは千切りで別にしといてくださいねー。」
材料を持ってきた男性達がどんどん皮を剥いて切っていく。
「鶏肉はどうする?」
ルノアーはもも肉を見せながら聞く。
「それも一口大に切って一度バターで炒めてもらっていいかな?」
「全部か?」
「全部です。」
「よし、その2班に分かれて肉を炒めろ。」
ルノアーは数人に指示をしながら調理方法をメモっていた。
「ルノアーさんあとコレをー・・・・」
横にあるテーブルにアイテムボックスを開き塩と砂糖と胡椒を出す。
「なんだ今のは、魔法か?」
「はい、物を収納出来る魔法です、そんでコレが塩、こっちの袋が砂糖でこの缶のやつが胡椒ですね、こっちで使って下さい。」
「いいのか?」
「うん、私が作る料理って結構調味料使うから消費多いでしょ?これくらいなら食費浮かせれば買って来れるから使ってください、その代わりご飯は食べさせてね。」
「勿論だ、調味料代は上に報告しておくから晩飯は幾らでも食ってくれ、なんなら3食でもいいからな。」
「お金貰っても私の所で使えないんで、食事は食べれる時遠慮なく頂きまーす!有難う御座いまーす。」
「野菜切り終わりました!」
「それじゃ玉ねぎ以外はスープに入れちゃって下さい、入れたら玉ねぎチームは色が変わるまでバター多めで炒めてくださいねー。」
「了解です!」
そして小麦粉と牛乳を準備しホワイトソースを作っていく。
「随分と手慣れてるな、良く作るのかい?」
「うん、ホワイトソースはグラタンも作れるしクリームコロッケも作れるし良く手作りするよ。」
「ほう、他にも使えるソースか、コレも練習させておこう。」
そう言ってホワイトソースを作っている後ろでチェックしていた。
「鶏肉も良い具合だね、それじゃその鶏肉も全部鍋に入れて煮込んでください。」
全部の材料を入れ煮込む。
「お?これキノコ?」
「ああ、南にある村の特産で良く取れるんだよ、歯ごたえ良くて美味いんだ。」
「へー、マッシュルームに似てるね、コレも入れちゃおう。」
そう言うとルノアーは直ぐに指示をしスライスしてもらった。
「それじゃホワイトソースも全部入れて弱火で煮てください、残った牛乳も全部入れてくださいねー。」
「分ったこれで出来上がりか?」
「あとは味を見て塩と胡椒で調節するよ、そこはルノアーさんに任せるよ。」
「出来上がりの味がわからんのだが・・・・」
「ちょっとまってね。」
そう言うと千春はお玉で1杯掬って器に入れる、そして塩を少しと胡椒をミルで削り掛ける。
「・・・・ん、こんくらいだね、はいルノアーさん覚えて。」
「・・・・美味いな!!!コレがシチューか!」
「もう少し煮てトロミが出たら野菜も溶けてコクも出るから出来上がりの味ではないけど、塩と胡椒はこれくらいって覚えて仕上げてね。」
「分った、で、チハルさん今日は王族と食べるのか?」
「いいえーここで食べまーす。」
「また連れていかれるぞ?」
「・・・・ちょっと顔だしてくるかぁ、後は任せます。」
先手を打ってすぐ帰ろう、そう考えた千春はサフィーナとモリアンを連れてマルグリット王妃の自室に向かう、道は未だに覚えていないから先頭はサフィーナだが。
「チハル様!」
行く途中で声を掛けられた、呼んだのはロマンスグレーのクラーク宰相だった。
「はい!?あ、宰相さんどうされました?」
いきなり声を掛けられ少し挙動不審になったがすぐに素に戻れた。
「食事の改善有難う御座います、料理長のルノアーから色々と聞いておりまして、他の厨房からも勉強にと王宮厨房の方へ数人入れ替わりで入っており、他の部署からもお礼が届いております。」
「それは良かったです、私も夕食はこちらで頂いてますので気にしないでください。」
料理を教えるのは自分がいつでも美味しい晩御飯を食べる為だとは流石に直球過ぎるかと濁して答える、正直こちらの世界のご飯は不味いのだ。
「有難う御座います、しかし頂いているパンの酵母?と言う物や調味料まで買って来て頂いていると聞きまして、代金を少しでも補填させて頂ければと思っております。」
「いやー、その分こちらで食べさせて頂いてますんで、あとお金貰ってもあっちで使えませんから。」
そう、ヨリちゃんこと向井頼子と一緒に考えた『金貨換金計画』も頓挫し貰っても使えないね!と結論付いた為ルノアーにも断っていたのだ。
「わ・・・わかりました。」
「どうかしたんですか?」
何か困った様に答える宰相が気になりおのずと聞いてしまう。
「は、はい、王妃殿下よりしっかりと対価を支払うようにと厳命を受けておりまして・・・・」
「アハハハハ・・・・そう言う事ですかぁ・・・・」
「「・・・・・」」
そりゃ困るかぁと思いながら侍女2人を見れば、可哀そうにと言わんばかりの目を向けられる宰相。
「はい、それじゃぁすこーしだけは頂く形で、体裁を取っておきますのでサフィーに渡しといてください、メグ様には頂きました!って言っておきますので。」
「有難う御座います。」
深々とお辞儀をする宰相、たしか結構高位の貴族のはず・・・そんな頭下げていいのかな?と思ったがそう言えば自分は王女様扱いだったわと心の中で白目を剝いていた。
そして宰相と別れマルグリット王妃の自室に着く、サフィーナがノックをするとエリーナが出迎えた。
「いらっしゃいませチハル様、お入りください。」
「あら、チハル来てくれたのね。」
満面の笑みで迎えてくれるマルグリット、サフィーナとモリアンはさっと壁際に立つ。
「はい、今日は早めに来れたので新しい料理を伝えに、それも終わりましたのでお伺いしました。」
「嬉しいわ、そうそうチハルに聞きたい事があったのよ、昨日は聞きそびれちゃって。」
「なんでしょうか?」
「チハルが持って来てくれた整髪料なんだけどこっちで作る事って出来るのかしら?」
「はい?そうですね、持って来た程の効果は出ないかも知れませんが毎日使うのであればある程度の効果がある物は作れますよ。」
「そうなの!?それじゃ作り方を教えてもらっても良いかしら?」
「材料はベースが酢であとは水とハーブ、精油ですね、昔はリンスの代わりに酢を使ってましたから、詳しい配合は後日で宜しいですか?うろ覚えなので。」
「もちろん!先日貴族のお茶会で聞かれちゃって、そちらから仕入れる訳にもいかないでしょうから。」
マルグリットはもし良かったら販売もして良いか、販売利益の何%チハルに渡すか等結構細かく説明してきた。
「そんなお金なんて・・」
「いいえ、お金は有っても困りません、街に行けば買い物もしたくなるでしょう?」
「街ですか!?」
「ええ、まだ行ってないでしょうけれど行く事もあるでしょうからね、行ってみたくない?」
「行きたいです!」
千春は王城を見て中世時代の海外を想像し、街はどんな感じなんだろうかと思っていた、もちろん海外旅行に行ったことはなく、父から送られてくる海外の怪しいお菓子などを食べながら想像はしていた。
「それじゃぁその件は私の商会で製造販売をさせるわ。」
「メグ様は商会をお持ちなんですね。」
「ええ、化粧品や美容関係、あとは服なんかの商品を取り扱ってる商会よ、それじゃレシピはお願いするわね。」
「はい、こちらで手に入りそうな材料で作れるレシピを調べておきますね。」
「ありがとう、それで?今日の夕食は食べたの?まだ時間は早いみたいだけど。」
「いえ、今から食堂に戻って食べてから帰るつもりです。」
「そう・・・。」
「メグ様?」
「何でもないわ。」
そういって愁いを帯びた笑みを浮かべる。
(くっ・・・メグ様そんな顔・・・ずるい!)
「ゆ・・・夕食だけでしたら・・・ご一緒いたします。」
千春が根負けしそう言うと、パッと明るい顔をしてマルグリットが笑みを溢す。
「エリーナ!夕食を早く準備させなさい!湯浴みも直ぐに出来るようにしておいて!」
「はい。」
エリーナはすぐに部屋を出ていった。
「メグ様!?お風呂は向こうで入りますよ!?」
「どうせ入るならこっちで入ってしまえば良いじゃない?向こうでお風呂の支度はチハルがやってるんでしょう?手間が減るわよ?」
「あー・・・(そう言われればお風呂沸かす手間減るなぁ・・・)」
そう、日本はもう冬に入り冷え込む為シャワーで済ますわけにも行かなかった。
「はい、お風呂もご一緒させていただきます、着替えとってきますね。」
「待ってるわね。」
語尾にハートが付きそうな甘い声で返事をされた、こういう声で男が騙されるんだろうなぁと思いながら寝間着代わりのパーカーや着替え取りに行くかーと部屋を出る。
「チハル・・・」
「何?」
「明日から着替えは扉の部屋に常備して置きなさいよ、それなら私達が取りに戻れるから。」
「・・・・うん、そうする。」
サフィーナがもう諦めろ的な感じで提案してきた。
「うん、あれは断れないですよー。」
モリアンも遠くを見ながら同意してきた。
「うん!晩御飯とお風呂の光熱費が浮く!ポジティブに行こう!」
少しやけっぱちになりながらも前向きに考える事にした千春であった。