魔獣、 それにダンジョンか。なかなか大変な世界なのかもな。
ちょっと浮かれていたが気を引き締めたほうがいいよな。――よしっ!
「それでは、付与するスキルに何か希望はございますか?」
「あっ、はい。その前にもうひとつ、言葉は通じるんでしょうか?」
「言葉に関しては言語理解が身体に組み込まれますので問題ありません。共通言語のほかに亜人族言語もカバーできますし、文章も特殊なもの以外は読むことが出来るでしょう」
「組み込まれる?」
「はい、高月様の身体 (ボディー) はこちらでお造りしますので、その身体のほうに標準設定いたしました」
――お造りって……、魚かよ。
俺の身体どーなっちゃうの? 大丈夫だよねぇ。ちゃんと人間だよね。(汗)
「はい、大丈夫です。身体的にも緩やかに老化していくはずです。もちろん整理面に於いても問題ありません。ただ病気や状態異常に耐性を持ち、それらには強くなっております」
今、サラッと凄いこと言ったよね。それに俺の心読んでます?
「はい、今は いわゆる魂だけの状態ですので。それはもう……」 ――ニッコリ。
わっちゃー、マジか! マジなのか。いろいろごめんなさいです。(汗)
「いえいえ、以後 気をつけていただければ。それから身体が新しくなりますので、それに合わせて年齢も若返ります。これについては現地で確認なさってください」
「それでは希望をお聞きしていきますね」
「じゃ、まず鑑定ってあります?」
このような感じで話が進んでいき、俺は3つのスキルと『女神ユカリーナ』さんの加護を手にいれた。
それと当座の資金と身の回りの品などを頂くことになった。
そして、なんでも女神さまとお話ししたい時は、ユカリーナ様が祀られている教会にシロと一緒に訪ねてきてくれとのこと。
短い時間ではあるが話をしたりアドバイスなどもしてくれるそうだ。
ただ、直接の干渉はできないみたいだ。
まぁ、主役は聖獣のシロで、俺はおまけみたいなものだしねぇ。
なんか俺って『ヒモ』まっしぐらじゃん。(笑)
「それではすべての準備が整いましたので転生シーケンスを開始いたします。高月 玄 (たかつき げん) 様、どうぞシロさんと共に、この世界 (サーメクス) での生活を楽しんでくださいね」
女神さまは笑みを浮かべながら見送ってくれた。
女神さま、どうもありがとうございました。
シロは聖獣だから、たぶん俺のほうが先に旅立つだろうけど。
それまではずっと傍にいよう。ずっと撫でてあげよう。
せっかくもらったこの命、精一杯生きていこう。
――シロと一緒にな。
だんだん意識が遠のいていき…………。
涼しいそよ風にあてられて、ゆっくりと意識が覚醒していく。
森で目を覚ました俺は、シロをもふりながらステータスの確認をしようとしていた。
「う~ん、どうしたらステータスが見られるようになるんだ? シロ、何かわかるか?」
「 ワン!」
シロは一吠えしただけで、伏せの体制まま尻尾を振っているだけであった。
俺は右腕を正面に伸ばし掌を開きつつ、
「ステータスオープン!」
……叫んでみたけど、まるで変化なし。
自分でも恥ずかしくなり、シロの背中に顔を埋めてしまった。
「はぁ~、わからん? どうしたらいいんだ~」
ここ30分程、いろいろとチャレンジしてみたが、どんどん黒歴史が積みあがっていくばかりで何も進展がなかった。
「あぁ~、もうヤメヤメ!」
俺はその場で立ちあがった。
『んん~!』と伸びをしたあと、
「よし、シロ行こう!」
お座りしているシロに声を掛けると、俺はバッグを肩に森の中を歩きはじめた。
女神さま曰く、西の方角に進めば森を抜けられ街道が通っているらしい。
西ってどっちだよ? とりあえず太陽のある方にいってみるか。
上を見ると、木々のすき間から青空が覗いていた。
「たぶん、こっちだな」
俺たちは森の中をゆっくり進みはじめた。
俺たちが進んでいる方角は割と開けており、森の中にしては歩きやすかった。
「この獣道を辿っていけば良さそうだな」
先導するように俺の前を歩くシロ。たまに立ち止まっては俺が追いつくのを待って、また軽やかに進んでいく。
獣道を縫うように進んでいき、1時間ほどが経過しただろうか。
森の終わりが近いのか、周りが少し明るくなってきた。
「まだなのかぁ? もう腰が限界だよ~」
獣道は人間が通るようにはできていない。荷物を抱えたまま、当然だが中腰である。
それから間もなく俺たちは森を抜けきった。
目の前には大きな草原が広がっている。
その草原を横切るように、一本の街道が通っているのが見えた。