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……手順とコツを書き込んだメモを見ながら、パーティー用の一品料理を作る。
跳ねる油に「熱っ…!」と慄いたり、いつか別荘で一緒に料理をした時みたいに包丁で指を切ってしまいそうになったり、
彼のように手際良くは行かなかったけれど、習ったスキルを少しは発揮できて、ようやくテーブルを埋めるくらいの料理を仕上げることができた。
最後に乾杯用のグラスを二つ並べて、「一臣さん」と、呼んだ。
ソファーで開いていた本から顔を上げる彼の元にパタパタとスリッパで走って行って、初めて彼が私に料理を披露してくれた時のように、「お待たせしました」と、手を引いた。
少しドキドキしながらテーブルに着いてもらうと、
「……すごいですね。こんなに作ってくれて……」
彼が驚いたように目を見張って、「ありがとう……」と、笑みをこぼした。
「先生には及ばないかもしれないけれど、」
そう口にすると、「いいえ」と、彼が首を横に振って、
「あなたが、私に作ってくれた料理が、美味しくないわけがないので」
言って、開けたシャンパンをグラスに注ぐと、「ありがとう」ともう一度繰り返して、
「こんなに幸せな誕生日は初めてです」
と、口元に薄く笑みをたたえた。