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どこか別の場所に案内されるかと思っていたが、通されたのは意外にも寝室だった。
夫婦の…ゲフンッゲフンッ。
「このベッドは私が作った物だ。特別良い物ではないが、これくらいであれば同じレベルで他の家具も作れる」
そう言って見せてくれたベッドは、丁寧な作りのコテコテの姫系ベッドだった。
奥さんの趣味かな?まさか、この親父の……
俺がヤバい事実に辿り着く前に、聖奈さんが話を続けた。
「こちらでおいくらでしょうか?」
「ん?…そうだな。だいたい50,000ギルくらいかな。木材が高くなっていても70,000はしないな」
「もしこちらがデザインを指定したとして、同じサイズの物で有れば?」
「何かやけに細かいな…まあ、同じ値段だな。多少手間が増えたところで家具は知れているからな。
何でこんなことを聞くんだ?
少し怖くなって来たんだが…」
わかるよわかるよー。このモードの聖奈さんは少し近寄り難いんだよね。
でも、これで俺たちが目標としていたモノが手に入りそうだな。
「お父様。セイさんに……いえ、私達に家具を売ってくれませんか?」
「このベッドが欲しいのか?たしかに二人はお似合いだが、これは結婚して初めて妻が欲しがったモノなんだ。
すまんが他の・・・」
「いえ、欲しいのはお父様の腕です。
先程申し上げた通り、私達は商人もしております。
私達の販路であれば、お父様のお作りになった家具を販売することが出来ます!
お願い出来ませんか?」
良かった。姫系ベッドは奥さんの趣味か。
「良いのか?値段はさっき言った以上には下げられないぞ?
今はこんなでも、職人としてのプライドがあるからな」
「もちろんです!もし余剰に売り上げがあればそれはお返しします!」
「いや、そこまではいいんだ。
ありがとう。実は少し折れ掛けていたんだ。
ミランには苦労を掛けていたからな」
父親の言葉に、ミランはついに背を向けて肩を震わせてしまった。
俺に出来るのは支えてやるくらいだな。
そう思いミランの肩を支えたら、何故か振り向いて俺の胸で泣き始めた。
えっ!急にどうしちゃったの?!
お兄さんそんなことされても、どうしたらいいか、手が迷子になっちゃってるよ?!
聖奈さんから射殺すような視線が向けられているし……
「ごほんっ。それでは契約成立ですね!
ミランちゃんの父親なので書面は交わしません。
信頼関係が大事ですからね」
聖奈さんの咳払いのタイミングで、ミランが俺から離れた。
ありがとう聖奈さん。僕を殺さないでいてくれて。
ついでに、信頼関係なんて言葉を出して、異世界の契約について知らないことを誤魔化すなんて凄いな。
「お父さん。これからよろしくお願いします」
一応俺もお願いしておいた。
喋らないと忘れられそうだからな!
「君にお父さんと呼ばれる覚えはない!」
…いや、ちゃうから。アンタ、娘が抱きつくところしっかり見てたんかいっ!
「す、すまない。だが大人の男性からお父さんと呼ばれるのは…」
「配慮が足りませんでした。バーンさん。よろしくお願いしますね」
腑に落ちないが謝っておく。これが出来る社会人だ!
まだ崖っぷちではあるが大学生だけどね……
細かい話も終わり、大まかな話をすることに。
「何!?聞き間違いかもしれないから、もう一度いってくれないか?」
「はい。お父様の家具を、今ある在庫も含めて、先ずは2,000,000ギル分売ってください」
聖奈さん。私の持っているお金をオーバーしていますよ?
いきなり空手形を切るなよ……クソ度胸にも程があるだろ。こっちは一般人なんだっ!!
「一先ず手付金として1,000,000ギルお渡しします。
セイくん」
もはや秘書である。君付けの理由はこれだったのか…?
「バーンさん。お確かめ下さい」
俺は金貨10枚を異世界財布の革袋から取り出した。
「セイ君達の誠意はわかった。お金は現物を用意した時に貰おう。
今はそこまで在庫がないからな。あっても800,000ギル分くらいだ。
そちらの要望は色々な家具だったな?
残りはそうなる様に調整して作ろう。
工房はミランが知っている。空が明るいうちは工房にいるからいつでも取りに来て欲しい」
話を終えた俺達は、夕暮れの街中を宿へと向けて歩いてゆく。
「美味しいです!」
ミランのセリフだと思うよな?これ21歳の妹属性のセリフなんだぜ?
「ホントに美味しいですね」
「ここの宿の目玉らしい。俺も最初は美味しくてビックリしたよ」
三人分の夕食を頼んだ俺達は、仲良く食卓を囲んでいる。
「セイくん。勝手に色々決めてごめんね」
聖奈さんはそう言うが、そもそも日本で任せてる時から勝手に行動することを俺が望んでいた。
ただ……
「いや、聖奈には自由にやって欲しい。でもな。パーティ名は何なんだよ!
俺は恥ずかしくて、憤死しかけたぞ!」
「ははは…でも、今回もちゃんと理由があるんだよ?
まあ、それはもう少し先だから、今は内緒だけどね!」
そんな可愛く言われても、誤魔化されないんだからねっ!
食後、部屋に帰った俺達は話をすることに。
「聖奈。別々に寝るって提案したんだから話すんだろ?(付き合っていないことを)」
「やっぱり気付いてた?実はね。ミランちゃんに伝えていないことがあるんだ」
「伝えていないこと…ですか」
伝えていないこととは、隠し事と遠からずの意味を持つ。その言葉に、ミランは訝しげな表情をした。
「そう。実はね。私達、この世界の住人じゃないの。
こことは違う世界から転移して来たの」
えっ?!そっち!?
「ホントはセイくんと同じ部屋にして、ミランちゃんが自分の部屋に戻ったら、二人で元の世界へと転移しようとしてたの。
転移の能力はね、私達以外の人が巻き込まれたら死んでしまうかもしれないの。
だから変に興味を持たれない様にするために、黙っていようとしてたの。
ごめんね」
「謝らないで下さい。それは私のことを考えてのものです。
それにもちろん保身も有りますよね。それは当たり前です。保身を何も考えない様な人とは、怖くて逆に一緒にはいられません」
「そんなに良い様に言わないで。仲間とか言ってたのに、その仲間に隠し事をしようとしていたんだから。
でも、間違ってた。ミランちゃんは十分大人で、自分で決めることが出来るんだもんね。
セイくんはそれにとっくに気付いていて、さっきも私の背中を押してくれたの。
セイくん。ありがとう」
いえ。貴女とは意思の疎通が取れたことはないので、勘違いですよ。
とは言えず。黙って頷くに留めた。
「間違いだとは思いませんが、話してくれて嬉しかったです。
でも転移とか違う世界とかはまだ理解が出来てません」
その後、聖奈さんと2人がかりでミランに能力のことや地球のことを伝えた。
流石のミランでも情報を咀嚼するのに時間は掛かったが、ある程度理解してくれた。
「セイさん達の世界でお金を稼ぐ為に、お父さんの家具を売ってくれる。
そのお金はセイさん達の世界では安い白砂糖を、こっちの世界で売って賄う。
この認識で合っていますか?」
完璧やん。俺に人事権があるのなら、この子に社長を任せたい。
中学生の違法労働ですぐに検挙されそうだけど……
「合ってるよ。流石だね。これから私達は向こうの世界に行くけど、ミランちゃん一人で大丈夫?
もし、不安ならこっちに戻るまでお家にいる?」
「大丈夫です。また子供扱いしていますよ」
ミランのその言葉に焦った聖奈さんが、慌ててフォローに入る。
「ご、ごめん。あまりの美少女っぷりについ過保護が……
もちろん用事が終わったらすぐに戻ってくる予定だよ。
でもトラブルは急に来るから、その時はよろしくね」
話が一段落ついたのを見計らって、漸く俺は口を開いた。
「これは俺達が帰れなくなった時に、自由に使ってくれ」
そう告げながら、金貨2枚を渡した。
「そ、そんな。受け取れませんよ!」
ミランならそう言うと思い、答えは用意している。
「別にあげるわけじゃないぞ?俺達が戻らなかったらミランは待ちぼうけを喰らうんだ。これはその時の慰謝料のようなものだ。
だから遅れたら好きに使ってくれ。
でも、遅れても必ず帰ってくるからな」
そういうとミランは、何故か涙を拭う仕草をした。
え?別に泣く様なことは言ってないよな?
何故か聖奈さんからまた厳しい視線を貰ったところで話しは終わり、転移することに。
「私は一人部屋で休んでいますね。狭い部屋でお二人に色々してもらうのは心苦しいので」
そう言い、部屋を出て行った。
それを確認した俺達は地球へと帰還した。
残金
円 =1,440,000
ギル=1,746,000(預け金200,000ギル含む)-1,500=1,744,500