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せっかく圭太も喜んでいるからと、込み上げた苛立ちをグッと抑えた。
「ほら、危ないからしまっておいて、ちょっとこっちにきて。コレをお父さんにプレゼントして」
圭太から雅史に、プレゼントを渡してもらう。
私から渡すより、雅史もうれしいだろうし。
「お父さんは明日の次の日がお誕生日なの。だからコレをプレゼントしてあげて。お誕生日おめでとうって」
「おめれと」
「おっ、ありがとうな。なんだろうなコレ」
私が選んだのは、シルバーのネクタイピンだ。
今流行りのGPS付きにしようかとも考えたけど、今更浮気の現場をおさえたいとも思わなかった。
_____私が許せないのは浮気そのものではなくて、そのせいで圭太が怪我をしたということだから
「そんなに高いモノじゃないけど、おしゃれでしょ?」
「あ、あぁ、ありがとう」
まさか、自分にまでプレゼントがあるとは予想してなかったのか、辿々しい返事だ。
プレゼントのおもちゃがよほどうれしかったらしく、ひとしきり遊んだ圭太はいつの間にかクッションにもたれて眠りそうだった。
「奥の座敷に寝かせてくるといいわ、小さなマットを敷いてあるから」
「ありがとうございます」
圭太を寝かせてリビングに戻ると、雅史が缶ビールを開けていた。
_____どういうつもり?!
私は黙ってそのビールをとりあげる。
「まだ飲まないで、これからのことをきちんと話してからにしてください」
「あ、まぁ、そうだな」
「お義父さん、お義母さん、どうして雅史さんが私と圭太を置いて帰ってきたか、理由を知ってますか?」
「理由って、それは杏奈さんがその……浮気?したからでしょ?それで雅史はショックを受けて、ひとまずうちに帰ってきた。そのことについて、わかるように説明してくれない?杏奈さん」
_____やっぱりそんな作り話をでっち上げていたのか
そんなことだろうとは想像していたけれど、あまりにも短絡的で保身しかしていない雅史に愛想が尽きた。
「雅史さん、どんな話をしたの?ここで。ちゃんと説明したの?ご両親に」
「俺はその、杏奈が浮気したみたいだから俺もついって……ことで……」
「は?雅史、杏奈さんが浮気したのがショックで帰ってきたんじゃなかったの?つい、ってあなたも浮気したってこと?ちょっと、どういうこと?二人とも他の人と、その……浮気?けがらわしいっ!」
バン!とテーブルを叩く義母。
「ちょっとお義母さん、それは誤解なんです。私は友達とランチをした写真が誰かにうまく切り取られて、雅史さんに送られてきたみたいで。誰が送ってきたかはわかってますけど」
私はスマホを出してあの写真を義母に見せ、その後成美のSNSの写真も見せた。
「そうね、これは複数のお友達とのランチみたいね」
「この写真の奥の方にいる女性、おぼえておいてくださいね」
奥に写り込んでいた京香を見せてから、京香が送りつけてきた“あの写真”を出した。
「コレを見てください」
「……」
あきらかに義母の顔が変わった。
「こんなセリフ付きで送られてきたんです。雅史さんの友人の奥様の友達で、ほら、さっきの写真の女性と同じなんです」
「雅史!コレはどういうこと?」
「だからそれは飲み会でふざけてさ、酔っ払って、その……」
言い訳をしようとしている雅史、させるもんかと続ける。
「この写真が送られてきた夜、雅史さんはとても夜遅く帰ってきたんです、誰とどこにいたか説明もしてくれません」
「だからあの日は酔っ払って、駅のベンチで寝てしまったって……」
「ウソ!この女性といたって認めたくせに!」
「そんな写真だけで浮気したって言われてもな!」
「雅史、待って。この女とは一度きり?」
「あー、そうだよ、あっ!」
_____認めた!
義母の質問にうっかり答えてしまった雅史は、悪びれることもなく続けた。
「遊びなんだから、気にするなよ。だいたい杏奈が相手をしてくれないからだ」
そうきたか。
「あら、それは杏奈さんにも責任があるわね。それに一度きりの遊びなら、目をつぶってあげなさいな。まったくモテない夫よりもいいでしょ?」
_____何を言ってるんだ?この人は
雅史を庇うつもりなのだろうけど。
「一度だけじゃありません、これまでにも何人かの女性と……。いえ、問題はそこじゃないんです」
だんだん興奮してきて声が大きくなってきているのは自覚があったけど、止められなかった。
「じゃあ、何が問題なの?」
「浮気相手と電話かLINEをしてて、圭太から目を離した、そして圭太は滑り台から落ちて怪我をしたんです、近くにいた人が救急車を呼んでくれたのに、この人は圭太が落ちたことにも気づいてなかったんですよ!父親なんですよ、こ、この人は!」
一気に捲し立てた。
息継ぎをするのを忘れていて、呼吸が乱れる。
「ホントなの?雅史、圭太ちゃんに怪我をさせたって」
「怪我って言っても頭にタンコブできたくらいで、たいしたことなかったけどな」
「あ、そう。そうね、確かに今は怪我もなさそうね。じゃあ、それも許してあげて、杏奈さん。うっかりって誰にでもあることでしょ?相手をしないあなたにも責任はあるんだし、圭太ちゃんの怪我もたいしたことなかったんだから、もう仲直りしたら?ね?」
「お義母さん、それ、本気で言ってますか?」
「そうよ、もういいでしょ?ほら、雅史も反省していることだし。もう浮気なんて馬鹿なことしないわよね?杏奈さんも自分の非を認めて、雅史に謝罪したら?」
「だっ、だから、そうじゃなくてっ!」
言い返したいのに、悔しくて涙が込み上げてきて言葉が続かない。
「いい加減にしないかっ!」
その時、思わぬ方向から怒号が聞こえた。
「親父?」
いましがたまで、会話にも入らずずっとテレビを見ていたと思っていた義父が、仁王立ちして私たちを見下ろしていた。
「黙って聞いていれば、道枝も雅史も、杏奈さんの言いたいことをちっともわかろうとしていない!道枝、考えてみろ、お前が杏奈さんの立場で雅史が圭太で、俺が浮気相手と遊んでいたせいで雅史が怪我をしたら?お前は俺を許せるのか?あ?どうだ、言ってみろ!」
義母と雅史に声を荒げているこの状況は、今まで見たこともない義父の姿だった。
「どうだ?道枝、それでもお前は俺を許すというのか?雅史が大怪我してたかもしれないんだぞ?」
「それは……」
返事につまる義母。