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63 ◇おかあさんって誰のこと?
(従業員たちに向けて結婚発表をした5日後/土曜)
私たちはゆっくりと少し遅めの朝食を摂り、そのあと予定していた大宮に
ある家具屋さんへと出掛けて行った。
寮では箪笥など使っていなくて着物や看護婦服は畳んで押入れの中に
積み重ねて置いておくだけだった。
元々前の結婚時にも、とにかく節約節約の日々で安物の箪笥がひとつ
あっただけ。
そして今日訪れた家具屋は一流店のようで、以前購入したような安物は
見受けられなかった。
私はなるべく節約しようと安い箪笥を探すことにした。
すると涼さんが私の手を取り、高級品ばかり並ぶ一角に私を連れて行き、
目の前の箪笥の中から好きなのを選べばいいと言ってくれた。
その箪笥には作った職人の名前がそうと分かるように連ねられたいた。
『桐たんす』と書かれてある。
私は桐箪笥のうちのひとつを選んだ。
すると「へぇ~、なかなかいい物ですね。僕もそれいいなって思ってました」と涼さんが言い、
その箪笥の横にセットのようにして並んでいたもうひとつの箪笥と併せて店の人に
「これにしますのでお願いします」と注文した。
総桐小袖箪笥と総桐帯箪笥と書かれていた。
素敵な箪笥なのでお値段もすごく高い。
「涼さん、いいんですか? すごく高いですよ」
「一生ものだし、僕のも入れるので……」
そっか、ふたりで使うのならそんなに気を遣わなくてもいいよね。
『きゃっ、うれしー』
だけど、箪笥に見合う良い着物がないっ。
これから貯金して少しずついいもの揃えていかなくちゃ。
働いた私のお給料は全部お小遣いにして、自分の収入は全額私に渡して
任せると言われている。
涼さんは太っ腹だ。
彼は決まったお小遣いを貰えればいいということらしい。
これって信頼されてるってことよね。
期待を裏切らないよう、頑張って貯蓄に励まねば。
そんなことを考えていると
「支払いを済ませたらすぐ行くので、折角だからその辺を見て回ればいいよ。
終わったら声を掛けるから」と涼さんから声が掛かる。
「分かりました。そうさせてもらいますね」
家具屋なんてめったに来ないし、近隣のお店にも興味があるので
隣の店先で普段目にしない珍しい商品をいろいろと見てまわることにした。
私は時々、涼さんが支払いを終えて出てこないかと時々店内へ視線を向けて
チェックしつつ、店の商品を見ていた。
「おかあさんっ!」
-919-
――――― シナリオ風 ―――――
〇大宮の家具屋 午前
結婚発表から5日後。
温子と涼は、ゆっくりと朝食を済ませ、家具屋を訪れている。
(N)
「寮では箪笥を使わず、着物や看護婦服は押入れに積むばかりだった温子。
前の結婚生活も節約続きで、安物の箪笥ひとつきり。
だが今日訪れたのは、職人の名が並ぶ一流の家具屋だった」
温子(心の声)「なるべく安いものを……」
温子が値頃品を探していると、涼は高級桐箪笥の並ぶ一角へ
彼女を導く。
涼「好きなのを選んでいいよ」
温子が一つ選ぶと、涼も頷き、さらにセットの桐帯箪笥も合わせて
注文する。
温子「涼さん、いいんですか? すごく高いですよ」
涼「一生ものだし、僕のも入れるからね」
温子(心の声)「ふたりで使うなら……きゃっ、うれしい!
でも箪笥に見合う良い着物がないわ。
これから少しずつ揃えていかなくちゃ」
(N)「涼は給金を温子に任せ、決まった小遣いだけでよいと言う。
それは信頼の証でもあった。
温子は心に『期待を裏切らないよう貯蓄に励もう』と誓う」
涼「支払いを済ませたら行くから、その辺を見て回ってて」
温子「はい。そうさせてもらいますね」
〇家具屋の近隣の店
温子は珍しい品々を眺めつつ、時折店内の涼を気にする。
その時――
鳩子(温子の娘)「おかあさんっ!」