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☕ 第十二章:団長の洞察と、残された「痕跡」翌朝の異常な清潔さ
リヴァイは、サクラの体を徹底的に浄化した後、夜明け前に自分の部屋へと戻った。彼の心は、サクラへの独占欲が満たされ、清々しいほどに満たされていたが、その疲労は尋常ではなかった。
一方、エルヴィン団長は、早朝から執務室で次の戦略を練っていた。彼は、サクラが自分の提案に同意してくれたことに満足しつつも、リヴァイがこの状況を黙って受け入れるはずがない、と警戒していた。
エルヴィンは、サクラを呼ぶ前に、彼女の部屋の様子を確認するため、静かに扉を開けた。
室内は整然としている。ベッドのシーツはピンと張られ、わずかな乱れもない。しかし、エルヴィンはすぐに違和感を覚えた。
(…完璧すぎる)
サクラは、リヴァイに鍛えられたおかげで部屋を清潔に保つ習慣がついたが、昨夜は泥酔後の目覚めだ。この極度の清潔さは、彼女自身が整えたものとは考えにくい。
そして、エルヴィンの視線は、浴室へと移った。
団長の鋭い洞察
エルヴィンがサクラの部屋の浴室を覗くと、さらに決定的な証拠を発見した。
浴室は水滴一つないほど完璧に拭き上げられている。だが、洗い場の一角に、リヴァイ愛用の高級石鹸の、微かな香りが残っていた。
それは、兵団の備品ではない、リヴァイしか使わない特注の石鹸だ。そして、床には、リヴァイが風呂上がりに使う、通常の兵士用ではない上質なバスタオルが、完璧に畳まれて置かれていた。
エルヴィンは、昨夜、リヴァイがサクラの部屋に侵入し、サクラの体を「浄化」しようとしたのだと、瞬時に察した。
彼の顔は、静かに、しかし深く怒りに歪んだ。
(リヴァイ…君は、彼女の体を抱きしめた私への宣戦布告か。君の独占欲は、もはや理性を超えている)
エルヴィンは、サクラへの「愛」を、あくまで**「戦略的必要性」という大義名分で覆い隠そうとしていた。しかし、リヴァイの行動は、それを完全に「私的な感情の争い」**へと引きずり込んでいる。
リヴァイへの静かなる圧力
エルヴィンは、石鹸の香りが残る浴室から静かに戻ると、すぐにリヴァイを自分の執務室へ呼び出した。
リヴァイは、眠そうな目をしながらも、エルヴィンの前に立った。
「団長。朝から何の用だ。今日の訓練メニューは、昨夜既に…」
「リヴァイ。お前の**『清潔に対する執着』**は、兵団にとって有益だ」エルヴィンは、机に置かれた紅茶を見つめながら、穏やかな声で言った。
「感謝する」リヴァイは、感情を見せずに答える。
「しかし、その執着が、私的な感情によって、規律を乱すとなれば話は別だ」
エルヴィンは、そこで初めてリヴァイと目を合わせた。彼の青い瞳は、冷たく、深く、リヴァイの心の奥底を見透かすかのようだった。
「サクラの部屋に、君の愛用する石鹸の香りが残っていた。昨夜、君は彼女の部屋を訪問したな」
リヴァイは、一瞬たじろいだが、すぐに冷徹な表情に戻った。
「ああ。彼女の体は、訓練で酷使されている。そのケアと、兵士として不必要な接触による精神的な汚れの排除は、俺の指導の一環だ」
「『精神的な汚れの排除』…私に抱擁されたことの洗浄、という意味か?」エルヴィンの声は、低く、威圧的だった。「君の過剰な独占欲は、もはやサクラの安全を脅かしかねない。彼女の体は、君の所有物ではない」
リヴァイは、怒りで体が震えるのを感じた。
「所有物だと?あなたこそ、彼女を**『人類の希望』という大義名分**で、自分の傍に閉じ込めようとしているだろう!あなたは、自分の欲望を、理性の皮で隠しているに過ぎない!」
エルヴィンは、ゆっくりと紅茶を一口飲んだ。
「そうだな。我々は、どちらもサクラを強く求めている。だが、リヴァイ。今夜の三者会議で、サクラは**『異世界の知識』**という、我々が喉から手が出るほど欲しい情報を全て提供する決意だ」
「…その会議の場には、私と、ハンジ、そして君しかいない。君は、その場で、私的な感情を一切持ち込むことなく、冷静な指導者として、サクラの言葉を聞き入れることができるか?それができなければ、君は、この会議に参加する資格がない」
エルヴィンは、**「サクラへの愛」という最も弱い部分で、リヴァイの「冷静な指導者」**というプライドを試したのだ。
リヴァイは、憤怒の表情のまま、ぐっと奥歯を噛みしめた。彼にとって、サクラの異世界に関する話は、最も聞きたい情報の一つだ。
「…チッ。俺を、試すな。俺は、兵士長としての役割を全うする。だが、団長。この会議の後、俺はサクラへの指導を、更に厳しく、徹底的に行う。お前が、彼女を『希望』として利用するのなら、俺は彼女を、**誰にも触れられない『鋼鉄の聖域』**にまで鍛え上げる」
リヴァイはそう言い放ち、団長室を後にした。サクラを巡る二人の英雄の、この静かで激しい「綱引き」は、いよいよクライマックスの三者会議へと突入する。