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ダンジョン『小鬼の洞穴(こおにのほらあな)』の中へ足を踏み入れた俺達。

昼前から潜り始め、3階と6階でそれぞれ軽い休憩をとった他はひたすら魔物を蹴散らしながら最短距離で徒歩移動、その日の夜には9階層の最深部へ到着した。


後はすぐそこの階段さえ下りれば、このダンジョンのボス部屋である。


だが朝からの移動の疲れが各自それなりに溜まっているのをふまえ、ボス戦を万全の状態で迎えるために、この日はテントを設営して休むことにした。






そして翌朝。

戦闘準備を整えた俺達4人は、10階層への階段を下り、ボス部屋前にやって来た。


黒く大きな扉を目にした俺の脳内に、先日の記憶が一瞬にしてよみがえる。

あの時は何もできず、ゴブリン達にボコボコにやられてしまって……。


……思い出すだけで足がすくみそうになる。




「大丈夫か?」

心配そうなテオの声。


「……ああ、大丈夫だ」


この再戦へ向け、ここしばらくテオとともにずっと特訓を積んできたんだ。

そして今回は、ウォードにダガルガという強力な助っ人達もいる。



――前回とは違う。


俺は心の中で改めて自分に言い聞かせた。





ダガルガが声をかけてくる。

「じゃこっからは、勇者であるお前さんがリーダーってことでよろしく頼むぜ!」

「……はい!」


心を決めた俺に、もう迷いは無い。

一呼吸おいてから、周りの面々の目をしっかり見て切り出す。


「では皆さん、準備はいいですか?」

「もちろんだ!」

「ああ」

「いつでもOK♪」


それぞれ笑顔で答えるダガルガ、ウォード、テオ。



「じゃ、行きましょう!」

俺は重い扉をゆっくりと開けた。




前回同様にゴゴゴと扉が開く音が響き渡ると、目の前に30m四方ほどの石造りの部屋が現れる。

その部屋の中央には……ダンジョンボスであるゴブリンリーダーが静かにたたずんでいた。



ゴブリンリーダーは俺達を見るなり顔を歪めて笑い、渾身の力で叫び声を上げる。


「グギャアアアァァーーーーーッ!!!」


その咆哮に応えるように、ゴブリンリーダーを中心とした風の渦と強烈な衝撃波が巻き起こり、体の周りの黒いガス状の物質は禍々しい黒紫色のオーラへと変わっていく。

ここまでは前回と全く同じ状況だ。



俺達は衝撃波をガードしつつ、飛ばされないようにしっかり踏ん張る。


「……話にゃ聞いてたが……こりゃヤバいぜ」

「ああ! エイバスのためにも、俺達できっちり倒してやんなきゃな!」

初めてボスの変身の様子を目にし、気を引き締めるウォードとダガルガ。



ややあって衝撃波がおさまると、【魔王の援護LV5★】 スキルで強化され、毒々しい色のオーラを纏ったゴブリンリーダーが、部屋の中央で邪悪に笑っていた。



素早くボスを鑑定したテオが鑑定結果を伝える。

「あいつ、この間とステータス同じだよっ」

「分かった」

俺はうなずくと、すぐに声を張って全員へ指示を出す。


「じゃあ皆さん、作戦通りお願いします!」


了解の返事と共に、ダガルガが大剣を、ウォードが槍を、テオが鞭を構え直した。



「ギギギ!」

ここで強化が一段落ついたゴブリンリーダーが剣を掲げ、【同族召喚LV3】スキルを発動。

怪しく光る粒子が勢いよく集まり、10体のゴブリン――棍棒ゴブリン5体、槍ゴブリン4体、弓ゴブリン1体――へと姿を変えた。




瞬時にゴブリン達の編成を把握した俺は、早口めに指令を飛ばしていく。


「ダガルガさんウォードさん、弓ゴブ・槍ゴブ全部、棍棒ゴブ1体殲滅、棍棒ゴブ4体残しで!」

「おうッ!」

「任せろ」


ダガルガとウォードはゴブリン達を挟むように飛び掛かった。



「テオは適宜、援護よろしく!」

「はいよー」


即座に支援スキルを発動するテオ。


「……ウィンドアーマー……ウィンドアーマー…………ウィンドボール、エンチャント!」


安定の無詠唱で『ウィンドアーマー――風魔力を鎧のように具現化して纏わせ、防御力を上げる風魔術――』をササッと前線の2人へ飛ばしてから、【エンチャント/魔術付与】スキルを使い、手持ちの鞭へ『ウィンドボール』を付与。

鞭を緑色の光がうっすら包むと同時に、テオもダガルガ達の元へと加勢に向かう。




俺は念のため剣と盾を構えながら、戦況を見守る。

ウォードは槍での突きと払いを上手く使い分け、ダガルガは大剣での重い斬撃を無駄なく必中させ、そしてテオは2人の間隙(かんげき)を縫うように鞭をふるいながら時々支援スキルを味方へかける。

相手のゴブリン達の攻撃をあしらいつつ、確実にダメージを与え1体ずつ撃破していく見事な連携攻撃は、さすがは元パーティメンバーたちといったところだろう。


今回の作戦は、まずゴブリンを倒して数を減らし、ある程度減ったところでボスへの攻撃に移る……と、基本的には前回と同じだ。


ただ前回とメンバーが違うこともあり、事前に話し合った結果、最初にゴブリンを減らすのはダガルガ・ウォード・テオの3人のみが担当。

俺はしばらくは様子を見、ボスへの攻撃に移ってから戦闘に加わることに決めたのである。




「……あと1体だな」

既に棍棒ゴブリン1体・槍ゴブリン3体・弓ゴブリン1体を消し去り、棍棒ゴブリン4体と槍ゴブリン1体を残すのみ。


召喚されたゴブリン達を3体以下に減らすと、ボスが追加でゴブリンを召喚してしまう。

だから4体を残して倒さないようにあしらうのが、最も効率が良い。

後々のことを考えると、ゲームと同様「遠距離攻撃が可能な弓ゴブリン」と「動きがトリッキーな槍ゴブリン」を先に倒し、「攻撃が最も単純な棍棒ゴブリン」のみを残したほうが楽だという理由で、俺は先の指示を出していた。




「でや!」

「キキャッ?!」


残っていた槍ゴブリンが、ダガルガの豪快な大剣さばきでとどめをさされ悲鳴を上げて消滅。

すると、ここまで余裕の表情でバトルを眺めていたダンジョンボス・ゴブリンリーダーの顔が静かな怒りに変わった。


このゴブリンリーダーは、戦闘開始直後は自分から攻撃してくることはない。

ただしボス自身に直接ダメージを与えるか、最初の召喚ゴブリン10体の内6体を倒すかすると、怒りで攻撃モードへ変わるのだ。




ボスの表情の変化を確認した俺はすぐさま、声を張り上げて皆に知らせる。


「ボス、来ます!!」

「おうよッ!」

「ああ」

「りょーかいっ」


ダガルガ・ウォード・テオの3人は短く返事をし、事前の打ち合わせ通りにフォーメーションを変え始めた。




すぐさまウォードが大声を出しながら、挑発するように槍を大きく振り回し、棍棒ゴブリン全員の注意を引き付ける

その隙にダガルガとテオが抜け、ダガルガはボスのほうへと走って移動


テオはボスとゴブリン達との中間辺りを陣取るように動き、ウィンドアーマーをダガルガ達へかけ直してから、武器を弓に持ち替えた。


そして俺はボスへと距離を少しだけ詰めるが、ダガルガより目立たない様に気を付けておく。




俺達の移動と同時進行で、まさに“鬼の形相”へと変わったゴブリンリーダーが剣を構えて襲い掛かってくる

そのターゲットは、わざと派手にボスの一番近くへ走り込んできたダガルガ。

ダガルガは反撃して相手にダメージを与えてしまわないよう気をつけながら、ゴブリンリーダーの斬りかかりを避けたり、時折は大剣の幅広な刀身でガードしたり受け流したりを繰り返す。


一方、4体の棍棒ゴブリンを引き付けているウォード。

彼にとっては1体1体は大した脅威ではないこともあり、しばらくあしらい続けるのは問題なさそうだ。

それはゴブリンリーダーを相手にしているダガルガも同様である。


また常に2人の中間辺りに来るような位置にテオがいる。

手数の多い彼のことだから、いざとなれば上手くフォローしてくれるだろう。




順調にフォーメーション移動が済んだのを確認してから、俺は剣を納め、盾だけを片手に魔術の詠唱を開始


今回の目的はダンジョンの浄化である。

よって、ボスであるゴブリンリーダーを覆う『闇の魔力』が完全に消え去るまでは、勇者である俺の【光魔術】のみでボスにダメージを与えなければならないのだ。



「……煌めく光達よ、鋭く尖れ。その穂先を研ぎ澄ませ。そして貫け、ライトジャベリン!」


練習通り、ゴブリンリーダーの脇腹へと綺麗に決まるライトジャベリン。

ゴブリンリーダーは「グギャッ!」と短く叫ぶと、魔術が放たれた方向、つまり俺を睨みつけて直進しようとする。





「おっと、相手は俺だぜぃ!!」

間に割って入るダガルガ。

ゴブリンリーダーは俺のほうへ向かってこようとするものの、その度にダガルガがワザとらしく邪魔をするように笑って立ちふさがる。


数回繰り返したところでゴブリンリーダーが怒り、完全にターゲットをダガルガへと戻した。




盾を構えつつその様子をうかがっていた俺だが、これまた作戦のとおり事が進んだのに安心したところで、再びライトジャベリンを発動した。






ボスの攻撃を一手に受ける盾役(タンク)をダガルガが担当。

彼とタイミングを合わせながら、俺が【光魔術】のライトジャベリンでボスを攻撃。

ウォードはボスが召喚したゴブリン達を引き付けて俺達に近寄らせないようにし、テオは弓やアイテムや魔術などを使って全体を援護する。


数十分が経過。

大きなミスも無いまま、俺たち4人はひたすら各自の役割をこなした。


ダガルガは変わらずゴブリンリーダーと剣を交え続けている。

テオの適度な回復のおかげもあってまだまだ余裕そうなダガルガに対し、ダンジョンボス・ゴブリンリーダーは怒りと苦しみが混じった表情。

ゴブリンリーダーを覆う闇魔力のオーラは、かなり薄くなってきたようだ。

おそらく光魔術が効いている証拠だろう……!


そんなことを考えつつ、何本目かのMP回復薬をグイッと飲み干す。

相変わらずの強烈な味にも、だいぶ舌が慣れてきた。

空いた小瓶を【アイテムボックス】へと放り込むと、途切れそうな集中力をどうにか奮い立たせ、もう何度目かも忘れてしまったライトジャベリンを発動する。



「……煌めく光達よ、鋭く尖れ。その穂先を研ぎ澄ませ。そして……貫け! ライトジャベリンッ!!」


――ビュウンッ!


俺が投げた『ライトジャベリン/光投槍』は加速し、ゴブリンリーダーへと真っすぐぶつかった瞬間、ドッと音を立てて爆発。

悲鳴とともに動きを止めるゴブリンリーダーだが、すぐに攻撃を再開してくる。



ここである変化に気付いた俺は、すかさずゴブリンリーダーを鑑定した。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

名前 ゴブリンリーダー

種族 ゴブリン

称号 ゴブリンの統率者、土の魔物

状態 疲労


■基本能力■

LV 5

HP/最大HP 96/103

MP/最大MP 14/24

物理攻撃 36+8

物理防御 27+3

魔術攻撃 11

魔術防御 18


■スキル■

剣術LV3、同族召喚LV3、土特性LV1


■装備■

錆びた剣(物理攻撃力+8)、破れた毛皮(物理防御力+3)、ぼろぼろのマント

・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「やっぱり……称号『魔王の僕(しもべ)』が消えてる!」


俺が気付いた変化、それは戦闘開始直後からボス・ゴブリンリーダーがまとっていた禍々しいオーラが見当たらなくなったこと

ゲームではこの闇魔力エフェクトが消滅すれば、ダンジョンの浄化自体は完了となっていた。


エフェクトの目視だけでは不安な場合、【鑑定】系のスキル使用者をパーティに編成しておき、ステータスを直接確認すればよい。

ボスのステータスから『魔王の僕』という称号および、その称号で解放されるスキル【魔誕の闇LV5★】【魔王の援護LV5★】という表示が消えていれば、浄化は完了しているはずだ。




「ダガルガさん! 浄化OKです!」

「まじかッ!!」


俺が叫んで伝えると、斬り合い中のダガルガは目を輝かせた。


「じゃ、倒しちまっていいんだよな?」

「お願いします!」

「おっしゃ!」


ダガルガが短く気合いを入れた。

そして今までの鬱憤を晴らすかのように雄叫びを上げ、ゴブリンリーダーへと派手に斬りかかる!


「どりゃああああああァッ!!」



――ズシャッッッ!


歴戦の猛者ダガルガ、渾身の力を籠めた一撃。

そんなものを喰らってしまっては、本来たったLV5であるゴブリンリーダーは、ひとたまりもなく……断末魔の叫びを上げることすらも許されず、パッと瞬時に粒子へ変わり消え去っていった。


ウォードが相手をしていた4体のゴブリン達も、召喚者と共に消滅。






しばしの沈黙。





「……終わった……」

ホッとした俺の声を皮切りに、ダガルガとテオは大きく喜びの声を上げて、ウォードは小さくフッと笑ってから、俺の元へと集まってきた。




大きく呼吸をしてから、皆へと声をかける。


「……皆さんお疲れさまでした! そしてダガルガさん、ウォードさん、ありがとうございました!」

「こちらこそだぜッ」

「いいってことよ」

弾ける笑顔のダガルガ、爽やかな笑顔のウォード。


「テオもありがとう。お前やっぱ支援うまいな!」

「へへっ♪」

照れくさそうに笑うテオ。


「タクトもさー、ライトジャベリンちゃんと使いこなせてたじゃん。練習の成果があったなっ」

「……ああ!」



練習の成果が出て、そしてボスを倒せて。

本当に……本当に良かった。


ブレイブリバース~会社員3年目なゲーマー勇者は気ままに世界を救いたい

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