───終わった
周りにL社、G社は居らず、
仮に居たとしても助けてはくれないだろう
「…」
息を吐き、目を閉じる
これからどうなるのかなどは極力考えないようにして
「スミレ!!!!」
とても聞き慣れたその声は、周りの絶叫にほぼ掻き消されながらも、私にはよく聞こえた
ガシッ
この声の主は私の首根っこを摑み
兎耳から背を向け全力で走った
後ろから聞こえてくる銃声も次第に遠くなっていき、人混みへ入ることが出来た
少し間を置き、私はその名を口にする
「…ハンス」
そうだ
私のことを助けてくれたのは他でもない、ハンスだったのだ
ハンスは私を下ろし、息も絶え絶えになりながら話し出す
「スミレ…大丈夫…っか?」
「大丈…夫。それよりコッチのセリフ何だけど」
そう言うとハンスは少し笑った
「…助けてくれて有り難う。
ハンスが来てくれなきゃ今頃…」
…死んでいただろう
「それは良かった。
人混みの中でスミレのこと探してたんだが、その時に一緒に選んだ斧が飛び上がって行ったのが見えてな。」
私は先ほどの事を思い出す
…そうか、あの時に
「急いで向かったらスミレがピンチだったって訳だ」
「そっか…本当に助かったよ」
色々とあったがハンスと合流する事が出来た
この人数の中で会えることが出来たのは奇跡と言って良いだろう
ただ…
「…これからどうしようかね 」
パッと見た感じハンスはボロボロだ
そこらかしこから出血し、明らかに疲労している
私もハンスも今戻った所でただ死ぬだけだろう
今会話をしている最中も、私達には目もくれず走っていく味方の勢いは収まる事は無く、前線では絶叫が響いている
「…1度あのビルへ避難して考えよう」
そう言ってハンスが指を指した場所は、今居る場所から最も近いビルだった
「…分かったよ」
そう言い自分の力で行こうとするも足がおぼつかず、今にも倒れそうだ
それを見たハンスは
「失礼するぞ」
そう言って私を抱きかかえた
「……」
正直思うところはあるが、このまま野垂れ死にたくもないので黙って受け入れる
───────────────
ビルの中へ入り、互いに持っていた包帯を使って止血する
(出血が酷い
特に正面の斜めに切られた跡は見ているだけで痛々しい…
俺がもう少し早く見つけられていれば…)
(…背中に弾痕が2、3発…
もしかして私を助けた時に…?)
最低限の止血が済み、その場所は外とは違いと静寂に包まれていた
「…それで、この後どうしようか」
…そうだ
スミレは止血したとはいえ、もう一度戦場に戻ろうものなら結果は火を見るより明らかだろう
それにハンスだってずっと走り回っていたためか疲労がたまっている
戻った所で何も出来ず犬死にだろう
…本当にどうしたものか
「逃げ出そう」
「…本気?」
と言いつつもスミレも同じ事を考えていた
ハンスは続ける
「このまま殺し合い続けて死ぬよりも、2人で事務所も名前も捨てて生きていかないか?」
「…いいよ」
迷いは無かった
カネも無いし事務所も失う事になったとしても、何だかんだハンスとなら生きていける気がしたのだ
「…本当にいいのか?」
「いいよ。
私もこんな所で死にたくないし
それに──」
思っていたことを口に出そうとして、やめる
わざわざ口にしなくても良いと思ったからだ
「ありがとう」
「お互い様だよ」
15分ほど休み、多少動けるようになったため外へ出る
先ほどと何も変わらない情景に背を向け、元の事務所まで駆ける
次ははぐれないよう気を付けつつ人の波をかき分け突き進む
少し視線を感じつつも気づかないフリをする
その際
「おい!!!何してんだお前ら!!!」
屈強な男に肩を摑まれる
服装を見る限りL社の社員らしい
「何逃げだそうとしてんだ!!
ここで俺がブッ殺…」
興奮した男のツラに一発叩き込んだハンスが私の手を引き、更に人混みをかき分け突き進む
「グ…あの2人は#“@+※!
────!!!」
男は何か言っていたが、この絶叫の中でそんな声が届く訳も無く、ただ掻き消されるだけだった
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