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掻き分ける人の数は徐々に少なくなり、ついに居なくなった所でハンスは今気づいたらしく、手を離した
「…あ、すまん」
「いいよ別に …それより」
スミレは今さっきまで掴まれていた手を見つめながら言う
裏路地に入り、自分らの事務所が見える所まで来ることが出来た
「ここまで走ったから滅茶苦茶 しんどいんだけど。
そこら中痛いし 」
そう言ってスミレは壁に寄りかかって不貞腐れた
「…本当にごめん。配慮が足りなかったな
ここから事務所までおぶってやるから。な?」
そう言いハンスは手を差し伸べる
(…あ)
何か見覚えがあると思っていたスミレは、今ハンスに手を差し伸べられた事で完全に思い出す
~~~~~~~~~~~~~~
この掃き溜めのような、いや掃き溜めそのものの裏路地で当てもなく必死に、だが死んだように生きていた時
ついに身体が限界を迎え壁に寄り掛かった
(クソ…あのドブネズミ共が…
もうすぐ掃除屋も来るってのに)
時刻は真夜中
裏路地で夜屋外に居るというのはあまりにも自殺行為だ
掃除屋に会えば姿形も残らず死ぬだろう
…だが、身体が動かないのだ
今日の昼に他のネズミと取り分で殴り合いになり、そこからこんな時間まで追いかけ回されたのだ
(…腹減った。 昨日から何も食べてないのに走り回ったから…)
(………もういいか)
少女はこの世界に疲弊しきっていた
常に苦しみ、悲しみ、そして暴力の絶えないこの世界で生きる事が億劫になったのだ
(…最後くらい…安らかに…)
そう思い、目を伏せる
「……ぃ……ぉい………」
何か聞こえる
掃除屋が来てしまったのだろうか
(…最後まで私に苦しめって事か)
意識が戻ってしまったことに絶望しながら目を開ける
…だが、そこに居たのは掃除屋ではなく、長身の男だった
「おい!!
…やっと目を覚ましたか!
さっさと付いて来い!」
……この男は何をしているのだろうか
空が黒く、私がまだ生きている事からまだ掃除屋は来ていないのだ
ろう
「…なにやってんだ?
もうすぐ掃除屋も来るだろ。
さっさと屋内に避難し…」
「だからだ!!」
私の声を遮って叫ぶ
少女は呆気にとられていた
「あそこに俺の事務所がある!
さっさと避難するぞ!!
君も死にたくないだろ!」
「…どうして?」
単純な疑問が漏れる
「…ただ見逃せなかっただけだ!!」
驚愕し、そして理解した
「…お前、都市に向いてないよ」
少女は続ける
「それをした所で何の得がある?
ここでは生きている人間全員敵だ。
優しくされたら疑え
奪われそうになったら奪い返せ
自分の命のためなら全て見捨てろ
……さっさと事務所に帰れ。死にたくないならな。 」
目がぼやけ、その男の顔は見えなかったが、ここまで言えば…
「なら、何故君は俺に避難しろと言ったんだ?」
予想外の言葉に困惑してしまう
「…もう少しで掃除屋が来るのは分かるな?なら…」
「それは君が俺を心配する理由にはならない。
それに君は俺に忠告までしてきた。
君も十分俺と同じ…都市に向いていない人間じゃないか?」
何も言い返せなかった
そんな私を見て、男はその一言をぶつけてきた
「君は、誰かの事を思える人なんじゃないか?」
……ただの戯れ言
私のように誰かを傷つけて生きてきたような人間には無縁の言葉だ
…だが、何故か心に響いた
「優しくされたらだとか、奪われそうにだとか、命のためだとか」
「…きっと、君が経験してきたことなんだろう?」
黙ってしまった
あまりにも図星だったから
私だって最初は誰かのために生きようとした
この誰も信じられない世界を否定したくて
…ただ、そんなことは不可能だった。ただただそれだけなのだ
「……今更そんなこと」
「なら、うちの事務所に来ないか? 」
私は驚愕した
この男には何度驚かされるのだろう
「出来たばかりで面子は俺一人なんだが…
最低限の生活は保証しよう」
そう言い、
男は手を差し伸べてきた
「……ハッ」
何が都市に向いてないだ
商魂たくましい奴じゃねえか
「乗ってやるよ
…生きる理由が出来ちまった」
男は少し目を見開き、
「ああ、これからよろしく頼む」
そう肯定してくれた
…コイツの為に生きたい
そう決心し、その手を───
~~~~~~~~~~~~~~
取った
「ごめんごめん。
ちょっと我が儘言っただけ
ハンスも怪我してるしね
こんくらい何ともないよ」
私は精一杯笑った
ハンスも微笑み、
「じゃああの時みたいにおぶってやろうか?」
「…あー」
ハンスも同じ事を思っていたようで、少し恥ずかしくなる
「…いや、自分で歩くよ」
あなたに頼るのではなく、一緒に歩んで行きたいから