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今年も、10月31日……ハロウィンがやってきました。
秋の収穫をお祝いし、死者様をお迎えし、一方で悪霊を追い払う……私たちにとって大切なお祭り。
だから私は、今年も家族みんなのために、美味しい料理をたくさん準備をしています。
キャベツやベーコンを混ぜたマッシュポテト。
ジャガイモのパンケーキ。
キャラメルで甘くコーティングした小さなリンゴ飴。
マカロニ&チーズ。
それに忘れてはいけないのが……。
「とっても美味しそうな匂いがするのぉ……ばあさんや」
「あなた……!」
「やっぱりか。この甘いかぼちゃの匂いは」
「そうですよ。あなたがずーっと昔から好きな、パンプキンパイですよ」
「そうかそうか。今年もこれが食べられるのか。ありがたいのぉ」
「私も、あなたに食べてもらえて、とても幸せですよ、おじいさん」
私がそう言うと、私が愛する旦那様はいつものようにキスをしてくれます。
すると……。
「あーお父さんとお母さん、まーた2人でいちゃついてるんだからー」
呆れ顔でキッチンに入ってきたのは、私たちの一人娘、サリ。
それから……。
「痛いっ!」
「あなた!大丈夫ですか!?」
私の旦那様の足の脛に、蹴りを入れたのが……。
「こら!ルイ!あなたのおじいちゃんに何てことするの!」
「だって……おばあちゃんとイチャイチャしてて、すっごいムカついたんだもん」
「またあなたはそんなこと言って!おじいちゃんに謝りなさい!」
「やーだねっ!!」
サリの一人息子であり、私のかわいい孫でもあるルイは、私の背中に隠れ、サリに向けてあっかんべーをしました。
まもなく小学校に入学するという、可愛い盛りです。
ただ……1つだけ大きな秘密が、この一家にはあります。
それが何かと言いますと……。
「ふふふ。しょうがない子だねぇ」
「お母さん!ルイを甘やかさないで!だからこんな……マザコンじゃなくてババコンになっちゃうのよ……」
「ふふふ。どうしましょう。私モテモテね」
「……お母さん、楽しんでない?」
「さあ、どうでしょう」
私はそう言うと、ルイの口の中にパンプキンパイのために作った特別なクリームを入れてやりました。
それは、ルイの口に合うように作ったものなので、すぐにルイは笑顔になりました。
「やっぱり、おばあちゃんのパイはさいっこうだね!」
ルイは私にぎゅっと抱きつくと
「おばあちゃん。生まれ変わったら今度こそ、僕と結婚してね」
と、熱烈なプロポーズをしてきました。
「あらまあ。どうしましょうか、おじいさん?」
私は、愛する旦那様に聞いてみました。
すると旦那様は、ルイに向けて大人気もなく手で大きなバツを作ると、こう言いました。
「ダメダメ。おばあさんは、これからもずーっと、おじいさんの大切な人だからね」
「そんなこと言って……最初の生まれ変わりの時は、おばあちゃんのこと忘れて牢屋に入れたくせに」
「あれは……そもそもお前がそう仕向けたんじゃないか。じいさんの目をごまかせても、そうはいかないからな」
「ちょっと2人とも!また前世の話で喧嘩しないの!ってお母さんもニコニコしてないで、2人を止めて!この話が始まると厄介なんだから!」
「はいはい。わかりましたよ」
そうなのです。
私たち4人には、前世の記憶が全て残っているのです。
私はシャルロットとしての記憶が。
旦那様はオリバーとしての記憶が。
サリは、シャリーとしての記憶が。
そしてルイは……。
「ねえねえおばあちゃん。次生まれ変わる時は、おじいちゃんを孫にしない?」
「どうしてそんなこと言うの?ルイ」
「だって、おじいちゃんにも僕がどれっだけおばあちゃんを取られて悔しかったか、思い知って欲しいんだもん」
「ルイや、そんなこと言うもんじゃないぞ。わしだってお前に取られそうになって悔しかった時くらいあるわい」
「1度目の生まれ変わりの時でしょ?あれさー卑怯だと思うんだよね。魔女狩りって名目で、おばあちゃんに近づく男はみんな殺してやるとか、思ってたんじゃないの」
「そもそも、お前がわしを殺さなければ、お前を殺す必要もなかったんじゃよ」
そう。
あのルイさんも、オスカーとしての生まれ変わりを経てから再び、私の孫として生まれてきてくれたのです。
それがわかったのは、ルイさんがルイとして生まれてから1年後のこと。
急に言葉を話し始めたと思ったら、私の顔を見た途端
「会いたかったよ、シャルロット」
と、キスをしたからでした。
1歳児が。
そしてそれを見たおじいさんは、私にこう言いました。
「おばあさん」
「なあに?」
「……養子に出さないか?」
「何でですか」
「このままだと……ばあさんをルイに取られそうな気がして」
「もう、何を馬鹿なことを言ってるんですか。みーんな、私たちの愛する家族なんですよ」
そう言って、おじいさんを説得はしたのですが……。
おじいさん……いえ……オリバーとルイさんは、実際の接点はなかったはずなのですが……どうも魂として生まれ変わる前の状態の時に何かがあったらしいのです。
その何かについては、何度か2人に尋ねたことはありましたが、2人とも秘密の一点張りでしたので、これ以上は深く聞かないように決めました。
「はいはいはい!家族内で三角関係やらないの。ルイも、早く仮装の準備しなさい。おばあちゃんに見せるために準備してきたんでしょ」
「あ!そうだった……!」
「まあ、今年はどんな仮装をしてくれるのかしら」
私が尋ねると、ルイはにんまりと旦那様の方を見てこう言いました。
「おばあちゃんを、絶対に泣かせない立派な騎士」
「……っ!!!」
この言葉の意味を、サリもわかっておりましたので
「こら!おじいちゃんを前世ネタで泣かせないの!」
と一発ルイの頭にゲンコツを入れました。
「いってえ!くそばばあ!何すんだよ!」
「何で母親の私がくそばばあで、おばあちゃんはくそばばあって言わないの!」
「くそばばあとおばあちゃんじゃ、心の綺麗さが違うんだよ、ばーか!」
「こらー!!!!」
こんな風に、前世の記憶がごちゃごちゃになり、大変なこともありますが……私は今、確かに幸せを感じております。
どうして前世の記憶が残ったままなのか……については、確かなことは分かりません。
ですが……。
「おばあさん……いや……シャルロット」
「何ですか、オリバー」
「……僕たち……幸せだね」
「そうね……」
そうして、私たちはまた、キスを交わします。
幸せな日々に感謝をする、キスを。
「シャルロット……1つお願いがあるんだけど……」
「何ですか?」
「……次生まれ変わっても……ルイじゃなくて、僕と結婚してね」
「ふふふ、それは、生まれ変わってみないと分からないわ。それに……」
私は、前世の仕返しとばかりに、お決まりの台詞をオリバーに言います。
「次は私のこと、忘れているかもしれないわよ」
「そ、それを言うなんてひどいよ。それに君も条件は同じだろ?」
「あら、私は大丈夫よ。だって……今世でも最初にあなたを見つけたのは……私なのよ。あなたはちーっとも気づいてくれなかったのに」
「そ、それを言われると辛いよ……」
「ふふふ」
私は、そっとオリバーを抱きしめました。
何度生まれ変わっても、大丈夫。
私はきっと、あなたを見つけ出せる。
そう、心の中で囁きました。
「おばあちゃんー見てみてー!」
小さな騎士さんに扮したルイが、私を呼ぶ声が聞こえました。
「いつか、ルイに君を取られそうで怖いな」
「そうね、油断していたら、そうなるかもしれないわ」
「やめてくれよ、本気で心配しているんだから」
オリバーは私の頬に軽いキスをすると、そのまま私が用意した料理のほとんどをダイニングに運んでくれました。
私は……命に感謝をしながら、残っていたパンプキンパイを持って、ダイニングへと走りました。
こうして、今年も無事に、家族みんなで幸せなハロウィンを迎えることができました。
来年も、再来年も、家族みんなで幸せでいられますように。
めでたしめでたし