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とある出版社が主催するエンターテインメント小説の新人賞公募イベントに、ある時異変が起こった。応募された小説作品の数が突然十倍に膨れ上がったのだ。
その出版社の公募担当者が、アルバイトで下読みをしているデビュー直後の新人作家たちを会議室に集めて言った。
「おい、君たち。応募作品の受け付け作業をしているのも君たちだったよな? 何かの間違いじゃないのか?」
新人作家たちは異口同音に答えた。
「いえ、確かに全部今回の新人賞の応募作品ですよ」
「ええ、私たちも不審に思って何度も確認しました。間違いありません」
やがて応募作品数が激増しているという事態は、程度の差こそあれ、他の出版社や文芸団体の公募イベントでも起きている事が分かった。
大手出版社、作家団体などが合同で調査をすると、その原因は応募者が生成AIで小説作品を制作しているせいだと判明した。
生成AIであれば、それまで小説を書いた事がない、それどころか、学校の課題以外で小説を読んだ事すらない人たちでも、小説作品を極めて短時間で作れてしまう事も分かった。
SNSではたちまち炎上が多数発生した。たとえばこんな内容の投稿が毎日のようにトレンド入りした。
「補助的に使うならともかく、小説そのものをAIに書かせるって、そりゃ反則だろ」
「生成AIって、ネット上のデータを学習してるだけだよな? 全く新しい物語なんて作れないだろ?」
「いやいや、三点リーダーを二つ続けて使ってないとか、?や!の後ろにスペース一個入れてないとか、そんな理由で一次審査で落とす人間の下読みよりマシなんじゃねえ?」
「審査が労力かかって大変だってんなら、審査もAIにやらせりゃいいじゃん」
「それ賛成。もっとも人間が金払ってそんな作品買うかって問題はあるけどさwww」
公募イベント、特に新人賞公募の存続に危機感を抱いた関係各社に、とあるAI開発企業が提案をした。その企業のAIが出力した文章には、AIで作成された事を示す電子透かしのような印を付けるという話だった。
関係各社はそれに飛びついた。そのAI企業に支払う手数料は億単位の莫大な出費となったが、公募イベントの存続には替えられなかった。
しかし応募者の方もしたたかなもので、AIの画面からワープロソフトのファイルにコピペすればその電子透かしが外せるという裏技が瞬く間に広がった。
出版社その他関係各社は、世界中の生成AI企業に数兆円もの費用を払って、別のファイルに移しても電子透かしが残る技術を開発させた。
ワープロ原稿での応募を禁止し、応募作品は原稿用紙に手書きした物に限定するとした新人賞もあった。しかし、AIが出力した文章を、手書きで原稿用紙に写すという猛者も多数出現し、解決策にはならなかった。
関係業界はさらに多額の資金を生成AI企業に支払い、文章の内容だけから、AIが作った作品を判別できる超高性能審査専用AIを作成してもらった。
過去作品のパクリや劣化コピーでしかないようなAI生成作品は100%判別出来るようになった。ここまで対策を取ったため、全てをAIが作成した小説作品はAIによる一次審査で弾く事が可能になった。
とは言え、折からの日本国内の深刻な人手不足のため、AIによる一次審査は各社が導入した。
ようやく、AIを使って楽をして新人賞などの公募に出そうとする物好きはいなくなった。各出版社は安心して新人賞公募を継続出来ると判断して胸を撫でおろした。
ところが、翌年のとある新人賞で、またも予想外の事態が起きた。AIの一次審査が応募作全てを落選させてしまい、「受賞該当作無し」という結果になってしまったのだ。
その出版社の役員たちまで参加して、その超高性能審査専用AIに全部落選にした理由を出力させた。応募作が全て、人間が自力で書いた物である事実を入力し、もしAIが書いた物が混じっていたら特定するようプロンプトを入念に調整した。
出版社の役員たちが固唾を飲んで見守る中、そのAIから返答がアウトプットされた。
「今回の応募作は、全て人間が主体的に書いた物である事を確認しました」
役員たちは、ほっと胸を撫でおろしたが、それに続くAIの回答を見て、唖然とした。
「人間が書く小説は、どれもこれも過去の作品、特に最近大ヒットしたエンタメ小説の二番煎じ、あるいは登場人物の名前だけ変えた二次創作まがいの物ばかりで、評価に値しません」
それがマスコミで報じられると、とあるまだ大して世間の評判になっていない小説投稿サイトの編集長が部下に向かって言った。
「な、よく分かっただろ? AIの使い方なんて、うちの会社程度でちょうどいいんだよ」
(終)
コメント
1件
「AI小説と新人賞イベント主催者企業の攻防」読みました…! 最初はAIと人間の応酬がスピーディーで、まるで本当に業界で起きてる話みたいなリアルさがあって、すごく引き込まれました。 最後の「人間の書く小説は二番煎じばかりで評価に値しない」っていうAIの返しと、その後編集長が言うセリフが、皮肉でいて考えさせられるなって…。なんだか胸の奥がざわつきました。 続き、すごく気になります🖤
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NARURI
47
ただの猫好き