コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
テオは念のため【隠密LV1】――半径3mの気配を消せるスキル――と、【気配察知LV1】――半径50m以内に生き物や魔物がいるかどうか何となく分かるスキル――を展開し、さらにドアや窓の外も含め用心深く周囲の様子を伺ってから、小声で俺に現状を説明していく。
トヴェッテ王国側とブラックアンカー側との間には内密に不可侵の取り決めがなされており、お互いが一線を越えない限りは干渉しないことになっているらしい。
またブラックアンカー側は「みだりに一般人を巻き込んだり、痛めつけたりしない」と王国側へ約束しているとのこと。
だが王国側もブラックアンカー側も「ブラックアンカーという組織の存在を隠したい」という点に関しては、利害が一致している。
そのため、うっかり街中で『ブラックアンカー』について喋ってしまうと……例え一般人であろうが関係なく、喋った人間も、話を聞いた人間も、王国とブラックアンカー双方から命を狙われかねないのだそうだ。
「……というわけ。組織側だけじゃなくて、もちろん王国側もそれなりに兵力を抱えてるから、敵に回したら最後……ただじゃ済まないかもな」
「…………」
……ゲームじゃよっぽどやり込まない限りブラックアンカーと関わることなんかないし、やり込んでもそこまで細かい設定なんか出てこねーし知らねーよ!
テオは溜息をつきつつ、顔がやや青ざめている俺に質問する。
「にしてもさー。例の組織のこと、タクトはどこで知ったんだよ?」
「そ、それは……」
テオの質問に困った俺は、適当に答えておく。
「……昨日……街中で入った店だったかな?」
顔を引きつらせるテオ。
「どこだっけ? どっかで小耳に挟んだんだけど…………すまん、俺もうろ覚えで思い出せないや」
「そっか……まぁとにかくタクト、気をつけろよっ」
「あ、ああ」
どうにかテオをごまかせたようで、ホッとする俺。
すっかり冷えてしまったブラックコーヒーをくっと飲み干すと、【アイテムボックス】からコーヒーポットを取り出し、湯気の立つコーヒーを注ぐ。
「あ、俺もおかわり」
とテオが空のカップを差し出した。
俺は「おう」と返事をして、テオのカップにも温かいコーヒーを入れる。
「ほらよ」
「ありがとっ」
おかわりのコーヒーを笑顔で受け取ったテオは、そのまま一口飲む。
俺も自分のコーヒーに口をつける。
口に含んだ瞬間パァッと広がる、ほろ苦い香りと、心地よい温かさ。
何となく、2人そろって一息ついたのだった。
食べ終えた朝ごはんを片付けてから、テーブル上に地図やメモ用紙といった書類を広げ、テオが入手してきた情報を整理する。
「調べてみた感じだと、トヴェッテ王国の情勢は、前に話した時とそんなに大きくは変わってないみたい。細かくは色々あったみたいだけど……今はあんまり気にしなくていいと思う。で、ちょっとこれ見てよっ」
テオが手元の資料を差し出す。
「この国に来た目的のひとつはトヴェッテ王国領土内の『フルーユ湖』に住みついた魔物の討伐ってことで、昨日はその魔物関係の情報メインに絞って、片っ端から集めてきたんだ! これは出現が確認された魔物の一覧。で、こっちがフルーユ湖周辺の魔物出現ポイントだって。地図のこの辺が魔力増幅の中心っぽくて、ダンジョンボスがいるんじゃないかって言われてる地点なんだけど……」
その後も話を聞きつつ資料に目を通した結果、フルーユ湖周辺の地理も出現魔物の種類やステータスも、ゲーム上とほぼ変わりないということが分かった。
ちなみに通常のダンジョンであれば、冒険者ギルドが懸賞金をかけて集めたダンジョン攻略情報を一般公開しているため、ギルドの資料室にいけば簡単に情報を集めることができる。
だけどフルーユ湖については、「湖周辺に、2年前から魔物が多く出現し始めたようだ」ということ以外、ギルドからは詳しい情報が公開されていない。
その原因は、フルーユ湖を取り巻く特殊な状況だろう。
2年前からフルーユ湖周辺に、それまでほとんどいなかったはずの魔物が集中して出現し始めた。
ここまでは各地のダンジョンと状況は同じなんだけど、たったひとつ違う点がある。
なお冒険者ギルドが定めたダンジョンに関する定義は、以下のようになっている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
■ダンジョンボスとは?■
周辺の魔力を増幅し、攻撃的な魔物を生み出しやすくするスキル【魔誕の闇】を持つ魔物。
■ダンジョンとは?■
ダンジョンボスを中心とし、そのボスの持つ【魔誕の闇】スキルの影響を受けているエリア。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
フルーユ湖周辺は、ダンジョンに限りなく近い特徴を持つエリアながらも、ダンジョンボスが見当たらないため、現状はダンジョンだと認定されていない。
よってギルドは『フルーユ湖周辺の魔物に関する情報提供』に懸賞金をかけることができず、冒険者達からの情報が全く集まらないのだという。
テオに言わせれば、「情報持ってる人はみんな、誰かがダンジョンボスを見つけてくれて、それで懸賞金がかかるのを待ってるんだよ! だって今情報公開しても1R(リドカ)の得にもなんないじゃん? ダンジョン関連情報提供の懸賞金って割と高いからさー」とのこと。
ひととおり説明が終わったところでテオが聞く。
「なぁタクト、質問ある?」
「とりあえずフルーユ湖関連については大丈夫だと思う」
「じゃーもし何かあったらその都度言えよっ!」
「ああ。それにしても……テオはよくこんなに情報集められたよな。冒険者ギルドからは、湖周辺に魔物が出現し始めたらしいってぐらいしか発表されてなかったのに」
「まぁね! トヴェッテにも昔の知り合いが結構いるからさー。挨拶がてら顔出して1曲演奏したり、酒の1杯でもおごって楽しく飲んだりすれば、みんな割と『ここだけの話だけど……』って色々教えてくれるんだよなっ」
「へぇ~。やっぱり情報集めの基本は酒場なのか?」
「それもあるけど…………」
言いかけた言葉を飲み込んだテオは、1人クスッと笑う。
「なんだよ?」
いぶかしんだ俺が聞くのだが、テオは笑顔のまま、はぐらかすように答えた。