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「…おい、」
「ん〜?」
「…重い」
机にカバンを置くや否や江華が飛び付いてきた。
「俺は重くな〜い、ァいたっ」
全体重をのしかけてくる迷惑な存在にエルボをかます。
「俺が重いんだよ馬鹿」
「颯太くんってば…ひっど〜い」
泣き真似をする江華。とてもウザイ。
「おい〜っ…す?つくんこ、なんか付いてるぞ」
渡辺がこちらを覗き込み、江華のことを興味深げに見つめている。
「悪霊に取り憑かれたー、渡辺祓って」
「ふっ。この陰陽師渡辺に任せろ!はァァァっ」
後ろに回り、江華の背中をひっぺがそうと奮起する。
が、意地でも動かない!とこちらにかかる力も大きくなる。
「っちょ、ぎぶ、ぎぶ」
腕が首に絡みつき息ができない。
「はぁ、はぁっ…なんなんだよお前…」
呆れと怒りを混ぜ合わせた目で訴えるが、捨てられた子犬の様な瞳で見つめられてしまい
あまり強く叱れない。
しばらくの間、江華と見つめあっていたが
萩谷が教室に入ってきたため、強制シャットダウンされた。
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「……おい」
「ん〜?」
「何回やれば気が済むんだ!」
二限開始時刻まで残り数分。再び江華が飛び付いてきた。
「もう授業始まるぞ」
「いいじゃ〜ん。どうせ次の授業は萩谷だから怒られないよ〜」
「っ、そゆ問題じゃ_」
「あーそっかー!俺とイチャイチャしてるとこ萩谷に見られるのが嫌なんだ〜」
その一言で体が一気に暑くなるのを感じた。
…そうなのか?俺、こいつに抱きしめられてるところを先生に見られたくないだけなの?
そんな思考を打ち切る様にドアの開く音がする。
「ほら!先生来たから戻れ!」
教室のざわめきに紛れて彼に囁く。
不満気な表情を浮かべながらも渋々自分の席に戻るのを確認し、自分も黒板へと体を向ける。
教卓の隣に立つ萩谷は、教科書をペラペラとめくっていた。
不思議とその姿に小さな怒りと悲しみが湧いて、彼の顔を見ることができなかった。
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「そうた〜帰ろ〜」
SHRが終わってざわめきが大きくなる教室。
「むり、これから部活」
「そんなのより俺と一緒に帰ろ」
ムッと頬を膨らす江華。そんなのとは何だ。
「ふざけんなよ…元々お前が誘ったんだろ」
4月。帰宅部を考えていたところ、江華にテニス部をゴリ押しされて仕方なく入った。
が、1ヶ月もしない内に入部させた当の本人は 「なんか思ってるのと違った〜」と辞めてしまった。
自分も辞めたいが、部員が少なくて先生が可哀想なので辞めようにも辞められない。
「ちぇ…そうたのばか」
「はぁ〜???」
「あほ!う〇こ!もう知らない!」
小学生か、とツッコミたくなるようなセリフを残して教室を出ていく江華。
「あいつ面白いな」
「渡辺…お前いつから」
「こうちゃんがお前に抱きついてるとこからかな」
苦笑いを浮かべるしかなかった。
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「あ、筑紫。部活終わりで悪いんだけど、それ職員室に戻しといてくんない?」
部活の顧問、竹内が手を合わせる。
「鍵ですか?わかりました」
「ごめんね〜、ありがとう」
テニスコートをあとにして、校舎まで戻る。
前まではめんどくさく感じていた事なのに今は違う。テンションが不思議と高くなる。
スキップをしたい気持ちを抑えて職員室まで向かった。
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「…失礼しました」
いつもなら、ドア付近の席にある大きな背中が丁度さっき入った時はなかった。
そんな単純なことで、先程までの気分がダダ下がっている自分に嫌気が刺す。
この気持ちを無くすために早く帰ろうと歩む速度を速めた。
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静寂が広がる下駄箱に一人。
理由のわからない悲しさを抑えるために夕飯は何か考える。
上靴を戻してスニーカーを取って
ふと、萩谷の下駄箱に目をやれば
靴が無く、室内用のスリッパが入っていた。
スニーカーに急いで足を通して外へと向かった。
走って少し経った頃、学校裏の花壇で萩谷を見つけた。
スコップを手にしゃがみこんで土いじりをしている大きな背中に、思いもよらずキュンとしてしまう。
「…花の手入れですか?」
「筑紫くん」
少し驚いた様子で顔をこちらに向ける。
が、興味が無さそうにまた土いじりを再開する。
「もう下校時刻は過ぎています。すぐに帰ってください」
こちらに目もくれず淡々と喋る萩谷。
そんな彼に、怒りと悲しみの混ざった複雑な感情が再び湧いてくる。
「…嫌です。」
彼の隣にしゃがみこむ。
萩谷は、ちらっとこちらを見ると、ため息を付きながら自分の足と足の間に顔を埋めてしまった。
「せんせい?」
「駄目です…。もう、」
「何がダメなんですか」
「もう、終わりにしましょう…。」
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