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雨。
街灯に照らされる夜道。
傘も差さずに向かい合う二人。
永瀬廉がゆっくりと〇〇の頬に触れる。
濡れた髪。震えるまつ毛。
〇〇が目を閉じる。
距離、あと数センチ。
キス――
寸前でカット。
次のカット。
室内。薄暗いリビング。
ソファに座る〇〇の手を、廉が引く。
そのまま引き寄せる。
視線が絡む。
息が混ざる距離。
ナレーション
「この恋は、止められない」
最後は、抱き合う二人の後ろ姿。
タイトルロゴ。
公開日。
――そしてXトレンド入り。
〇〇side
部屋のベッドに寝転びながら、スマホを見つめる。
トレンド1位。
「姫野〇〇」
〇〇「うわ……」
正直、分かってた。
でもここまでとは思ってなかった。
スクロール。
「リアルすぎる」
「絶対何かある」
「お似合い」
「恋してる顔」
〇〇「してないし……」
小さく呟く。
でも。
“恋してる顔”
その言葉に、指が止まる。
あのシーン。
雨の中。
廉の目が、あまりに真っ直ぐで。
一瞬、本気に見えた。
いや、見えたじゃなくて――
感じた。
〇〇「……考えすぎ」
画面を閉じる。
けど、また開く。
今度はファンの声。
「〇〇ちゃん儚すぎる」
「女優として最高」
「演技力えぐい」
その言葉に少し救われる。
あくまで“作品”。
あくまで“演技”。
それでいい。
……なのに。
抱きしめられたときの温度が、ふと思い出される。
〇〇「……やめよ」
スマホを胸に乗せて、天井を見る。
なんでこんなに落ち着かないんだろう。
廉side
仕事終わりの車内。
マネージャーが運転する後部座席で、スマホを開く。
トレンド入り。
想像はしてた。
でも。
廉「えぐ……」
通知の量が異常。
動画の再生数が跳ね上がってる。
コメント。
「リアル」
「ガチ感」
「お似合い」
廉は一度、目を閉じる。
二ヶ月。
ほぼ毎日一緒だった。
笑って。
ぶつかって。
真剣に向き合って。
撮影終盤。
自分の気持ちが少し変わってることに、気づいた。
役を通してじゃない。
姫野〇〇個人に対して。
特報の雨のシーン。
あれは正直、役だけじゃなかった。
廉「……あかんやろ」
小さく笑う。
でも否定できない。
Xをスクロール。
「関西ジュニアからの絆エモい」
その言葉に胸が少し温かくなる。
昔から知ってる。
泣き虫だった頃も。
負けず嫌いなところも。
努力家なところも。
だからこそ。
あの距離は、自然だった。
廉「……どうすんねん、俺」
画面にはまだ、抱き合う二人のサムネイル。
バズっているのは映画。
でも揺れているのは、自分の気持ち。
車は静かに夜の街を走る。
二人はそれぞれの場所で、同じトレンドを見ている。
そしてまだ、
北斗は何もしらない。廉が〇〇を想ってることを
ーーーーーーーーー
〇〇side ― 通知
部屋の明かりは落としてある。
スマホの光だけが天井に反射する。
まだトレンドは動いてる。
「姫野〇〇」
「永瀬廉」
「お似合い」
画面を閉じようとした、その瞬間。
通知。
廉。
心臓が一拍、遅れる。
〇〇「……なんで今」
開くか迷う。
でも、既読がつかないのも変。
タップ。
廉
見た?
短い。
それだけ。
〇〇は少し笑う。
〇〇
見たよ。やばいね
既読がすぐつく。
数秒。
また通知。
廉
正直どう思った?
指が止まる。
どう、って。
〇〇
どうって何が?
既読。
しばらく返信が来ない。
打っては消して、をしてるのが分かるくらい、間がある。
胸が変にざわつく。
そして。
廉
あの雨のシーン
息が止まる。
あれ。
一番バズってるやつ。
〇〇
うん
廉
演技やけどさ
さらに数秒。
廉
ちょっとだけ、本気入ってた
画面がぼやける。
〇〇「……は?」
冗談?
いや、廉はこういうことを軽く言うタイプだったけ?
〇〇
なにそれ笑
既読。
すぐ。
廉
そのままの意味
〇〇の喉が乾く。
頭の中で、あの雨のシーンが再生される。
近い距離。
真っ直ぐな目。
震える呼吸。
〇〇
酔ってる?
廉
酔ってへん
間。
そして、もう一通。
廉
映画終わってから気づいた
静かに心臓が跳ねる。
〇〇はベッドから起き上がる。
落ち着かない。
〇〇
なにに
既読。
長い間。
そして――
ーーーーー
廉side ― 決意
部屋。
ソファに座って、スマホを握っている。
送ってしまった。
でももう戻れない。
ずっと考えてた。
二ヶ月。
毎日隣にいて。
終わった瞬間、急に寂しくなった。
それが答えだった。
廉
〇〇のこと、気になってる
送信。
指先が少し震える。
既読がつくまでの数秒が異常に長い。
ついた。
でも返信が来ない。
廉「……頼むから既読スルーやめてくれ」
小さく笑うけど、内心は本気。
また通知が鳴る。
〇〇
それ役じゃなくて?
胸がぎゅっと締まる。
廉
役やったら、撮影終わったら消えてるやろ
即答。
これは、迷わなかった。
さらに打つ。
廉
関西のときから知ってる〇〇やのに
今さらこんなん言うのズルいの分かってるけど
一度止まる。
でも、もう一通。
廉
俺、本気で言ってる
送信。
息を吐く。
天井を見る。
逃げないと決めた。
今までの関係が壊れるかもしれない。
でも。
特報がバズってる今、
「お似合い」って言われてる今、
自分の気持ちを誤魔化したくなかった。
スマホを握ったまま、返信を待つ。
ーーーーーー
〇〇side
「俺、本気で言ってる」
その文字を何度も見る。
関西ジュニア時代からの仲。
ずっと友達。
それが急に、変わる?
胸の奥が、熱い。
でも怖い。
〇〇
……今さらだよ
送信。
その一文に、いろんな感情を込めた。
今さら。
友達なのに。
タイミング悪すぎ。
でも。
嫌とは、言ってない。
画面の向こうで、廉はどう思ってるんだろう。
夜はまだ、長い。
ーーーーー
〇〇side
スマホを握ったまま、動けない。
廉からの
「俺、本気で言ってる」
が消えない。
今さらだよ
って送ったけど。
それ、本当は半分嘘。
今さら、じゃない。
気づかないふりしてただけ。
撮影終盤。
距離が近くなったのは役のせい。
そう思い込んでた。
でも。
クランクアップの日。
花束をもらって、握手が少し長かったあの瞬間。
手、離しづらかった。
あれは?
演技?
違う。
胸がざわついてた。
通知。
廉
今さらやから言ってる
〇〇の喉が鳴る。
逃げ道、塞いでくる。
〇〇は深呼吸して、打つ。
〇〇
正直さ
あの雨のシーン、ちょっと怖かった
送信。
数秒で既読。
廉
なんで
〇〇
廉の目、本気に見えたから
送った瞬間、顔が熱くなる。
消したい。
でももう遅い。
既読。
間。
そして。
廉
本気やった
!////////嘘でしょ。
心臓が強く打つ。
画面を持つ手が少し震える。
〇〇
……ずるい
廉
何が
〇〇
友達のままでいられへんやん、そんなこと言われたら
打った後、固まる。
これ、ほぼ認めてない?
でも否定もしてない。
既読。
すぐ。
廉side
メッセージを読んだ瞬間、息が止まる。
「友達のままでいられへんやん」
それはつまり。
嫌じゃないってことやろ。
廉は立ち上がる。
じっとしてられない。
廉
じゃあ、変わろうや
送信。
さらに。
廉
今から会われへん?
自分でも驚くくらい、迷いがなかった。
深夜。
普通なら言わない。
でも今、この勢いじゃないとまた“友達”に戻る気がした。
既読がつく。
長い沈黙。
心臓の音がうるさい。
廉
顔見て話したい
追い打ち。
数秒。
数十秒。
やっと通知。
〇〇
今から?
廉
うん
近くまで行く
即答。
本気やと、伝えるために。
また既読。
打っては消してるのが分かる間。
そして。
〇〇
30分だけ
その文字を見た瞬間。
廉は小さく笑う。
廉
十分や
コートを掴む。
鍵を取る。
心臓はうるさいまま。
でも迷いはない。
〇〇side
スマホを置く。
鏡を見る。
なんでOKしたんやろ。
でも。
断れなかった。
“友達のままでいられへん”
それ、本音。
怖い。
関係が壊れるの。
でも。
変わらないまま終わる方が、もっと嫌かもしれない。
インターホンが鳴るまで、あと少し。
夜が、動く。
ーーーーー
マンション前
〇〇side
インターホンを押す手が、ほんの少し震えてた。
モニター越しに映る廉。
帽子を深く被ってるのに、目で分かる。
〇〇「……上がって」
自分でも驚くくらい自然に言葉が出た。
数分後、エントランスの自動ドアが開く音。
夜の空気と一緒に、廉が入ってくる。
廉「ほんまにええん?」
〇〇「外で話すよりマシじゃん!」
強がり。
本当は、外よりこっちのほうが緊張する。
エレベーター
扉が閉まる。
狭い空間。
静かすぎる。
機械音だけがやけに大きい。
並んで立つ。
肩が触れそうで触れない距離。
沈黙。
廉「……」
〇〇「……」
気まずい。
さっきまでLINEであんな話してたのに、顔を見ると何も言えなくなる。
廉が小さく息を吐く。
廉「なんか、撮影の密室シーン思い出すな」
〇〇「やめて笑」
思わず笑う。
でもすぐまた静かになる。
エレベーターの階数表示がゆっくり上がっていく。
心臓の音も一緒に上がる。
廉「緊張してる?」
〇〇「してないよ」
即答。
廉「嘘やん」
横目で見ると、廉の喉仏が上下するのが見える。
廉も緊張してる。
その事実に少しだけ安心する。
チン、と音が鳴る。
扉が開く。
部屋の前
鍵を差し込む手が、また震える。
〇〇「変なとこ見んといてな」
廉「何年の付き合いやと思ってんの」
ドアが開く。
二人きりの空間。
急に現実味が増す。
部屋の中
リビングに入る。
ソファとテーブル。
さっきまで一人だった空間に、廉がいる。
それだけで空気が違う。
〇〇「飲み物いる?」
廉「水でええ」
キッチンに向かう背中に、視線を感じる。
振り向けない。
コップを持つ手が冷たい。
〇〇「はい」
渡すとき、一瞬指が触れる。
そのまま離れる。
ソファに少し距離をあけて座る。
また沈黙。
廉「……落ち着かんな」
〇〇「そりゃそうやろ」
廉はコップをテーブルに置く。
廉「今日さ、特報見て思った」
〇〇は視線を向ける。
廉「撮影してるときより、今のほうが怖い」
〇〇「なんで」
廉「役やったら守られてるやん。今は素やろ」
その言葉に胸が締まる。
〇〇「私、仕事の話してもいい?」
廉「うん」
〇〇は深呼吸する。
〇〇「私、今ほんまに大事な時期やねん」
真っ直ぐ見る。
逃げない。
〇〇「主演作が続いて、評価もついてきて。
“誰かの彼女”より、“女優”として見られたい」
廉は黙って聞く。
〇〇「恋愛が悪いわけちゃう。
でも今、気持ちに全部持っていかれたくない」
静かな部屋に、自分の声が響く。
〇〇「廉のこと、嫌じゃない」
その一言で、空気が揺れる。
〇〇「むしろ……」
少し視線を落とす。
〇〇「好きって言われて、嬉しかった」
廉の呼吸が止まる。
〇〇「でも、今はまだ返事できない」
正直に言う。
〇〇「私、自分の夢もちゃんと掴みたい。
中途半端なまま誰かと始めたくない」
長い沈黙。
時計の音だけが聞こえる。
廉はゆっくり息を吐く。
廉「やっぱ好きやな」
〇〇「重い笑」
廉「分かってる」
少しだけ笑う。
でも目は真剣。
廉「返事いらん。ただ、俺の気持ち知っといてほしかっただけ」
〇〇は胸が熱くなる。
廉「待つとか軽々しく言わん。
でも、諦めるつもりもない」
その言葉に、鼓動が強くなる。
近い。
でも触れない距離。
エレベーターより静か。
〇〇「……ありがとう」
小さく言う。
廉は立ち上がる。
廉「今日は帰るわ。これ以上おったら、余計なこと言いそう」
〇〇「なにそれ笑」
廉「今はちゃんと待てる男でおりたいねん」
ドアの前。
靴を履く。
振り返る。
廉「久々に〇〇の関西弁聞いたかも笑」
〇〇「気づいたら出ちゃうの!」
廉「好きやで」
さっきより優しい声。
〇〇は数秒見つめて。
〇〇「…////知ってる」
扉が閉まる。
静寂。
部屋に一人。
さっきまで隣にいた温度が、まだ残ってる。
ソファに座る。
胸に手を当てる。
〇〇「……どうしよ、私」
仕事も。
気持ちも。
どっちも本物。
ーーーー
〇〇side
カチャン。
ドアの閉まる音が、やけに大きく響く。
数秒、そこから動けない。
さっきまでそこにいた温度が、まだ残ってる気がする。
〇〇「……はぁ」
ソファにゆっくり座る。
静かすぎる部屋。
さっきまで二人分あった空気が、一人分に戻る。
でも胸の中は戻らない。
廉の言葉が何度もよみがえる。
好きやで
諦めるつもりもない
顔を両手で覆う。
〇〇「ずるいって……」
あんな真っ直ぐ言われたら。
嬉しくないわけがない。
撮影終盤。
距離が自然になっていったこと。
雨のシーンで目を閉じた瞬間、ほんの少し安心したこと。
クランクアップで握手が長くなったこと。
全部、思い出す。
でも。
スマホを手に取る。
仕事用のスケジュールアプリを開く。
びっしり詰まった予定。
新作映画の打ち合わせ。
CM撮影。
雑誌の表紙。
インタビュー。
〇〇「ここで止まりたくない。」
小さく呟く。
恋愛は素敵。
でも、それが話題の中心になる怖さも知ってる。
トレンド。
匂わせ。
憶測。
“女優”より“誰かの恋人”で消費される未来。
それが嫌。
〇〇「……でも」
胸に手を当てる。
正直に言うなら。
ゼロじゃない。
廉を失う未来を想像すると、少し寂しい。
友達に戻るのも違う。
でも今すぐ進むのも違う。
〇〇「タイミングって何」
答えのない問い。
天井を見つめる。
恋も夢も、どっちも本気。
欲張りなんかな、私。
でも。
どっちも諦めたくない。
目を閉じると、エレベーターの沈黙が蘇る。
あの気まずさ。
あの距離。
嫌じゃなかった。
むしろ、心地よかった。
〇〇「……困る」
そう言いながら、少し笑う。
完全に否定できない自分がいる。
それが一番厄介。
廉side
マンションを出て、夜風を吸い込む。
冷たい。
でも頭は妙にクリア。
廉「はぁ……」
緊張してたんやな、と今さら気づく。
歩きながら、さっきの会話を反芻する。
嫌じゃない
嬉しかった
でも今は返事できない
それだけで十分やと思った。
即OKじゃない。
でも拒否でもない。
廉「欲張りやな、俺」
ポケットの中のスマホを握る。
追いLINEはしない。
今はしない。
それくらいの余裕は持ちたい。
車に乗り込む。
エンジン音が静かに響く。
ハンドルを握りながら、天井を見る。
廉「仕事大事にしてる〇〇が好きなんやろ」
だからこそ。
そこを邪魔したくない。
でも。
廉「諦める気もないけどな」
小さく笑う。
二ヶ月。
毎日隣にいた時間は嘘じゃない。
演技の積み重ねの中で生まれた感情も、本物。
廉「待つって言ったけど」
信号待ちで止まる。
赤い光。
廉「ただ待つだけちゃう」
自分も上に行く。
もっと大きい作品。
もっと評価。
隣に並んだとき、胸張れる自分でいるために。
青に変わる。
車が走り出す。
夜の街を抜けながら、ふと思う。
今日、手を伸ばさなかった。
触れなかった。
それは我慢やなくて、選択。
廉「ちゃんと選ばれたい」
役じゃなく。
勢いじゃなく。
姫野〇〇が、自分で決めた答えとして。
ハンドルを握る手に、少し力が入る。
恋も。
仕事も。
どっちも本気。
だからこそ簡単じゃない。
でも。
その難しさすら、悪くないと思ってる自分がいる。