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花吐き病パロ
ゴホッ…ゴホッ……
何かが、喉に引っかかっているような気がして
僕は思わず咳き込んだ。
自分の手に目をやると、
そこには花弁があった。
僕はどうやら”花吐き病”になってしまった
らしい。
花吐き病は片思いを拗らせると口から
花を吐き出す様になる。
根本的な治療法は未だ見つかっていないけど、両思いになると白銀の百合を吐き出して完治する……らしい。
自覚はしていた。
自分は恋しているんだと。
でもそれほど拗らせていたのかと、
自身でも驚いてしまった。
僕が想いを寄せているのは
レイン・エイムズ。
神覚者だ。
同性の男だし、高嶺の花の存在だから、
当然この恋が実ることは無いだろう。
それに告白したとして、きっと面倒くさがられるに決まっている。
レインくんにとって僕は”世話の焼ける後輩”
だとしか思っていないだろう。
これ以上迷惑をかけたくない、そう思って
僕はこの病気のことをレインくんに隠すようになった。
「……マッシュくん大丈夫?告白しないの?」
ルームメイトのフィン君がそう言ってきた。
彼には僕が花吐き病になったことも知ってるし、レインくんに想いを寄せているのも知っている。
「大丈夫だよフィンくん。僕が告白しても
きっと振られちゃうよ」
僕は平気そうに言った。
「だけどこのままじゃマッシュくんが……」
泣きそうになるフィン君に、僕は微笑むことしか出来なかった。
あぁ、なんて優しいんだろうか、
僕がレインくんを好きだと告白した時も
優しい言葉をかけてくれた。
僕のことでこんなにも悩んでくれるなんて。
本当に良い友達を持ったな。
なんて思ってると、
「ゔっ……ゴホッ……」
口から次々と出てくる花弁。
「マッシュくん!待ってて!袋持ってくるから!」
フィン君は焦って袋を取りに言った。
吐き気が治まった僕は自分が吐いたその花弁をつまみ、憎たらしく見た。
この花は言うなれば僕の心の化身だ。
だから憎い。
綺麗な花びらだなんて思うものか。
「マッシュくん!持ってきたよ!」
息を切らして、黒い袋を持ってきてくれたフィン君にありがとうと言って、その憎い花弁を袋へ乱暴に入れた。
このまま僕が花を吐き続ければ
体が衰弱して、死んでしまうだろう。
レインくんに僕の気持ちを知られたくない。
でも死にたくもない。
僕の考えは矛盾していた。
「あ……兄様……」
いつもの昼過ぎ。
昼食が食べ終わり、
廊下をフィン君と歩いていると、レインくんがいた。
ヒュッと息を飲む。
レインくんを見ると、心がぐちゃぐちゃになる。
どうしたらいいのか分からない。
そこに立ち尽くしていると、僕たちに気づいたのか、レインくんがこっちへ向かってきた。
嫌だ、来ないで欲しい。
僕の心がそう叫んだ。
「フィンにマッシュ、こんな所でどうした。」
「あ、その……」
フィン君は気まずそうに口ごもった。
僕も何も言えない。
今口を開けたら花が出てきそうで怖かった。
その様子をレインくんは不思議そうに見ている。
「ぼ、僕達もう行くね……!」
フィン君はそう言って、僕の手を掴み、
そそくさとその場を離れた。
「……ありがとう、フィン君」
フィン君に気を使わせてしまった。と、
罪悪感が込み上げてきた。
「ううん、どうしたらいいか分かんないもんね」
そう微笑むフィン君に涙が溢れた。
「ありがとう……ありがとう……フィン君……」
「うん、大丈夫だよ。マッシュくん」
そんな僕をなだめるように優しく抱きしめてくれた。
一方で
「俺は何かしてしまったのか……?」
と僕たちがいなくなった廊下で、そう悲しそうに零す神覚者がいたらしい。
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