もしも旭高校の理事長・村雨雄大が、欲望を全肯定するあの「鴻上会長」と完全に一致してしまったら、物語のテンションは爆速で加速しそうですね。旭高校の理事長室。重厚な扉を開けた風太郎を待っていたのは、蓄音機のノイズ混じりのメロディと、凄まじい勢いで生クリームを泡立てる村雨理事長の姿だった。
「……失礼します。上杉です。今回の五つ子の模試の結果を……」
「ハッピーバースデェッ!! 上杉くん!!」
風太郎の言葉を遮り、村雨は叫ぶ。彼はコック帽を被り、一心不乱にケーキの土台をデコレーションしていた。今日は五つ子の誕生日でも、風太郎の誕生日でもない。
「あの、理事長。今日は誰の誕生日でもないはずですが……」
「何を見ているんだね! 今日は、君が『昨日までの自分』を脱ぎ捨て、新たな『欲望』へと足を踏み出した……輝かしき再誕の日だ! 素晴らしいッ!!」
村雨は完成したばかりの巨大なケーキを差し出し、眼光を鋭く光らせる。
「五つ子を教えるという苦難を選んだ君の欲望……。いい、実によい! 彼女たちもまた、それぞれが異なる欲望を抱え、ぶつかり合い、そして成長しようとしている! まさに、欲望こそが生命のエネルギーだ!」
呆然とする風太郎を余所に、村雨は蓄音機の針を落とし直す。鳴り響くのは、荘厳なまでの『Happy Birthday To You』。
「上杉くん、私はね、停滞を何よりも嫌う。5人が同じレベルで止まることなど望んでいない! 彼女たちが互いを食らい尽くすほどの勢いで、自らの愛を、知識を、未来を欲する姿が見たいのだよ!」
五月が通りかかれば「食べたまえ! 君の食欲という名の欲望を、私は全肯定する!」と特大ケーキをワンホール押し付け、二乃がいじけていれば「強い意志こそが力だ! さあ、その衝動を解き放つんだ!」と背中を叩く。
風太郎が「あいつらの成績が上がらないのは俺の責任で……」と弱音を吐こうものなら、村雨は机を叩いて立ち上がるだろう。
「情けないことを言うな! もっと欲したまえ! 五つ子全員を100点に導き、なおかつその先にある栄光をすべて手に入れる……それぐらいの巨大な欲望を持たなくてどうする!」
物語のクライマックス、風太郎が誰か一人を選ぶ場面でも、村雨は影から現れて高らかに叫ぶはずだ。
「さあ! 選びたまえ! 誰との未来を、君はハッピーバースデーさせるのかね!? 素晴らしい……! 欲望の結末を見届けさせてもらおうッ!!」
最終的に、卒業式は巨大なバースデーケーキのキャンドルを五つ子と風太郎が吹き消すという、前代未聞の儀式へと変貌を遂げる。旭高校は、知性だけでなく「欲望の強さ」を競う、世界で最も熱い学園になってしまうに違いない。






