色んなことがありすぎて疲れてしまった。
俺のライフはもうゼロよ。
あのあと気づけば23時で、急いでるなさんを最寄駅まで送っていった。
歩く二人の距離は今日のどんな時よりも近い。
でも時々、近くなったり遠くなったりして互いの距離を探していた。
「…おやすみ」
「またあした」
ここが家だという手前で別れた。
るなさんは最後の挨拶から三度、振り返って手を振ってくれた。
何度もこちらを見てくれるから帰れなくて。
顔を逸らせず、ちょっとずつ後ろへ下がる。
彼女が家に入ったのを見届けて、やっと来た道の方向へと体を向けた。
「”また明日”か…」
別れの挨拶が特別なモノとして色づいたこと。
脳裏に浮かぶは、俺の目を見て恥ずかしそうにはにかむ彼女。
それを受け止めるのに、今日は精一杯だった。
るなさんのLINEで目が覚めた。
かわいらしい”おはようございます”のスタンプ後、『朝ごはん一緒にいいですか』の文字。
「 るなさんて以外と積極敵だな…」
ぼんやりとする頭の中で文字を追う。
爆睡したためか、あんなに疲れ切ってた体は嘘のように軽かった。
。:* .・゚.゚・. *̣̩
「夏休みこっちにくるの?」
「サマラン行かない?ってじゃぱぱさんから誘われました。」
早くも夏の予定が立ち心は浮立つ。
よかった、また会えると安心した。
「この間情報解禁されましたね、シヴァさん久々のニンゲンさんですね!」
「カエルさん多かったから…でも俺の喜んでくれるヒトなんているのかな?」
自虐的な笑みを浮かべ、跳ねる後ろ髪を撫で付けた。
「いますよぉ、はげずだって人気じゃないですか」
「あれはうりとなおきりさんでもってるだろー」
「シヴァさんわかってない…」
「?」
るなさんが頬を膨らましピーチフローズンティーをすすった。
カウンターテーブルにふたりで並んでいるので、ぷっくりした頰しか見えない。
ハムスターみたいだな、思い浮かべて心の中で笑ってしまった。
「サマランみんなで行こうって、びっくりすることあるかもよ〜…?とかじゃぱぱさん言ってたのは、るなさんのことだったのか」
「…本当は、みんなにはまだ内緒なんだけど…シヴァさんには一番に言いたかったので」
そう言うとるなさんは肩をあげ、一つに束ねた髪を片手で撫でた。照れている。
やることいちいち心臓がしんどくなる。
「東京どんくらいいるの?」
「あまり長くはいることができません。頑張って---1泊2日かな」
「シェアハウスに?」
「そのつもりです」
頭では二人きりでいられる時間を計算した。
どう考えても難しい。
「…そっか」
「みんな夏休み投稿大変だろうし、るな長居するつもりないんです」
「だよな」
会って遊んですぐさよならか。仕方ないよなと思いつつ、どうしても残念な気持ちを否定できない。
「じゃあ、夏には会えるね」
「…ですね」
二人だけの時間があればいいななんて贅沢か。
このくそ忙しい時期に会えてラッキーということにした。
「あの」
「ん?」
「シヴァさ「っ、ごめんじゃぱぱさんからだ」
振動がくっそうるさい、 誰だよと苛立ちながらスマホを握るとうちのリーダーじゃねーか空気読めよ。
「…ん?」
切れないあたり急ぎの用事だろう、通話ボタンを押し耳に当てた。
「なにどうし…撮影時間?昼からだろ?」
電話の向こうでじゃぱぱさんと、あと数人声がした。シェアハウスからだ。
るなさんがこっちを覗き込んだ。
「早めたい?え。何時から…俺最速で13時かも---「ひゃぁ!」
「うわ、大丈夫?」
「はいなんとか---」
るなさんがピーチフローズンティーを不注意で倒してしまったらしい。
幸い中身がほぼなかったので、少し溢れただけだった。
『シヴァさん、いま女の子といんの?』
「…」
げ。
「…なんでそう思うの?」
『いやだって今めっちゃかわいい声したじゃん!』
「気のせいじゃない?」
『だってシヴァさん大丈夫って』
聞こえたのか。
横でるなさんがはらはらしてる。
大丈夫だと片手で制した。
「じゃ、13時から入るな」
『あ、ちょっと!』
強制終了した。
「あのごめんなさい、るなが…」
「大丈夫だよ、ごめんな。 言うか言わないか、るなさんから聞いてなかったし濁したわ」
ワハハなんて笑ってはみたが。
さてどうしようかな、るなさん次第で俺は後処理に回らなければならない。
個人的にはまだ言いたくない、うっせぇもん絶対。
「あのぅ…えとちゃんは、実は知ってて」
「そのあたり知ってるんだ。あとうりとなおきりさんも」
「そ、そうなんです。…じゃあ他の人たちにはまだ。恥ずかしいから内緒にしたい、です。」
「じゃ、そうしよな。言いたくなったら言おうか」
といいつつ、そんな日が来るのか。
知られたら根掘り葉掘り聞いてきそう。未来永劫だまっててもいいかも。
「…みんなるなたちのことがわかったら、なんて言いますかね…」
「ナンテイウカネ」
100パー詰められるに違いない。
想像しただけで面倒くさい。
やっぱり考えたくなくて、るなさんに話す言葉がカタコトになった。
「るな駅まで行かなくていいんですか?」
「バイトだろ?いーよ。ここで」
じゃぱぱさんに13時と言ってしまったのでもう大阪を出ないと間に合わなかった。二人で電車に揺られた。
「改札までいきますよ?」
「や、いいよ。面倒だし」
「…面倒じゃないです」
るなさんがむすっとして下を向く。
しまった、言葉選びを間違えた。そうじゃないよと慌てて付け加えた。
「今度は俺が見送りたい気分だったの…この間はるなさんがみんなを見送っただろ」
「それは、みんなが来てくれたから」
「まぁ、そうだよな。だからー…その、今度は俺がるなさんを見送りたいなと思って」
見送る側って寂しくないか。
だからあまりさせたくなかった。
2月に遊びに行った大阪の帰り、るなさんは見送ってくれた。けどあの時の、耐えている表情が見ていて辛かった。
せっかくなら明るく笑って欲しいんだ。
そこまで言ってみたが、あんまり納得してくれてない様子。
もう一声かな。ならば、と口を開いた。
「るなさんの元気な”行ってきます”が聞きたい。いい?」
「…はい」
「で、俺が”いってらっしゃい”って言いたいんだ。」
「わかりました」
さよならやバイバイは言いたくない。できたら、いってらっしゃいとまたねで。
最後は明るい言葉で締めたかった。
駅に着く。
るなさんが最寄駅へと降りた。
「あの、ラインしますね!…でんわとか、してもいいですか?」
「いいよ。俺も、…します。」
おおお…忘れてた。
付き合いたて初期の甘酸っぱさよ。
「バイト、行ってきます!」
「…いってらっしゃい、またね」
小さく手を振っていた。俺も手をあげて、彼女にしか見えない小ささで手を振る。
人が乗り込み二人とも呑まれた。無慈悲にもドアは閉じて動き出す。
余韻に引かれることなく、あっさりと姿は見えなくなった。
ほら、な。
行ってきますといってらっしゃいのほうが
…すぐ会えるような気がするだろ。
「あざっした。」
ある晴れた夏の入り口。
俺は二人に頭を下げた。
「僕らよくやったよね?じゃぱぱさん誤魔化すのに苦労したんだから」
「シヴァさんからの奢りの焼肉待ってっから」
「じゃあ僕のはチャラでいい?」
「何言ってんの、そこは奢り奢られにしよーよ。」
「オレ2回も食えるじゃん!タダで!ラッキー!」
朝ごはん。
色々僕聞く権利あるでしょ?となおきりさんに首の根掴まれて引きづられてきた。
at スタバ with うり
「で、どーなの!?」
「どなのって、まぁ、そのおかげさまで」
おお。
小さな歓声があがる。ちょ、なにこの空気耐え難い。
てか言わなくたって雰囲気でわかるもんじゃないの。そーゆーの色々聞くのは女の子の仕事だと思ってたんだけど。
アイスコーヒーのなかへ乱暴にストローを刺した。
「「…」」
じっ
二人が顔揃えてさらに俺を覗き込んだ。
聞きたいことが透けて見えてるんですけど。
「話して23時には家に帰した!!家まで送った!!」
ダン!わざとらしく大きな音を打ちつけてアイスコーヒーを置く。
「だよねー」
「だよな」
「なんだよだよねーと、だよなって」
「シヴァさんてさぁ、オレ思ってたんだけど」
うりが背中を逸らして俺らを交互に見つめた。
俺より俺の恋愛がわかってそうな口ぶりだ。
「愛でるよな?るなを」
「愛でる??」
「そ、なんかだいじーに、だいじにしてる感じ。」
「あ、そーかぁ。そーゆーの愛でるって言うんだね。うんうんわかるわかる!確かにそんな感じかもねーシヴァさんて!」
なおきりさんは探していた答えが見つかったように、嬉しそうに頷いた。
俺は眉間に皺寄せて吸ってたコーヒーを吹き返した。
「そんな感じする?」
「ウン、大事すぎてぜんっぜん手ぇ出せねーやつな」
「…」
「当たってた?ちな手は握った?」
「触れてません」
「シヴァさん自己防御力高すぎる」
だってそんな初日で触れる?早くね?
やっと真正面から顔見れたのに。
「ま、手を出してもらえないなんてるなが落ち込む前に手ぐらいは握ってネ」
「ありそー…」
「やめろ縁起でもない。」
俺がすらせて、るなさんが拗ねる未来が少し見える。
…触ったらどうなるやら無理無理想像すらできない。 LINEするだけでも精一杯なのに、頭が痛くなった。
「でもま、よかったね」
「僕ら定期的に進捗聞くからね」
「なんで?」
進捗かよ。悩み聞くね、じゃないんかい。
俺が突っ込むと二人はニンマリして声をハモらせた。
「「おもしろいから」」
「絶対言わない」
うそうそ心配してるんだよ、ってなおきりさんは言い直したけれど(うりは訂正しなかったぞ)
割と本音でおもしろいっていったじゃん。
4年も一緒にやってたらそれくらいはわかるよ。
でも二人が背中を押してくれたこと…悔しいけど感謝するしかなかった。
「シヴァさんがいつごろチューするかかけようかぁ。オレ一年後」
「うりりん、ダメだよそんな人の恋で遊んじゃ僕は半年後かな」
…前言撤回した。
コメント
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🐸❄️甘酸っぱすぎて尊い…🫠 はげずの会話が面白過ぎてwwwうりりんに注意した後しれっと一緒に遊んでるなお兄好きよw
はげずの最後のシーンまで書きたかったので満足です。進捗牛歩。