あれから数ヶ月ほど。
実感湧かねぇよ…なんで湧かないのって?
…だって遠恋だしさ。
スローなLINEがあの日から今日まで続いている。
ちなみに電話はなかなかできず、片手で指を二折
りするほど。
電話は
だいたい8割はるなさんが喋っていた。
俺はそれに相槌を打ったり、笑ったり。
俺はあんまりおしゃべりではなかったのかと、気づいたのは最近。
「やべー…日付変わったか…」
仕事が終わりシェアハウスへと急いだ。
8月はからぴちが忙しいため、基本泊まり込みだ。
毎日配信もあるし、みんなと一緒にいたほうがやりやすい。
(まぁ、誰か起きてるだろう)
念の為静かに鍵を差し込み回した。
ゆっくりと扉を開ける。
賑やかな声が響いているとおもいきや、静かすぎて驚いた。
「え、あれ?」
しん、としているシェアハウスは珍しい。
俺は首を傾げながら歩みを進める。
みんなの部屋を横目で見ても音がない。
編集部屋にも誰もいない。
テーブルの上に一枚ぺらりとのった紙切れを見つけ拾って読んだ。
最後にシェアハウスを出たのあさんからのお手紙だ。
それぞれ用事があって今日は誰もいないとか。
「…珍しいこともあるもんだな」
何だか落ち着かないけれど、賑やかなシェアハウスはゴーストハウスに早変わりした。
いないなら、いないで。
一人の時間を楽しみますかねぇ…なんて思いつつ、無意識にスマホをポケットから取り出して画面を覗く。
「…あ」
るなさんからLINEだった。
通知で知る、お疲れ様ですのかわいらしいスタンプ。
ぽいなぁ…微笑ましく思うついでにビール取りに行こ。
LINEの中身は
大抵は最近の動画の感想から始まる。
あそこが好き、ここがよかった、あれは何時間かかったんですか…などなど。
俺はそれに一つ一つ返信するだけ…ってさぁ
「ぜんっぜん…彼氏彼女っぽくないなぁ」
缶を開けて一口、うまい。
うまいけど、なんかもやもやが晴れない。
リスナーと実況者のやり取りだよね。
これでいいのかと何度も思った。
だけどやっぱわからない、対処方法がわかりません。俺そんな恋愛知らないし、そもそも遠恋初めてですし。
離れている分距離が掴みきれない。
ビール飲んで考えたら眠くなってきた。
(誰もいないし、いいか)
リビングのソファへ誘われるように寝転ぶ。
LINE返さなきゃ
今日は何が書いてあるんだろう。
既読つけてもすぐ返せないかも。
考えながらしだいにぼんやりしてくる。
限界だった。
まどろむ意識のなか
“やっぱりシェアハウス時代に想いを伝えておけばよかった。そんな勇気なかった癖に。”
頭の中で面倒な押し問答が始まる。
嫌になって思考を手放した。
…あ
目の前にぼんやりした輪郭が現れる。
誰かが俺の顔を覗き込んでいる。
夢か
次第にはっきりしていく姿は、大きな目をくりくりと動かしていた。
しばさん
微かに動いた唇
薄くてうっすらピンク色で綺麗だった。
夢なのにここまで再現度高なんてと笑ってしまった。
しばさん
また声が聞こえた。
甘くてかわいいやつだ。囁くみたいにころころしてるやつ。鈴が転がったような。
前までよくその声はシェアハウスで聞いていたのに。懐かしくて嬉しくなった。
夢の俺はどうするのか。
試しに手を伸ばし二の腕の辺りを掴む。
細いけどフニフニしてて柔らかかった。当たり前だけど女の子だな。
掴まれた本人は困った顔してる。
ごめんな。
でも、夢だから許して。
ぐっと引き寄せてみたら、るなさんはバランスを崩して俺の上にのっかった。
想像通りの大きさと、想像通りの軽さ。
俺はデカくてるなさんは小さいから…
まぁこんなもんだろ。
俺の上にのっかったるなさんは、何か言ってるようだが聞き取れなかった。
いや、正確には耳に入ってもするりと右から左に抜けていく。
かわいいな。
いつかこんな日来るのかな。
二人で笑って、こう、仲良くじゃれ合うなんて
本当の恋人同士みたいなさ。
欲が出る。
夢ならいいかと半ば強引に
先ほどから鼻につく甘い香りにくらくらしていた。 無言で体を持ち上げて、ちょうど、るなさんの首筋が俺の顔にくるくらい。顔を埋めた。
「ーーーー、…」
何か言ってる。
でも夢だから聞こえない。
癒される。
夢で匂いまでなんて、変態すぎるよな…
---まて、匂いってなんだ。
夢で匂いは感じないはずだよ。
サッと青ざめる。
さっきの心地は遥か彼方。
明るく照らす朝の陽があたって、俺の体から必要以上に汗が出た。
まって、体の上の重みが消えてねぇ…
「あの、あのしばさん」
俺の視界にドアップなるなさん。
困ってる、眉が下がってほっぺたが赤い。
何よりもこの密着具合…
「る、え?…ゆめ?は?」
「あの、夢じゃないですよ、ほんもの、です」
密着がヤベェ
いろんなものがいろんなとこに当たる。
「うそ!マジ!!なんで!てかごめ---!?」
パニック状態で勢いよく起き上がる。
るなさんは俺の上にいたもんだから、転がり落ちそうになった。
しまった勢いつけすぎて、細い腰を急いでキャッチして自分の前に持ってくる。
「るるるるなおりますね!」
「わあー!なにから何までごめん!」
全然状況を把握できない。
夢だと思ってたら本物が俺の上にいた。
異世界転生かと思えば現実である。なんでぇ!?
シェアハウスでこんな体制誰かに見られたら、一貫の終わり---
「おはようございまぁーす!」
「なおきりさんうるさい…」
「るなさんもしかしてもう来てます---…」
「るなどこ?もしかしてシェアハウスで迷子になっ---」
「「…」」
なんでこんな時に限って10人揃って帰ってくんの。人生最悪の日になりそうなこの日、石みたいに固まる。
静寂に包まれるシェアハウスリビング。
言い訳しようにもできない。
夢だと思って手ェ出したら本物でした…
死んでも言えねえ。
るなさんはあのぅ、あの、しか言ってない。
だよな!?そりゃそーなるよ!!
みんなも固まってて誰一人声を発していなかった。
そんななか、開口一番のこの男に俺は助けられた。
「るな積極的だなぁ」
若干声が引き攣ってるが、うりが冗談っぽく茶化した。
「そんなふうにしてたら、いろんなこと誤解されちゃうねぇーシヴァさん?」
うりの言葉を上手く汲み取ったなおきりさん。あえてのセリフだ。
俺が”そんなんじゃねーよ”と言うように持っていった
そうだろ。
二人の鋭い視線が一気に突き刺さる。
---どうにかしろ!!オレたちできる限るのことはやったぞ!!これでうまく逃げ切れ!!
目が怖い。確かにそう言っていることを感じとった。
俺が何か言おうとしたら、先に言葉を発したのはるなさんだった。
「違いますよ!るな、こけちゃってシヴァさんに転がっちゃったんです…」
「…だよなぁ〜?」
「シヴァさんがクッション代わりかぁ」
「でっかいの役に立ったね」
リーダーの安堵した、だよなぁ?が鼻についた。
ありえねえっつーことなの?
みんなを見ると俺とるなさんが付き合ってるなんてありえない、そんな表情が読み取れた。
…みんなの見解ってそんなもんなの??
いともあっさり誤解が取れて、俺だけ拍子抜けしてる。るなさんもぽかんとしていた。ように見えた。
ぼんやりしてたらうりがやってきて、俺たち顔を近づけた。
「おい、いつまでくっついてんだよ。もうフォローできねーんだから。るなもおりろ」
「「は、はい」」
二人で揃って返事をしてしまった。
「るなさんほんとごめん!」
「大丈夫です、るな転がっちゃって、ごめんなさい」
前に言ってたサマランは本日のことだったようだ。日付が急に決まって
朝の新幹線に急いで乗ってきたらしい。
俺に連絡しようにもスマホの充電が切れた。
かつ、コードを持ってくるのを忘れ東京について急いで買ったとか。
「あの、ほんと俺なんもしてない?大丈夫?」
「るなこけちゃったんで…あの重くてごめんなさい」
るなさんはこけて俺の上にのっかった。
それが事実なら、俺の夢はどこからどこまでだったのか。
でもまぁ、引き寄せてのっけたのは夢でよかった。現実ならもう今別れてるんじゃ…。
ゾッとした。
「重くなんてないよ、ほんとごめんね」
「あのぅ、シヴァさん」
「あ、ハイ」
「…お元気でしたか?」
そっか。
俺たち付き合ってて、あの日以来の感動の再会なんだった。
しかしさっきの出来事が衝撃的すぎて、るなさんがきてくれたことがまだしっくりきてない。
「元気、だよ。…明日、かえるの?」
「はい、明日帰ります…あの…
いえ、なんでもないです。サマラン楽しみですね!」
るなさんはにこにこしていた。
頭を切り替えよう。
わずかに会えたことを噛み締めなきゃいけないのだから。
あ、サマランて、プールじゃん…水着ィ…??
煩悩を殺さなければと心に誓った。
side rn
シヴァさんは呼ばれてリビングへと戻って行っちゃった。
「はあー…」
まだドキドキが治らなくて、両手で口を抑えた。
目を閉じて、さっきの出来事を頭の中で繰り返した。
うそ、ついちゃった。
シェアハウスについたけど朝なのに真っ暗で、でも扉が空いてたの。びくびくしながらリビングに行ったらシヴァさんが寝てた。
何度か声をかけたけど…全然起きなくて。
へへー、寝顔初めて見ちゃった。
みんなもいなかったから、ちょっとだけ。シヴァさんをじっと見てた。
ゴツゴツした体に、太い首、規則正しく上下する胸は厚い…男のひとだなー…って見てたら
「わ、ひゃっ!?」
寝てると思ってたら、急に二の腕を掴まれて。
引っ張られちゃってそのまま体の上に転がった。
「っあ」
ぐりん
私の肩のあたりで顔を擦り寄せる。
「わわわ」
どうにもできなくて、でもどうにかしないといけなくて。みんな帰ってきちゃうのに、帰ってきてほしくなくて。
「…」
少しだけ、じっと身を寄せた。
おっきかった。
おっきくてあったかかった。
ごつごつしてた。胸が広かった。
とってもとっても”男のひと”だった…
女のひとと全然違う体つきに、こわいとかいやとかそんな気持ちは一切なくて。
ないものに惹かれる。
…女のひとと男のひと、こんなに体の違いがあるから、それが好きなひとならなおさら
“離れたくない”
そう、思うんだね。
コメント
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初 コ メ と フ ォ ロ ー 失 礼 し ま す . ᐟ
やばいめっちゃキュンキュンする〜!!!🫶 2人共恥ずかしがってるの可愛すぎるし、恥ずかしがってるけど少し嬉しそうだったの最高すぎる!!!😇
🐸さん胸板厚かったらイイナ。