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ロボロが去った後、大先生は静かにタバコを口に咥え、煙をゆっくりと吐き出した。その煙が彼の冷徹な目を少しぼんやりと覆い隠すように広がり、周囲の空気を一瞬支配した。
「…確かにあれは、可愛い子ではないな。」大先生が低くつぶやくと、彼の声にはどこか惹かれたような、しかしそれを認めたくないという微かな抵抗が感じられた。しかし、すぐにその抵抗を拭い去るように、大先生は続けた。「美しい、やろ?」彼の言葉には、どこかためらいがなく、ただロボロの美しさに対する確信だけがあった。
普段、女を物のように扱い、財布としてしか見ていない大先生が、ロボロに対してはまるで別の感情を抱いているかのように見える。それもまた彼の魅力の一部であるが、その目の奥に隠された感情は一体何だろう。
シャオロンは黙ってその言葉を聞き、頷くようにして答える。「確かに…」彼もまたロボロの美しさに心を奪われていることを、否定することはできなかった。あの完璧さ、誰もが心を奪われる美しさは、ただの外見にとどまらず、彼女の存在そのものが放つ魅力のようなものだ。それがいかに強力で、圧倒的であるかを、シャオロンは感じ取っていた。
「彼女を手に入れたいって?」シャオロンが少し戸惑いながら尋ねると、大先生は軽く笑った。その笑いには、どこか挑戦的な響きがあった。ロボロのことをただの女性として見ているわけではない、何か別の意図が隠されていることが感じ取れる。
「当然だ。」大先生は煙草の先を指でつまみ、くるりと回しながら言った。「だれもが手に入れたくなるような存在やろ、あの子は。」
その言葉に、シャオロンの胸が少しだけざわついた。彼もまた、ロボロに引き寄せられていることを自覚しているが、大先生のように明確に「手に入れたい」と思っているわけではなかった。だが、ロボロが放つ魅力の前では、その気持ちが薄くなったり、強まったりしてしまうのが不思議だった。
「でも、あの子は簡単に手に入るような女じゃない。」大先生はゆっくりと語気を強め、まるでロボロに対する挑戦のように言葉を吐き出した。その目には決して手に入れられないものを手に入れようとする男の強い意志が込められていた。
シャオロンはそれを黙って聞きながら、心の中で思った。「あの子、ロボロは、誰かに手に入れられるような存在じゃない。」
確かに、ロボロは誰もが惹かれる存在で、誰もが手に入れたくなる。だが、その魅力が強ければ強いほど、手に入れることができる者は限られている。そして、その思いがシャオロンの胸に重くのしかかってきた。
彼は次に口を開く。「でも、あの人に惹かれるのは、俺だけじゃないと思う。」
大先生は軽く笑うと、その笑みをシャオロンに向けた。「そやな。」その目には、何かを試すような、そして楽しむような気持ちが浮かんでいた。「ロボロが誰かの手のひらで転がるなんて、見たことないけどな。」
ロボロお嬢様は、書類に目を通しながらも、頭の中がそのことでいっぱいだった。目の前に広がる紙面は、どれもこれもただの白い背景にしか見えない。頭を抱えるようにして、眉間をしっかりともんでいると、いつものように副会長のショッピが心配そうに声をかけてきた。
「…ロボロお嬢様…?」ショッピの声には、いつものおちゃらけた感じはなく、どこか真剣な響きがあった。
ロボロは一瞬だけ驚いたが、すぐにその顔を引き締め、にこやかな笑顔を作って振り返る。「大丈夫よ。ちょっと疲れているだけ。」
だが、ショッピはそれだけでは納得しない。「もしかして…恋、とか?」
その一言に、ロボロの心が一瞬だけ凍りついた。恋…?この気持ちが恋だと言えるだろうか?それだけは絶対に認めたくなかった。確かに、シャオロンに対して抱く感情は他の人々に対して感じたことがない、強く引き寄せられるようなものだった。でも、それが恋だと呼ぶにはあまりにも理性が勝ちすぎていた。
「…この気持ちは恋ではない。」ロボロはその場でしっかりと確信し、はっきりと答える。その答えを聞いたショッピは、少し首を傾げながら、「そうですか…」とあっさりと言った。まるで納得したかのように、それ以上は何も言わなかった。
ロボロはその後、ショッピがすぐに戻って仕事を続けるのを見送りながら、再び手元の書類に目を落とした。しかし、シャオロンの顔が頭から離れない。彼の顔立ち、あの何とも言えない無防備で儚げな表情。普段は見せないような、どこか戸惑ったような一瞬を見逃さなかった自分。なぜ、あんな子にこんなにも強く引き寄せられてしまうのだろう。
今までの経験からすれば、どんな人物も、ある程度距離を置けばその魅力を見抜き、必要なだけの駆け引きで自分のものにできる。だが、シャオロンだけは何かが違う。彼には、手に入れようとする自分の感情とは裏腹に、どこか拒絶したいような感覚も同時に湧いてくる。
「この気持ちは…なんなのかしら?」ロボロはもう一度、自分に問いかける。恋ではないという確信は揺るがないが、それでも心の中で芽生えた違和感がどうにも説明できない。
一度、シャオロンが言った言葉が思い出される。「ロボロさん、俺に興味があるのか?」
その時、ロボロはしっかりと答えた。興味があるわけではない。ただ、彼の存在が、自分の中で意識を占めていることに気づいたのだ。それは恋ではない。だが、確実に、ただの好奇心でもなければ、安易な欲望でもない。彼の何が、こんなにも自分を引き寄せるのだろう。
ロボロは思わず大きく息をつき、少しだけ椅子に背を預けた。次に彼と会った時、どんな顔をすればいいのか。どんな態度で接すれば、自分の中で湧き上がる感情を抑えることができるのか、全く分からなかった。
だが、彼が他の誰でもなく、シャオロンだということは確かだった。何かが、ロボロの心の奥で鳴り響いていた。