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ロボロは夜の街に足を踏み入れた。薄暗い街灯に照らされる街並みの中、目当てのシャオロンを探しながら歩いていた。普段のように、彼の姿が見えることを期待して。だが、街角で出会ったのは、シャオロンではなく、大先生だった。
「…あら、こんばんは。」ロボロは思わずその顔に微笑みを浮かべ、冷静を保ちながら言った。心の中では、予想外の人物に会ってしまったことに少しだけ苛立ちを覚えたが、表情に出さないようにした。
大先生は、いつものようにあの妖艶な笑みを浮かべながらゆっくりと歩み寄ってきた。その目は、少しばかり楽しげで、どこかからかげを帯びている。「こんばんは、お嬢さん…ちょっと散歩に行きませんか?」
その提案には、いつものように軽い挑戦的な響きがあったが、ロボロはそれを無視することができなかった。彼がどこまで自分を試そうとしているのか、よく分かっていた。それでも、今はシャオロンがどこにいるのか、それだけを考えていた。
「…今は、少し急いでいるの。」ロボロは微笑みを浮かべたままで言った。「シャオロンを探しているの。彼に会いたくて。」
大先生はその言葉を聞いて、少し驚いたように眉をひそめたが、すぐに表情を崩してニヤリと笑った。「シャオロン?お嬢さんがそんな子に…興味があるんですか?」
その言葉にロボロは少し顔をしかめたが、それでも落ち着いて答える。「…そんなわけではないわ。」そう言いながらも、胸の奥では一抹の違和感が広がっていくのを感じていた。どうして大先生がシャオロンのことを知っているのか。どうしてシャオロンに対して、そんな口をきくのか。何か裏があるのではないか、という思いが頭をよぎった。
大先生は微笑みを浮かべたまま歩き始め、ロボロもそれに従うように歩き出した。夜の風が二人の間を流れる。ロボロは、彼の後ろ姿を見ながら心の中で考えていた。シャオロンは一体どこにいるのか。彼に会いたい、ただそれだけが今の自分の願いだった。
「…お嬢さん。」大先生が唐突に振り返り、ロボロを見つめた。「その子、シャオロンが、どうしてそんなに気になるんです?」
ロボロはその問いに、一瞬言葉を詰まらせた。どうしてか、自分でもその答えがうまく出てこなかった。シャオロンに引かれる理由を、自分の中で整理しきれないまま日々を過ごしていたからだ。
「ただ…」ロボロは少しだけ言葉を選ぶようにして答えた。「彼には、何か特別なものを感じるの。」
その答えに大先生は軽く笑った。「特別なもの?」その笑みの中に、興味深そうな、そして少し冷ややかな光が宿っていた。「そうですね、お嬢さんがそれほど気にするなら、もしかしたら面白いことが起きるかもしれませんね。」
ロボロはその言葉の意味を考えながら、再び歩き出した。しかし、大先生の言葉がどこか胸に引っかかる。彼はシャオロンに興味を持っているわけではない。だが、その言葉の裏には、何か暗示的な意味が込められているような気がしてならなかった。
「シャオロンは…」ロボロは再び言葉を切り、彼のことを思い浮かべた。「彼が一体、何を考えているのか、知りたくて。」
大先生はロボロの言葉を聞くと、クスクスと笑い続け、さらに顔を近づけるようにして、楽しげに言った。「ふふ、あなたのその反応が面白いんですよ。いつも冷静で完璧に見えるお嬢さんが、こんなことで顔を赤くするなんて、どうしても笑っちゃいますね。」
ロボロはその言葉に心の中でぎゅっと拳を握りしめた。あまりにも余計なことを言う大先生に、今まで何度もイライラさせられてきたが、今回はそれ以上に胸がザワついていた。心の中で、「こんなことを言われる筋合いはない」と自分を落ち着かせようとするものの、言葉がすぐに口から出そうになってしまう。
「…何がそんなに面白いのかしら、私にはわからないわ。」ロボロはついに苛立ちを隠すのをやめ、冷たく言い放った。その声には明らかな不快感がにじんでいた。
大先生はその答えに少しだけ目を細め、ふっと息を漏らしてから、軽く肩をすくめた。「別に、あなたが知らなくても構わないですよ。ただ、面白いのは、あなたがシャオロンのことを気にしている理由が少しばかり不明瞭だということです。あの子は、あなたみたいな完璧な女性にはふさわしくない。」
その一言にロボロは、心の中で思わず息を呑んだ。確かにシャオロンは完璧な人間ではない。女装して生計を立てていること、それに何か秘密があるような不安定な存在であること、彼の不器用で、時には弱さを見せる姿が、どうしても自分の心に引っかかっていた。それでも、だからこそ、彼に引き寄せられる自分がいることを大先生に見抜かれている気がして、胸の奥がざわついた。
「…あなたの言うことには、何の意味もないわ。」ロボロは冷静にそう答えたが、心の中では揺れていた。なぜ、彼の言葉がこんなにも心に響くのだろう。
大先生はロボロの表情をじっと観察しながら、さらに一歩近づいた。「でも、あなたは自分でも気づいていないだけで、もうすでにその感情に支配されているんじゃないですか?」
ロボロはその言葉に驚き、思わず足を止めた。心の中で否定したい自分と、否定できない自分が交錯する。大先生の視線があまりにも鋭すぎて、まるで心の中を覗き込まれているかのように感じた。
「…私がシャオロンに引き寄せられる理由が、もし本当にあるとしたら…」ロボロはついに自分の心の中の迷いを口にしてしまった。「それが…恋だなんて、認めたくないの。」
その言葉は、まるで自分自身に言い聞かせるように呟かれた。だが、大先生はその言葉を聞いて微笑むだけだった。
「そうですか。恋ではない、ですか。」大先生は少し首をかしげて、そしてゆっくりとロボロを見つめながら言った。「でも、あなたはもはやそれを隠す必要がないのでは?だって、シャオロンは確実にあなたに惹かれている。」
その言葉が、ロボロに再び衝撃を与えた。彼がそんなことを知っているはずがない、そう思った。しかし、その言葉には不思議な説得力があった。
「…シャオロンが、私に?」ロボロはつぶやきながら、大先生の言葉の意味を必死に考える。自分が知らないうちに、彼にそう思わせていたのだろうか?それとも、大先生が何かを知っているのか。
大先生はにやりと笑ってから、最後にこう付け加えた。「まあ、どうするかはお嬢さん次第です。どちらにせよ、面白い展開が待っていそうですね。」
その後、大先生はにんまりと微笑み、ロボロに背を向けて歩き出す。その後ろ姿を見送りながら、ロボロはしばらく立ち尽くしていた。彼が言った通り、心の中で何かが変わり始めているのを感じていた。
シャオロン。あの存在が、もはや単なる「気になる子」ではなく、もっと深い何かに変わりつつあることに気づいていた。しかし、それが恋だと認めることは、今はまだできない。