北斗が目を覚ますと、頭上には梁のある低い天井があり、顎の下にはきちんと上掛け布団が肩までたくし込んであった
確認すると、自分は青のボクサーパンツしかつけていないらしく、むくりと起き上がり、服を探そうとして異変に気が付いた
ピンクだ
世界がピンク色になっている、それとレースだ
ベッドカバーも、上掛け布団も、カーテンも、全部ピンク一色の世界に変えられてしまっている
そしてたしかに自分のベッドの、二つの枕もベルベッドのピンクの枕カバーに、四隅に金色の房がつけられている
ピンクのシーツはファー素材のベッドシーツで、汗をかいても吸収しそうにない
どこもかしこもフワフワだ、夢でありますようにと、そっと体をもとに戻して目を閉じた
ガンガンする頭が転がり落ちて、床の上で弾んだりしないように、ピンクの枕にしっかりと押し付けた
寝室のドアが開く気配に気が付き、そっと片目を薄く開けた
ぼやけた輪郭が徐々に形を成し、キラキラお目めの明が自分を見下ろしている
何か言ってるが頭は理解できず、ありがたくまた無意識に目を閉じようとした時
再びドアが開いて今度はアリスが、ペットボトルの水を持ってきて、元気いっぱい部屋へ入ってきた
勢いよく窓を「ガラガラッパシーンッ」と開けた音が、戦車の衝撃音となって北斗の頭を揺るがした
彼女はドイツ陸軍部隊よろしく、ドカドカベッドへ近づいてきて、北斗のか弱い手から上掛け布団をはぎ取って、脇へ放ってしまった
体がむき出しになり、北斗は胎児のように身を縮めて震えた
「ほ・・・北斗お酒くさ~~いい 」
明が鼻をつまんで言う
「おはようごいます!北斗さん!さぁさぁ!起きてください、素晴らしい一日の始まりですよ!」
アリスが言った、くすくす笑う二人に両二の腕を抑えられて起こされた
途端に北斗は自分の頭が転げ落ちないように、片手で頭を支えた
「今・・・何時?・・・ 」
そう言い放った瞬間、北斗に吐き気が襲ってきた、口の中に苔が生えてそのまま腐ったような感じがする
「ま・・・まだ酔っぱらってるよ北斗~アリス~ 」
明が言う
「もう~しょうがないわね~もう8時ですよ!北斗さん!うわっお部屋お酒臭いっ 」
アリスがもう一方の窓を「ガラガラガラッバシーンッ」と勢いよく開いた音で
大砲を打たれたかのように、北斗が飛び上がってひっくり返った
頭蓋骨が破裂しそうだ、アリスはわざとやってるような気がする
もう酒は飲まない、北斗は固く誓った
ヨロヨロと階段を降りてリビングに行くと、何やらアリスと明が楽しそうにしている
「もう~北斗さん!早くシャワーを浴びてきてください!美味しい朝ごはんにありつけませんよ!」
「う・・・うん・・・」
フラフラとシャワーを浴びに行く、夕べの事が思い出せない、この家に帰って来たまでは覚えているのだが
そうだ・・・アリスにきちんと自分の事を話さないといけないと思っていたのに・・・
俺はアリスにちゃんと話せたんだろうか、北斗は心配になった、アリスは怒っている様子はない
リビングは甘い匂いに包まれていた
よく見るとアリスと明がホットプレートでホットケーキを作っている、すっかり二人は仲良くなっている
アリスがレードルでホットプレートに生地を伸ばすと、明が楽しそうにヘラでひっくり返している
その横にはホイップクリームやジャムの瓶が沢山置かれている
・・・うぷっ・・・
ホットケーキを見た途端、また北斗に吐き気が襲いかかってくる
「さぁ北斗さん朝食にしましょうね」
「あ~・・・アリス・・・申し訳ないが・・・ホットケーキは・・・しょ・・食欲が・・・」
「そうでしょうね!あれだけ酔っぱらっていらっしゃったのだから!北斗さんには別のものがありますよ」
アリスがいそいそとキッチンへ行ってトレーを持ってきた
「ジャーン!アリス特製、お豆腐とワカメのお味噌汁ですよ!」
おおー!!と北斗と明が味噌汁を見て感心している
湯気が立って、黄金色に輝いてるいかにも美味そうだ
「よく酒豪のお祖父様が二日酔いになった時には、お福さんがお祖父様に作っていたんですよ」
「お福さん?」
「うちの家政婦長さんです、本当になんでも出来る人なんです。お祖父様に忠実な方でね 」
「へぇ~・・・」
北斗は猛烈に感動していた、朝起きるとこんな旨そうな味噌汁が、可愛い奥さんから出てくるなんて・・・
ヤバイ・・・泣きそうだ・・・
結婚してよかった・・・・
嫁さんがアリスでよかった・・・
北斗は味噌汁の前で丁寧に手を合わせた
「じゃ・・・頂きます」
「はい!召し上がれ!」
アリスは北斗に100万ドルの笑顔で微笑んだ、それを見た北斗は胸が一杯になった
「お・・・おいしいよぉ~アリスゥ~このパンケーキ! 」
明もホットケーキを三段重ねにして、シロップがたっぷりついた一枚を口いっぱい頬張っている
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