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#ご本人様とは関係ありません
あざらし
10
#ご本人様には関係ありません
たべ
103
「あ、まだこんな考察班いるんだ」
スマホをスワイプしていた彼が、そう口を開いた。
声につられて見てみれば、確かにせらと例の女の子の話がまだ引っ張られている。
なんでも、女側が妊娠していたらしく、セラフとの子供か!?なんて噂になっている、らしい。事務所はすぐに否定したけれど、何せ熱愛報道が出たばっかりだったのであることないことたくさん報道されている。
せらとセックスしてからだいたい三日か四日くらい。その間中ずっとこの話題を続けているんだから、日本のメディアとは随分暇なものだなと思った。
彼があんまり強く否定して抗議文を出したりしてないから、と言うのもあるのかもしれない。ありもしない秘密を暴こうと必死になっている様は非常に滑稽だ。不愉快であることには変わりないが。
でも仕事をしてくれているおかげでせらが家に帰れないので、ずっと僕の家に泊まっている現状が嬉しいのは内緒。
「…ねえ、そういえばさ、 あれ、当然僕も連れてってくれるんだよね?」
「あれって?」
「……………死ぬやつ」
「奏斗が本気なら一緒に来てもいいよ」
カシャン、と紅茶の入ったカップが机に置かれた。
せらの血みたいに赤くて深い瞳が、僕を見つめる。
とめないんだ、と思った。
あくまでも、僕に判断を委ねるつもりなんだ。
それはそうだよね。自分を含めて命二つ分だなんて、背負うにはきっと重すぎる。
ぎゅ、と自分のカップを握っている手に力が入った。
答えは決まっているのに、何だか口がはくはくとしてしまって言葉がすり抜けて出てこない、 覚悟ができてないってことなのかな、せら は何も言わない。僕を見つめて、じっと答えを待っている。
微かに震える身体、乾く舌。
「ぼく、」
やっと出た声は存外頼りなくて、本気かどうかなんて図れやしないくらいだった。
「、せらといく。 置いていくなんて、許さないから」
「…それが、奏斗の答えなんだ」
せらが僕の手からカップを取って、机に置く。
それからぎゅぅ、っと抱きしめてきて、いいよ、一緒に逃げちゃおっか、と耳元で囁いた。
本当にいいのか聞かないの、って聞いたら、もう沢山聞いたし止めたから、奏斗を信じることにするって。
今日は僕の誕生日の三日前
僕の命もあと三日でおわる事になった。
死後の世界があるのなら、そっちで幸せになればいい。
ヴォルタの残りの二人を残してしまうけど、壊れてしまうかもしれないけど。
それでも、今まで頑張ってきたんだから、好きな人と一緒に死ぬことくらい許されてもいいんじゃないかって思う僕は酷いやつなんだろうか。
「どんな方法で死ぬかはさ、明日決めようよ。」
「今日はさ、一日ゆっくりしよ。仕事もないでしょ?」
ーーー
三月二十五日日、午前十時。
今日は、奏斗の誕生日。
それはつまり、俺達が死ぬ日が来たということだった。
奏斗は午前中、誕生日パーティーに顔を出すらしい。
なので俺が自殺の準備をする事になった。
俺は熱愛報道を引き摺っているので、という建前で不参加である。
最期にみんなの顔を焼き付けてくるって言ってたから、随分泣いて帰ってくるかもしれない。そんなのするくらいなら、死ななければいいのに。
ぎい、と、奏斗の大きいクローゼットを開けて、中にいっぱい詰まった衣服を床に落とす。
これは寄宿生時代によく着てた服。これは、俺が好きだって言った服。これは、付き合った日に着てた服。
これは…あれは…それは………、なんて、彼の着ていた服を見ただけで情景が思い浮かぶだなんて、好き過ぎて笑ってしまった。
「俺の事なんて好きになっちゃって、かわいそうな奏斗」
粗方衣服を整理して、中のポールに二人分くらい入れるスペースを作ったら、縄を引っ掛けて縛る。
本当は衣服なんて全部外に捨てちゃえばいいけど、狭い方がくっつけるし、万が一奏斗がやめたいって言った時、少しでも空洞が少ない方がいい。
それに、俺が死んだ時に周りに残った服を見て俺の事を思い出してもらえるかもしれないから。
ちなみに、自殺方法は首吊りになった。
心中ならもっと他に向いてるものがあると思うけど、出来るだけ痛くなくて外傷が残りにくいのがいいって、奏斗が言ったから。
水死は発見が遅れた時が悲惨だし、飛び降りや飛び込みはぐしゃぐしゃになるし、ガスは今時死ねないし、焼死は万が一死ねなかった時困るから却下になった。死ぬ時にも美しく綺麗でいたいという要望を全部飲んだ形だ。妥協はしたけれど。
「一人だけで死ぬの、本当はちょっと嫌だったんだよね」
奏斗がついてきてくれてよかった、とぽつり零す。
彼の前で言ったら、じゃあ死ななきゃいいと今からでも心変わりしそうなので絶対言えない。
そもそも奏斗とセックスできないから、付き合えないから、幸せに出来ないからという理由だけで死にたいんじゃなくて、奏斗の心の中に俺の爪痕を少しでも残したい、が目的だから、死ななきゃ意味が無いんだ。
死ぬ時、最後に思い浮かべるのが俺であって欲しい。
俺が死んだ時、後悔の念に苛まれて追い込まれてほしい。ふとした瞬間に俺の事を思い出して、人との関わりに怯えるようになってほしい。
一瞬だけでも、雲雀や凪ちゃんより、俺を優先するようになって欲しい。
ずっとずっと、そんな思いを抱きながら生きてきた。
だから、エイズになった時、やった、と思った。
天が俺に味方したんだと。
これで、奏斗に何かを残せる。
俺の事を絶対に忘れさせない、何かを。
態々奏斗の誕生日に死のうとしてるのも、半年前に恋慕を打ち明けたのも、全部その汚い欲望の為の布石。
彼が情に厚くて優しくて、なんだかんだ断れない人間だってことを知ってて、賭けに出た。
まさか、俺の事好きになってくれて、セックスまでさせてくれて…結果的に一緒に死んでくれるなんて思わなかったけど。
まあいい所、付き合って、キスして終わりかなって。
少しでも死んだ後でも俺を覚えていてもらえればよかったから、プラトニックな付き合いでもよかったし。
奏斗の未来を潰してまでセックスしたかった訳じゃなかったし。
…心のどこかでめちゃくちゃにしてやりたいって欲望が、きっとなかった訳じゃあないけど。
んーっ、と身体を伸ばして、はあ、と息を吐く。
ふとスマホを見れば、奏斗から連絡があった。
【あと二時間くらいかかるかも】
【準備、どう?】
ちらり、時計を見やる。
時刻は十二時。
ーーー
「奏斗、お誕生日おめでとう」
名残惜しそうに送り出す旧友達の元から帰った僕を迎えたのは、本日何回目かの台詞。
いや、お前朝も言ったじゃん。なんて言葉は、ずいと差し出されたケーキの箱を見て飲み込んだ、 段々不安そうになっていくせらに、ありがとうと返しケーキを受け取る
「なんのケーキにしたの?」
「ナイショ。ほら、早く食べようよ亅
ぐい、とせらが僕の手を引く。
多分そんなに意味は無いはずだけど、何だか死に急いでる感じで、ちょっと嫌だった。
「あとね、プレゼントも。」
「…え?」
僕達、今から死ぬのに?と思った。
でもせらが優しい顔でにっこりと笑ったから、そんなことは言えず飲み込んだ。
どんなプレゼントなんだろう。ちゃんと連れてってくれるのかな。直前になって、置いていかれたらどうしよっかな。
せらがテーブルにお皿を持ってきて、ケーキを並べた。
ガトーショコラと、シフォンケーキだった。
多分、シフォンケーキは僕の分かなって。
とぽとぽとぽ、と、せらが紅茶をカップに注いで、白い湯気がたった。
「せら、なんで食べてないの?」
「甘いの、好きなんでしょ?」
「………」
彼は答えない。
なんだかいつかみたいに泣きそうな顔をして、顔を伏せた。
なんだか今日はデジャヴばかりだ。
あの時はどうしたんだったか、セックスをもちかけたんだったか。よく覚えていない。遠い昔のような気がして、どうしても忘れてしまう。
死を覚悟してから、最近ずっと夢見心地な気がして、昔のことが随分朧気に感じるようになった。
「…なんか、最後だって思ったら、食べられなくて」
「…怖い…?」
「…わかんない。…ずっと、今日の為に生きてきた筈なんだけど」
そう言ったせらの顔は、半年前の始まりの日とは打って変わって、すごく弱々しい笑みだった。
夕日をバックに酷く幸せそうに笑っていたあの時とは全然違う。なんだか苦しそうで、やっぱりやめる?と思わず声をかけてしまいそうになる。
「…僕は、せらが死なないなら、死なないよ。 だって、死ぬ理由がないから」
「…うん」
「せらはさ、どうして死にたいの?」
ずっと、気になっていた事をぶつける。
彼は、は、と目を見開いて、呆然とした顔をした。
…だって、僕と付き合えた。セックスだってできて、沢山恋人らしい事をした。
なのに、なんで死にたいのかずっとわからなかった。
聞いたことも無かったし、きっと聞いた所で教えて貰えないだろうと思っていたから。
でも、聞くなら今しかない。
「俺は、」
口を開く。
だけどいくら待てども、彼の口から続きの言葉は出なかった。
はく、はく…と口を動かしているけど、音を伴わぬそれ。
「言えないような理由なのかぁ…」
「……」
そう言えば、せらは口を真一文に結んで、僕からフイと目を逸らした。
「…そっか、 じゃあいいや!」
呆気なく話を切り上げて、シフォンケーキを口に入れ始めた僕を、せらが意外そうに、怒らないの?と聞いた。
怒ったって仕方ないじゃんか、こんなの。
怒って答えが出るなら怒るけどさ、どうせ出してくれないんだもん、こいつは。
「別に怒らないけど……何、こんなんで怒ると思ってたわけ?」
「…学生の時の奏斗だったら怒ってた。言えないような理由で人を巻き込むなって。」
否定できないのがちょっと嫌だった。
ムッとした僕を他所に、せらがガトーショコラにフォークを入れる。
そのままフォークが底のお皿に当たって、カチャリと音を立てた。
「ねえ」
「何?」
「死ぬの、苦しいかな」
「…苦しいかもねぇ。」
「沢山のものを置いていくんだから、苦しくないと罰当たりなんじゃないのって、僕は思うよ。」
「…奏斗、つよいね。 俺は、苦しいの嫌って思っちゃう。」
「…風楽奏斗だかんね。強くて当たり前、… 人間なんてね、無理して強くなる必要なんてないんだよ、本当は、きっと。」
「…………そういうもんかな」
「そ。まぁせらを一人で逝かせるつもりもないしさ、 苦しいのも怖いのも責任も未練も後悔も、二人で背負えばなんとかなるでしょ、 どうしても死にたくないならさ、話は別だけど。」
ぎゅ、と不安そうに机に置かれた握りこぶしに、そっと手を重ねて…指を絡めて恋人繋ぎ。
少し恥ずかしかったけど、何となく落ち着かせるにはこの方法が一番いい気がした。
「…奏斗、」
「うん?」
「渡したいの、ある」
「プレゼント?」
こくん、とせらは頷いた。
なんだか子供みたいで可愛い。
でもなんだか今受け取ったら、すぐ幕下ろしムードになっちゃいそうで、ちょっと迷う。
次の言葉を出しあぐねていると、ちらちらと視線を感じた。なんか今日の彼は酷く不安そうで、僕の顔色を伺っている。
こんなの、らしくないのにねぇ。
「…僕に似合うのじゃないと許さないから」
「…きっと、似合うと思う。」
気に入って貰えるかは、わからないけど…。
そう言いながらせらは、箱を取りだした。
なるほど、これがプレゼントか。
結構小さめ。…ネックレス、とか?
こんな時だし、多分身に付けられるアクセサリーなんだろうなと思った。本当はもう少し早く欲しかった、って言うのはワガママかな。
「開けてい?」
「うん、いいよ。」
妙に緊張した面持ちのせらを訝しげに思いながら箱を開ければ、また小さい箱。マトリョーシカのように出てきたそれは、白くて、まるで…そう。
……結婚指輪のケース、みたいな。
「………ねえ、もしかして、指輪…?」
「…………ちゃんと開けて確認してよ」
「…いや、でもこれ…」
開けて、と、目で訴えてくる。
いやに真剣な顔だから、なんだか手汗が滲んできた。
まさか、まさか…そんな、
ふざけてるだけ、かもしれないし
もしかしたら、たまたまケースが似てるだけ、かも
期待して裏切られた時が怖いから、必死で他の可能性を考えながらぎゅ、と目を瞑り箱を開けた。
そしておそるおそる目を開くと、そこにはやっぱり指輪が埋まっていた。
ダイヤとかはないシンプルなデザインで、リングの中に僕とせらの名前が彫られている。
見た瞬間、顔に一気に熱が集まった。
あ、と言葉が漏れた。
ぶわわ、と沸き上がる多幸感。
想定通りのプレゼントでもこんなに嬉しいなんて、恋人はなんて偉大なんだろうかと思った。
うれしいけど、うれしいけど、これなら終わりかけなんかじゃなくて、もうちょっと早く欲しかったかも
「…ど、う?……………嫌だった?」
酷く不安そうな顔で、せらが見つめてくる。
ちょっと青ざめてて、自信がなさそう。
やっぱりこんな時に渡すものじゃなかったかな、って心配してるのがヒシヒシ伝わってくる。
せらの不安とは対照的に、僕の心は幸せで仕方ない。
涙がじわ、と滲む感覚がして、幸せで泣くことなんて本当にあるんだと思った。
「〜〜ッ、やなわけないでしょ!」
「えっ、奏斗何泣いてんの」
「ゔ、うるさい゛、泣いてないし!、ぼくが、泣くわけないでしょお…」
「…ふ…、…ぅ、……ゆ、びわ、…はめてよ。左手の薬指…ね、せら?」
涙でぼやけた視界を拭い、指輪を箱から抜いて、せらに渡す。
左手を差し出して、はめろとせがむ。
そしたらちょっとおろおろしながら、手を添えて…指輪をはめてくれた。サイズはぴったりだった。
「……俺に、奏斗の未来、全部ちょうだい。」
いつになく真剣な顔。照れくささと少しの不安の混じった表情だった。
「ずっと前から、僕の全部はせらのものだよ」
コメント
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みぅです🤍🥀 第5話、読み終えました。 指輪のシーン、本当に切なくて美しかったです…。死を前にして「未来全部ちょうだい」って言うせらと、涙しながら指輪をはめてもらう奏斗、二人の間にある執着と愛情が重すぎて胸が苦しくなりました。一緒に死ぬ覚悟を決めたはずなのに、最後の最後でこんなに温かいものを渡すせらの狡さと優しさ、ずるいです。でも、それがせらだなって。オタクさんの描く重くて繊細な感情の流れ、本当に好きです。続き、気になります…。