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「そのさ、夢ってなんなの」
「……言えない。」
「俺が関係してるから?」
スマイルは黙りこくった後に小さく頷く。
「さっきえっちな声出したのは俺の夢のせい?」
「えっ、……だから、気色悪いもん聞かせてごめんって、本当に……」
「論点そこじゃない。別にそんなこと思ってないし。
俺が関係してる夢なんでしょ?俺に事情聞く権利あると思うんだけど」
誤魔化そうとするのを咎めつつ強めの口調で嗾ける。突然声音を尖らせたきんときにスマイルは動揺しているようだった。
スマイルは唇をもにょもにょと動かした後、言おうか言わまいか迷うように口を開いたり閉じたり。きんときが何も言わずに黙って待っていると、恐る恐ると言った様子で打ち明ける。
「……悪夢だよ。お前に抱かれる夢を見るんだ」
ごめんな、勝手にお前のこんな夢なんか見て。気持ち悪いだろ。
口の中だけで転がすような微かな声と、続けてスマイルの口からぼろぼろとこぼれ落ちるのは先程と同じ謝罪の言葉だった。
“抱かれる”。スマイルの口から出た思わぬ言葉に目を見開いたきんときは眉尻を下げて問う。
「なんで悪夢だと思うの。」
目線だけで顔色を伺ったスマイルは、存外やわらかい表情をしていたきんときに肩透かしを食らう。それで、スマイルの口からぽろり滑り落ちたのは本音だった。
夢の中で優しく抱かれた分だけ現実との落差でつらくなる。夢の中のきんときと、現実のお前は違うから。
それはきんときにとって都合の良いようにしか解釈できなくて、少しの間逡巡する。その言い草じゃ、まるで。
しかしそれ以外に捉えようがない。きんときは恐る恐る自惚れめいた疑問をスマイルに投げかけた。
「……スマイル、俺のことすきなの?」
「はっ?なんで、そうなる、」
「夢の中の俺には優しく抱いてもらえるけど、現実はそうじゃないからつらいって……好きじゃん、俺のこと。」
しばし石のように固まったスマイルはサアッと顔を青褪めさせて口元を手で覆った。
「……ぁ、ごめ、おれそんなつもりじゃ、」
矢継ぎ早に紡がれる言葉はひどく震えていて痛ましい。薄く水が張った目はうろうろと泳ぎ忙しない。
「ごめっ、ん、すきで、おれ、ぁ……ごめん、……ッ」
言うつもりじゃなかった。そう顔に書いてあった。
おそらくスマイルは、俺に恋心を抱いていることを伝えるつもりはなかったのだろう。しかし言ってしまった事実はもう戻らない。そもそも俺に抱かれる夢を見ているという事実を告げた時点で同じようなものではないのかと思ってしまうが、脳に見させられている夢の内容を話すのと自分が抱いている感情を吐露するのでは心持ちが全く違うのだろう。
きんときはスマイル本人にとっては失言でしかなかった告白に対しここぞとばかりに積極的に動いた。
「落ち着いて。大丈夫だから。」
スマイルを再び腕の中に迎え入れれば先程よりも小さく感じられた。たぶん、気持ち的な面と物理的な面の相乗効果で。震える身体をぎゅうっと抱きしめて、俺の気持ちが少しでも伝わりますようにときんときは腕の力を強めた。
「ごめ、ごめん……っ、…」
それでもなお謝り続けるスマイルの頬を両手で包んで無理やり目を合わせる。親指の腹で赤く染った目尻を撫でると涙が指に吸い取られた。
「俺のこと好きなのはスマイルにとって悪いことなの?」
「だって、おれがお前のことすきなんて、こんな、まちがってる…」
「俺がお前のこと好きだって言っても、そう思う?」
「…………ぇ、あ…?なにを……言って……」
紫紺の水面は群青を映したままゆらゆらと揺らぐ。眦を緩めて見つめたままでいるとスマイルの頬がじわりと染まっていった。
「あ、ぃゃ、えっと……え?」
たぶん、もう一押し。
「俺に抱かれる悪夢を見るって言ってたよね」
「…、」
「それを、悪夢じゃなくしてあげる。」
きんときはスマイルの腕を引いて歩き出す。
「……はっ?」
きんときが言っていることの意味も行動も理解できないままスマイルは引きずられるようにして玄関へ向かう。力が強い。
「まさか夢の中の俺に先を越されるとは思わなかったんだけど。まぁいいや、一旦帰ろうよ」
「え、ちょっ…と何、ど、なに……??」
肩を掴まれて目と目を合わせられる。視線を逸らそうにも何故か群青に瞳を捕らえられて動けない。
至極真剣な顔できんときが言い放った。
「だから、現実のお前を現実の俺が抱くって言ってるの。」
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