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特葬課の一員になって良っかったね〜千春~!!(^o^)
おー!!凄い!千春の作戦とか、語彙力が高いから読みやすいです!
首根っこを掴まれた千春が解放されたの は、かなり広く、四方八方がコンクリート で覆われた空間だった。 ゴミ袋でも投げ捨てるように千春を手から 離した椎名は、気付かぬうちに竹刀を持っ ていた。 千春を引きずりながら、どこかから手に取 ったようだった。 イライラとした口調で、椎名は喋り始め る。
「 あんた、 新入りなんだっけ? 特葬課の ‥赤津から色々聞いたわ」
「 あ、 はい… そうですね 」
ふうん、と興味無さそうに千春を見ながら 答える椎名は、 千春が持っていたはずの鉄の板を、 懐からおもむろに取り出した。
「 これ、 なーんだ? 」
「 あっ! いつの間に!? 」
「 これ、 赤津から預かってきたんでしょ? 安心して、 こうするためだから 」
そう言って、鉄の板を持っている椎名の左 手が、ぼうぼうと燃え始める。 その熱さで板は溶け、 中から甲羅の丸い部分の四隅がとんがった 亀のバッジのようなものが出てきた。
「 そ、 それは…? 」
「隊員証。 なりすましを無くすために、 こういう回りくどいことを毎回するの。 といっても、まだ2回目だけれど。 これを身に付けて始めて、 あんたは特葬課の一員ってこと 」
「 なるほど、 そういう事か‥ ありがとうございます 」
千春がそう言ってバッジを受け取ろうとす ると、椎名はその手を振り払う。
「 誰も、 ただでやる、 なんて言ってないわよ? あんたは特葬課に入りたいんでしょ? その資格を有するだけの、 武力を証明しなさい 」
「武力を… 証明…? 」
「 ええ、 特葬課なら、 死呪人と戦うだけの力がいるでしょ? これ、あげるわ 」
椎名は千春に右手の竹刀を投げて渡す。
「 今から、 それを使ってあんたがわたしの体に触れることが出来れば、 隊員証を渡すわ 」
「 もし、 触れられなかったら? 」
「 帰ってもらうわ、あんたの故郷に。 弱い男が1人いても、 戦力外、あしでまといなの。 わかる? 」
手厳しい。それが分かる。 千春はおおよそ椎名という女性の性格がわ かってきた気がした。だが同時に、 触れるだけでいいのなら、それほど難しく もなさそうだと思った。 が、それは間違いだった。 竹刀が触れる触れないどころではない。 椎名に近づく前に、気づけば千春は制圧さ れていた。 何が起こったのかすら分からない千春に、 その程度?と煽る椎名。 千春も負けじと竹刀を振るが、 当たらな い。 ひらりひらりと舞い遊ぶ蝶のように、 スレスレでそれらをかわす。 女性だと侮ってはいけない。このままでは ジリ貧だ。千春は考えた。
どうすれば、竹刀で彼女に触れられる? 少し考えたあと、千春はピンと思いつい た。
「 どうしたの? 作戦タイムは終わり? 」
「 はい、 たった今! 」
「 へぇ、 やってもらおうじゃない 」
千春はそれを聞く前に、椎名のもとへ駆け 出していた。チャンスは1度だけだ。 そして持っている竹刀を椎名の方へ思いっ きり放り投げる。椎名は油断していたこと もあって、一瞬、気を取られてそれを腕で 受ける。竹刀はその場へ落ちた。 その隙に、椎名へ全力で走って近づく。
完全に不意をついた!
そう思った千春だったが、椎名もさすがと 言うべきか、それを避けるべく後ろへ下が ろうとする。 だが千春は、腕をめいっぱい椎名の方にの ばし、ほんの少し椎名の服に触れた指を、 グッと内側に曲げて引き寄せる。 そのまま指を引っ掛けた勢いで拳を握り、 完全に服を掴む。 千春は海の中で銛突きをする際、海中の岩 場を指でよく掴んで銛突きをしていたのを 思い出した。 あとは竹刀で触れるだけ、そう思い、 椎名の足元にある竹刀を拾おうと服を掴ん だまま素早く拾おうとかがむと、 突然、千春の体が宙に浮く。 ひっくり返されたように視界が回り、 気づけば地面に仰向けの状態だった。 千春を持ち上げて投げ飛ばしたのだ。 その事実に気づくまでに、少しかかり、 千春はすぐ、投げ飛ばされた痛みに悶え た。 椎名は、少し冷や汗をかきながら、 千春に言った。
「 惜しかったわね …でも、 失敗した。 2度目はないわ、 もう、 諦めなさい 」
千春は、さすがに黙っていられなかった。 まだ痛む体を起こしながら、声を荒げる。
「 どうしてですか!? どうしてそこまでして俺が特葬課に入らないようにしてるんですか!? 」
「 …命令だからよ 」
「 いや、 嘘だね! それならこんな回りくどいことしなくても、 すぐにバッジを渡すはずだ! 俺はあんたにどんな命令が下ったか知らないけど、 もう入隊手続きも済んだ新人に、 こんなことわざわざさせるんですか? 」
「 …うるさいわね! 少し黙りなさい! また投げるわよ! 」
そう声を荒げられて、千春は萎縮して口を 噤む。 椎名は、悪事を咎められた子供のような 顔をして、静かに語り始めた。
「 ……………そうよ、 私は、 あなたが諦めて帰るように仕向けてた。 この仕事に関わらないように …怖いのよ、 人が居なくなるのは …それがどんなに関係の薄い人間でも、 わたしは人が居なくなるのはいやだ …だから、 最もその可能性が高いこの仕事に、 私の公演を見てくれて、 感想を言ってくれたあなたを。 失いたくないの… 生きてれば、 また見に来てくれるかもしれないでしょう…………? 」
椎名は、悲しそうに言う。 千春はそれを聞いて、安心した。 この人は、いい人だ。この人になら、 言っても大丈夫だ。そう思った。 そして千春は言う。
「 大丈夫です、椎名さん。 俺、 死呪人なんで 」
「 …………は? 赤津はそんなこと言ってなかったわよ? 」
「 あっ…! いや! 俺はもちろん! 敵意はないですから! 」
「それは分かってるわよ、 そうじゃなくて、 なんでじゃあ、 保護だったり、 そのまま故郷で暮らすなり、 色々あったでしょ? なんで選ばなかったの? こんな物騒な仕事を、 なぜ選ぼうと? 」
「えっと実は俺、 自分がなんで死んだのか知らないんです …だから、輝夜に、俺も連れて行ってほしいって頼んだんです 」
「 あの子が? まさか! あの子は死呪人が相手なら、 即座に殺すような子よ? 信じられないわ… 」
千春はゾッとした 。 初めて会った時のことを考えると、 輝夜ならやりかねない。ということは、 今生きてるのってかなりラッキーなので は。
「 そう…。 まぁ、 うちのなかで死呪人じゃないの、 赤津だけだし、 それはいいんだけど、 あんたがあまりにも死呪人っぽくないものだから…。 でもそれなら確かに、 あんたはそうそう死ぬことはないってことなのね 」
「 はい! てかこないだ輝夜に殺されたばっかりだし… 少なくとも俺の死因、 失血死とかではないみたいです 」
「 …やっぱりあの子、 ちょっと怖いわよね、 年下なのに逆らえないというか 」
「 あ、 ちょっとわかります 」
そう言うと、あはは! と椎名が笑う。
「 あんた、 まともね! 気に入ったわ、 これ、あげる! 」
そう言って、ポケットからバッジを取り出 し、指で弾く。 千春は慌ててそれをキャッチする。
「 あ、ありがとうございます! 」
「ん、これからよろしくね !あんた、 名前なんていうの? 」
「 千春です! 浦島千春! 」
「 千春ね!私は、花咲椎名、よろしくね!」
先程の公演のような笑顔で、椎名は手を差 し出す。 千春もそれを見て、その手をしっかりと握 る。
こうして千春は、
正式に特葬課の一員となった。