あのあと、千春と椎名は一緒に特葬課へと 戻った。千春は、今度こそ大丈夫だろうと 思ってドアノブに手をかける。 すると再び百田が出てきて、千春に抱きつく。 今度は椎名と間違えたらしい。 この人 変態なのか?と千春は思わずにはい られなかったが、一応上司であるうえ、 とても勝てそうには思えないガタイをしているので、心の中に再びそっとしまっておいた 。 ちなみに椎名は、赤津に会いに行く。 と告げてどこかへ行ってしまった。 輝夜はすでに仕事に向かっているらしい。
「 おかえり! 千春君! 早速だが、 確認したい! 千春君、 君は死呪人だと聞いたんだが、 本当かね? 」
輝夜が話したのか、と気づいた千春は 、 はい、と頷いた。
「 うむ、 わかった、死因は何かね? 」
「 いや、 分からなくて… 」
「 はて、 隠さなくてもいいじゃないか 」
「 いや、 本当なんです 」
「 ふむ 、そうか…。 では予測をしておこう、 どんな死因か分かれば、 君が死んだ時にも新しい死呪人が探しやすい 」
入ったばかりの新人に、サラッと死んだ後 の話をし始める百田。 この人は色んな意味で変わっていると改め て思った。
「 まず、 特葬課のメンバーの死因は候補から外される。 ので輝夜君の“失血死”、椎名君の“焼死”はないとして… 」
初めて知る輝夜と椎名の死因に、 疑問を抱く暇もなく、百田は続ける。
「 中毒死… 餓死… 溺死… 病死… 転落死… 爆死… このあたりも違う… うーんやはり、 特定は厳しいか… 」
「 なんだか変な気分ですね、 生きてるのに自分が死んだ原因探すの 」
「 ははは! 確かに君の立場からすればそうだな! だが大事だ、 こちらで調査を進めておこう! 気にせず業務に取り掛かってくれ! 」
「 あの、 僕の業務って? 」
「 さあな! ハッハッハ! 」
いや笑ってる場合か? あんたそれでも上司か。 これならまだ赤津が本部長だと言う方が まだ信憑性がある。しょうがないので、 部屋の整理整頓をすることにした。
「 お、 感心感心。 あ、 そこの棚には触らないでくれよ、 大事な書類が沢山あるんだ 」
「 あ、 はい、 わかりました 」
そこで上司っぽくなるの、なんなんだ。 そう言いたくなったので、いつか言おうと 思った千春だった。 ちらりと触るなと言われた棚を見ると、 目を引くタイトルのファイルがあった。
「浦島太郎と禁忌の匣について」と書いてあ った。なんのことかよく分からない。 気にせず整理整頓を続ける千春だった。
その2日ほど後、帰ってきた輝夜は満身創 痍といったような様子で、特葬課に倒れ込 んだ。 死呪人がかなり強敵だったらしい。 輝夜の看病をしていると、 赤津がやってきた。
「 輝夜クン、 敵の死因はなんだった? 」
「 赤津さん! 今そんな場合じゃ! 」
千春が赤津を責め立てると、 輝夜が途切れ途切れに答えた。
「 ………衰弱死…… だと思われます………… 」
「 なるほど、 ありがとう、 ゆっくり休んでくれ 」
そう言って、赤津は自分の机から千春を助 けた時の猟銃を取り出し、 ソファに横たわる輝夜に撃った。 大きな銃声が鳴り響く。
「 え!? 何してるんですか! 赤津さん! 」
「 ん? 彼女を蘇らせるんだよ …あ、知らなかったのかい? 」
「 は………? 」
「 “死呪人は、その死因以外では死なない。”そういう特性があるんだ、だから死んだ後少しの間時間を開ければ、 傷などは全て治って復活する。 傷が重いほど起きる時間は遅くなるけどね。 頭をやられてもおおよそ1日以内には復活する 」
そういえば、千春も輝夜にめった刺しにさ れたあと、体に傷ひとつなく蘇ったのを思 い出した。 とはいえいきなりためらいなく撃つのは、 少しタガが外れている、というか、イカれ てる。としか言いようがない。 それも特葬課なら日常茶飯事なのだろう か?
「 あれ、 でも、 ならどうやって死呪人って殺すんです? その死因以外じゃ殺せないんですよね? 」
「 実は死呪人は、 死因に応じて能力を得るんだよ …呪いの代償とでも言うのかな? 我々特葬課は、 それを権能と呼んでいる。 能力は様々だが、 その中には死呪人を殺せる能力も多数存在する。 というか現在確認している権能はだいたいそうだ。 わかりやすい例で言うと、 輝夜クンもそうだ 」
「 あ、 確かに、 輝夜は圧死の死呪人を殺せてた! なるほど、 あれはその権能? のおかげだったのか… 」
「 あぁ、その通りだよ。 彼女の権能は、 自らの血と、 血の付着した物体を操り、 それで死呪人を攻撃すると、 その傷はいかなる方法でも治らないという能力だ。 しかも1度付着すれば、 その効果は永続的に働く。 これを利用して、 僕の銃や百田や椎名クンの持つ刀にも少し細工をしてある。 おかげで一般人の僕でも、 死呪人を殺すことが出来るわけだ 」
「 なるほど、 てことは俺にも刀、 くれるんですか? 」
「 いや、 すぐには渡せないよ、 輝夜クンが意志を持って許可しない限り、 血の付いた物体はただのなまくらになってしまう、 それに、 素人の君が刀を持っても意味ないだろう。 君の持っている銛にでも改造を施したほうが、 より扱いやすいんじゃないか? 」
「 なるほど、たしかに 」
「 まぁどちらにせよ、 まずはキミに最低限戦えるようになってもらわないとね… 今後、 椎名に鍛えてもらうといい。 こと戦闘技術においては、 彼女が1番だからね 」
あとは、と赤津が言いかけて、 特葬課のドアがノックされる。 赤津がドアを開くと、軍服を着た青年が、 赤津に敬礼をしながら高らかに言った。
「 赤津小尉! 伝令であります! 京都の郊外で、 テロが発生したとの報告があり、 特葬課の隊員全員は、 直ちに現場へ急行せよとの事です! 以上であります! 失礼します! 」
言い終わると、青年軍人は廊下の奥へ走り 去って行ってしまった。 赤津は、先程輝夜を撃った銃を肩にかけ、 ドア付近へ歩く。
「 え、 どこ行くんですか? 今のは一体… 」
「 軍からの司令だそうだ、 拒否権は僕らにはない。 僕は今この場に居ない特葬課のメンバーに連絡したり、 しなければならないことがいくつかある。 千春クン、 キミは輝夜クンが起きたら、 すぐに現場に急行してくれ。 僕は先にキミには紹介していない最後の特葬課メンバーを連れてくる。 場所は軍の事務に聞いてくれ。 では… 」
赤津は、言うだけ言って出ていってしまっ た。 突然の展開に、頭が追いつかない。 テロ?どうして特葬課が?特葬課は死呪人 を抹殺、保護する機関ではないのか。 テロを止めるとなれば、それはもはや戦争 だ。だが、上司命令とあれば、 聞く他ない。 千春は、いつ輝夜が目覚めてもいいよう に、出発の準備を始めた。
コメント
3件
続きが気になりますね!楽しみにしてます!!
次の展開が気になるー!! 輝夜ちゃんの権能便利だな…