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第218話 修正同期
【異世界・転移した学園/校庭・朝】
サキのスマホ画面で、二つの光が重なっていた。
小さく揺れるre。
そのすぐ横に浮かぶ、Cの一文字。
Cから伸びた細い針が、reの光を押さえ込もうとしている。
「reは、ここにいる!」
サキは必死に声を張った。
「私のそばにいる!」
「消えない!」
reの光は、弱い。
だが、消えてはいなかった。
ハレルは主鍵を支えたまま、サキの画面を見る。
「ノノ、Cの針を外せないのか」
『直接は無理!』
ノノの声が返る。
『あれは攻撃じゃなくて、reのいる場所を別の番地に変えようとしてる!』
『無理に引き剥がしたら、reの方が消えるかもしれない!』
セラの声が続く。
『reは抵抗しているのではありません』
『何かを示そうとしています』
サキが画面を見つめる。
「何かって……?」
reが、ゆっくり動いた。
Cの針から逃げる方向ではない。
画面の中央。
三点同期を示す三本の線が交わっている場所へ向かっている。
ハレルの主鍵。
リオの副鍵。
アデルの副鍵。
三つの線の中心。
だが、reはその中心を通り過ぎた。
そして、少しだけ横にずれた場所で止まる。
ノノが息を呑んだ。
『今の中心……間違ってる』
ハレルが眉をひそめる。
「どういうことだ」
『三点同期の中心が、校庭の建物座標に置かれてる』
『でもreが示してるのは、体育館と校舎と校庭にいる人たちの反応が重なる場所』
『建物の中心じゃない』
『人の中心だ』
セラが静かに言う。
『Cは、建物の番地をずらしています』
『なら、建物を中心にしている限り、何度でも引かれます』
ハレルは匠の言葉を思い出した。
建物を戻すな。
人のいる学園を戻せ。
「中心を変える」
リオが校舎側から顔を上げる。
「同期の途中だぞ」
「このままでも、ずらされ続ける」
ハレルは答えた。
「主鍵の中心を、校庭から人へ移す」
アデルが外周から言う。
「失敗すれば、三本とも切れる」
「分かってる」
ハレルは主鍵を胸の前で握り直した。
「でも、今の中心はCに読まれてる」
アデルは一瞬黙り、それから答えた。
「やれ」
「外周は私が保つ」
◆ ◆ ◆
【現実世界・旧学園跡地周辺/仮設指揮所・朝】
木崎たちの回収班が、仮設指揮所近くまで戻ってきた。
日下部は白いコアの封印容器を抱えている。
相馬班の後ろには、成人遺体二体のカプセルが続いていた。
城ヶ峰がすぐに指示を出す。
「白いコアと遺体は、帰還外周の外へ運べ」
「学園の線から完全に切り離せ」
相馬が頷く。
「了解!」
佐伯と村瀬が封印容器へ駆け寄る。
佐伯は端末をかざした。
「白いコア、封印維持」
「帰還ラインとの接触も切れています」
村瀬はカプセル二基を見る。
「遺体反応も、学園帰還対象から外れました」
「こちらで監視します」
日下部は封印容器を佐伯へ渡す。
「中で何度も、学園へ戻せって引かれました」
佐伯は顔を強張らせる。
「でも、切り離せた」
木崎が息を整えながら言う。
「次は学園だ」
「こっちの仕事、まだ終わってねえんだろ」
その時、指揮所の端末が一斉に鳴った。
村瀬が画面へ戻る。
「三点同期の中心が動きます!」
城ヶ峰が見る。
「異世界側が修正に入ったか」
佐伯が頷く。
「建物座標から、人の反応の中心へ変えようとしています」
日下部は画面を見つめた。
校庭、体育館、校舎に散らばる人の反応。
それらの中央に、新しい光点が生まれようとしている。
「現実側の受け口も変えないと」
城ヶ峰は即座に命じる。
「全外周班へ通達」
「建物の輪郭を追うな」
「人の反応を優先しろ」
「校舎が見えても、固定しすぎるな」
木崎が苦い顔をする。
「見えてる建物を無視して、見えない人間を待てってか」
日下部は答える。
「そうです」
「先に建物を掴んだら、人が置いていかれます」
木崎は森の奥を見る。
濃くなり始めた校舎の輪郭。
「分かった」
「人が来るまで、学校には触るなってことだな」
◆ ◆ ◆
【異世界・転移した学園/体育館・朝】
ノノの声が体育館に響く。
『同期中心を変更する!』
『これから一度、体育館の線が弱くなる!』
『でも名前確認は止めないで!』
生徒たちに緊張が走った。
ダミエは体育館の床へ両手をつく。
「結界を変える」
青山先生が聞く。
「何をすれば」
「今まで、この結界は体育館を守っていた」
「これからは、中にいる人を包む外箱にする」
ダミエの光が床から壁へ上がる。
体育館という建物を囲うのではない。
中に座る生徒と教師を、一つの集まりとして包み込む。
青山先生が声を上げた。
「私は、青山和子です!」
「三年二組の担任です!」
「生徒たちと一緒に、体育館にいます!」
生徒たちも続く。
「森下カナです!」
「藤井タクトです!」
「安西リナです!」
「体育館にいます!」
声が重なり、結界の形が変わる。
壁に沿っていた白い光が、生徒たちを包む大きな輪になった。
ダミエは歯を食いしばる。
「建物がずれても、人は離さない」
◆ ◆ ◆
【異世界・転移した学園/校庭・朝】
ハレルは目を閉じた。
校庭の形を意識から外す。
地面。
白線。
校舎。
体育館。
それらを中心にしない。
聞こえてくる名前を探す。
青山和子。
森下カナ。
藤井タクト。
香川直人。
内田ソウタ。
小森ハルカ。
リオ。
サキ。
そして、自分。
「雲賀ハレル」
「人のいる学園を、中心にする」
主鍵の光が一度細くなった。
三点同期の線が大きく揺れる。
ノノが叫ぶ。
『中心変更開始!』
『同期率、五十八から四十九!』
リオの副鍵が激しく震えた。
「下がってるぞ!」
「まだだ!」
ハレルは声を張る。
「体育館にいる人!」
「校舎にいる人!」
「校庭にいる人!」
「全員の名前を、主鍵へ繋ぐ!」
サキがスマホを掲げた。
「青山和子先生!」
「森下カナさん!」
「藤井タクトさん!」
「香川直人先生!」
「内田ソウタさん!」
「小森ハルカさん!」
呼ばれた名前に、各所から声が返る。
『ここにいます!』
『体育館にいます!』
『校舎二階にいます!』
『現実世界へ戻ります!』
白い光が、校舎、体育館、校庭から伸びる。
それらは建物の中心ではなく、人々の声が重なる一点に集まった。
reがその中心へ動く。
小さな光点が、新しい中心に重なった。
ノノの声が跳ねる。
『合った!』
『reの位置と、人の中心が一致!』
『同期率、五十五!』
『六十!』
リオは副鍵を支えながら叫ぶ。
「一ノ瀬涼!」
「右側の線を保つ!」
「校舎にいる人を、中心へ繋ぐ!」
アデルも外周から続く。
「アデル!」
「異世界側の構造を切り離す!」
「王都の光具と兵を、帰還線へ混ぜない!」
左腕の副鍵から、鋭い光が走った。
学園の外周に混ざっていた王都側の術式が、少しずつ離れていく。
王都兵たちが後方へ下がる。
アデルは一歩も動かず、その切れ目を支えた。
『同期率、六十五!』
ノノが叫ぶ。
『修正同期、成立する!』
◆ ◆ ◆
【どこでもない層/さらに深い場所】
Cは、新しい中心を見ていた。
建物の番地ではない。
人の名前と声が重なる場所。
そこに、reの光が重なっている。
ジャバが苛立った声を出す。
「また直しやがった」
Cは答えない。
カシウスが静かに言う。
「君の番地から降りたようだね」
「はい」
「どうする」
Cは、新しい中心へ細い針を向けた。
「中心が建物でないなら」
「中心そのものを動かします」
ジャバが笑う。
「今度は何を殴る」
「まだ殴らなくて結構です」
Cの声が、少しだけ低くなる。
「彼らは、全員を一つの中心へ集めました」
「ならば、その中心を二つに分けます」
◆ ◆ ◆
【異世界・転移した学園/校庭・朝】
三点同期の光が、安定し始めた。
ハレルの主鍵。
リオの副鍵。
アデルの副鍵。
その中心には、建物ではなく、学園にいる人々の名前がある。
ノノの声が響く。
『同期率、六十八!』
『現実側との位置、修正完了!』
『このまま上げる!』
サキはスマホを見た。
reは、新しい中心で静かに光っている。
Cの一文字は、いったん画面から消えていた。
「できた……?」
ハレルは息を吐きながら答える。
「まだ途中だ」
その時、新しい中心の光が、ほんの一瞬だけ二つに割れた。
一つは体育館と校舎へ。
もう一つは校庭へ。
ノノの声が止まる。
『待って』
『中心反応が……二つある』
セラの声が低くなる。
『Cが、中心そのものを分けようとしています』
サキの画面に、再びCの一文字が浮かんだ。
Cの声が静かに響く。
「正しい場所を見つけましたね」
少し間を置く。
「では、正しい場所を二つにしましょう」
ハレルは主鍵を握りしめた。
修正同期は成功した。
だが、Cの干渉は終わっていない。
◆ ◆ ◆
建物ではなく、人のいる学園を中心にする。
ハレルたちは、三点同期を組み直した。
白いコアと成人遺体二体は帰還ラインから切り離され、現実側の管理下へ移った。
ダミエは体育館を守る結界から、人々を包む外箱へ変えた。
リオは校舎にいる人々を繋ぎ、アデルは異世界側の構造を切り離した。
修正同期は成立した。
しかし、Cは新しい中心を見つけた。
そして、その一つの中心を、二つへ分けようとしていた。
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コメント
1件
うわあ、この回は息をのむ展開でした……! 建物の座標じゃなくて「人の中心」に同期を切り替える発想、匠さんの伏線がここで炸裂した感じがして痺れました。ダミエが結界を「体育館を守る」から「人を包む」に変える場面、すごく美しかった。でも最後の「二つに分ける」でまた不穏に……C、手強いですね。reが健気で愛おしいです。