テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第219話 二つの中心
【異世界・転移した学園/校庭・朝】
三点同期の中心が、二つに割れた。
一つは、体育館と校舎にいる生徒たち。
もう一つは、校庭にいるハレル、サキ、リオ。
同じ学園にいるはずなのに、
白い光は二つの集まりを別々の場所として読み取り始めている。
ノノの声が響いた。
『同期率、六十八から五十九!』
『中心が二つに分かれてる!』
『このままだと、体育館と校舎だけ先に戻る!』
ハレルは主鍵を強く握る。
「また、建物と人を分けるつもりか!」
Cの声が、静かに返った。
「いいえ」
「今度は、人と人を分けています」
サキの背筋が冷える。
Cは続けた。
「体育館にいる者」
「校舎にいる者」
「校庭にいる者」
「同じ学園にいるというだけで、一つにまとめる必要はありません」
「あるよ!」
サキが叫んだ。
「みんな、同じ学園にいる!」
「別々の場所にいても、同じところへ帰るの!」
Cの声は穏やかだった。
「では、どちらが本当の中心ですか」
ハレルの主鍵が大きく震えた。
体育館と校舎にいる人数の方が多い。
帰還線は、そちらを大きな中心として選び始めている。
校庭側の光が細くなる。
少し離れた場所で、ヴェルニが地面に片膝をついたまま顔を上げた。
傷はまだ塞がっていない。
それでも、目だけはCの気配がある方向を睨んでいる。
「どっちが中心かなんて、そっちが決めることじゃねえだろ」
Cから返事はない。
ヴェルニは息を切らしながら続ける。
「体育館にいる奴も、校舎にいる奴も、ここにいる奴も」
「全員まとめて、同じ学園なんだろ」
アデルが外周を支えながら言った。
「ヴェルニ、無理に立つな」
「立ってねえよ」
ヴェルニは苦笑する。
「口くらいは動かせる」
そして、細くなっていく校庭側の光へ声を向けた。
「こっちだけ置いていくなよ」
「俺があれだけ殴られて守った校庭なんだからな」
リオが副鍵を押さえた。
「ハレル、こっちが切れるぞ!」
アデルも外周から叫ぶ。
「校庭側だけ切り離される!」
「中心を一つに戻せ!」
「分かってる!」
だが、どうすればいい。
主鍵で無理に線を引けば、人数の少ない校庭側へ全体を引っ張ることになる。
今度は、体育館と校舎にいる生徒たちへ負担がかかる。
Cはそれを見透かしたように言った。
「選んでください」
「大勢を戻すか」
「少ない者を待つか」
ハレルは歯を食いしばった。
「選ばない」
「全員で戻る」
「全員という番地はありません」
Cの言葉と同時に、二つの中心の間が暗く裂けた。
◆ ◆ ◆
【異世界・転移した学園/体育館・朝】
体育館の窓の外に、現実世界の空が見えていた。
灰色の雲。
旧学園跡地を囲む車両。
外周に立つ人影。
戻り始めている。
だが、体育館の入口から見える校庭には、誰もいなかった。
青山先生が目を見開く。
「ハレル君たちは……?」
ノノの声が飛ぶ。
『見えなくなってるだけ!』
『校庭側が別の中心に分けられた!』
『名前確認を止めないで!』
生徒たちの間に不安が広がる。
「もう現実に戻ってるの?」
「私たちだけなの?」
「校庭の人たちはどうなるの?」
ダミエが床の結界を支えながら言った。
「見えないからといって、いないと決めるな」
青山先生は息を吸い、入口の向こうへ声を張った。
「雲賀ハレル君!」
「雲賀サキさん!」
「一ノ瀬涼君!」
「聞こえていますか!」
返事はない。
それでも青山先生は続ける。
「私たちは体育館にいます!」
「あなたたちは校庭にいます!」
「場所は違っても、同じ学園です!」
生徒たちも声を上げた。
「ハレル!」
「サキさん!」
「リオ!」
声が白い線を伝って、暗い裂け目へ向かう。
◆ ◆ ◆
【現実世界・旧学園跡地周辺/仮設指揮所・朝】
森の奥に、体育館と校舎が半分だけ現れていた。
壁も窓も見える。
だが、地面には触れていない。
空中に薄く重なったまま、動きを止めている。
校庭だけは戻っていなかった。
佐伯が端末を操作する。
「帰還対象が二群に分かれました!」
「体育館・校舎群と、校庭群です!」
村瀬が画面を見つめる。
「体育館側は現実へ近い」
「でも校庭側は異世界に引かれたままです」
「このまま体育館側を固定したら、ハレルたちが残されます」
城ヶ峰は無線を握った。
『全班、固定するな』
『建物が見えても手を出すな』
『校庭側と繋がるまで待て』
片桐の声が返る。
『南西外周、了解!』
『体育館の輪郭には触れません!』
その時、仮設指揮所へ戻った木崎が森を見た。
「半分だけ学校が浮いてるぞ」
日下部は端末を覗き込む。
「Cが帰還先を二つに分けています」
「体育館と校舎はここ」
「校庭は、別の場所として読まれてる」
木崎は顔をしかめる。
「同じ学校だろうが」
村瀬が答える。
「その“同じ”を壊されてるんです」
日下部は、画面の中に残る細い白線を指した。
「完全には切れていません」
「二つの中心の間に、まだ何か残ってる」
佐伯が拡大する。
暗い裂け目の中に、弱い光がある。
レアが残した光路だった。
◆ ◆ ◆
【異世界・転移した学園/校庭・朝】
暗い裂け目の向こうから、かすかに声が届く。
ハレル。
サキ。
リオ。
ヴェルニも、その声を聞いて顔を上げた。
「聞こえてるじゃねえか」
ハレルがヴェルニを見る。
ヴェルニは裂け目の向こうを指した。
「向こうから名前を呼ばれて、こっちから返事ができる」
「だったら、まだ分かれてねえ」
リオが副鍵を支えながら頷く。
「ああ」
ヴェルニは声を張った。
「ヴェルニ!」
「校庭にいる!」
「現実へ戻る奴じゃねえが、こいつらを送り出す側だ!」
その声が白い線を伝い、裂け目の中へ流れていく。
「聞こえてるなら、同じ場所だ!」
「勝手に二つに分けるな!」
サキは顔を上げた。
「聞こえる」
ハレルも頷く。
「ああ」
リオは副鍵を支えながら言った。
「向こうも、俺たちを覚えてる」
Cの声が響く。
「声が届いても、番地は別です」
その時、サキのスマホでreが動いた。
二つに割れた中心の間へ、ゆっくり進んでいく。
Cの一文字が、その後を追うように浮かぶ。
「また、道を示しますか」
reは答えない。
暗い裂け目の中で、小さく光る。
すると、校庭中央に残っていた白い残光が反応した。
細い線が、reから体育館側へ伸びる。
ノノが叫ぶ。
『残光が動いた!』
『二つの中心を繋ごうとしてる!』
セラの声が重なる。
『レアが残した道です』
『柱にはなれなくても、離れた場所を結ぶ道にはなります』
サキは、裂け目の向こうへ向かって叫んだ。
「青山先生!」
「聞こえます!」
「私たちは校庭にいます!」
かすかな声が返る。
『私たちは体育館にいます!』
サキは続けた。
「場所は違っても、同じ学園です!」
「同じところへ帰ります!」
ハレルは主鍵を残光の線へ重ねた。
「雲賀ハレル!」
「校庭にいる!」
「体育館と校舎にいる人たちと一緒に戻る!」
リオも副鍵の光を流す。
「一ノ瀬涼!」
「校庭側から、校舎と体育館へ線を繋ぐ!」
向こうから名前が返ってくる。
『青山和子! 体育館中央!』
『森下カナ! 体育館中央!』
『香川直人! 校舎二階!』
二つの中心を隔てていた裂け目に、声と光が重なっていく。
◆ ◆ ◆
【どこでもない層/さらに深い場所】
Cは、細く伸びる残光を見ていた。
分けたはずの二つの中心が、再び繋がろうとしている。
ジャバが苛立った。
「また、あの光か」
「はい」
「今度こそ潰せ」
Cはすぐには答えなかった。
残光は弱い。
柱にはならない。
それだけでは学園を戻せない。
だが、人々の声が流れ込むたびに太くなっている。
カシウスが静かに言った。
「君は、レアを軽く見たようだね」
「死んだ者です」
「だからこそ、役割から自由になった」
Cの声が、わずかに低くなる。
「自由は、参照できません」
「不便だろう」
Cは沈黙した。
そして、二つの中心へ針を深く刺す。
「では、繋がる前に固定します」
◆ ◆ ◆
【異世界・転移した学園/校庭・朝】
学園全体に、強い衝撃が走った。
体育館と校舎は、現実側に半分現れたまま止まる。
校庭は異世界側に残ったまま動かない。
二つの中心が、別々の世界に固定されようとしている。
ノノが叫んだ。
『まずい!』
『帰還が途中で固まる!』
『このままだと、どっちも動けなくなる!』
Cの声が響く。
「戻るなら、欠けたまま戻ればいい」
サキはスマホを抱えた。
「嫌だ」
「形は残ります」
「嫌だ!」
サキの声が、校庭に響く。
「誰かがいない学校なんて、戻ったことにならない!」
「お兄ちゃんも、リオも、先生も、生徒も!」
「一人だけ置いていくのも、一つの場所だけ置いていくのも嫌!」
reが強く光った。
その光が、レアの残光と重なる。
細かった道が、急に太くなる。
現実側の体育館。
異世界側の校庭。
二つの間に、白い光路がはっきりと現れた。
ノノの声が震える。
『中心が近づいてる!』
『残光の線が、二つを一つに戻してる!』
ハレルは主鍵を掲げた。
「ここが中心だ!」
「体育館でも、校庭でもない!」
「みんなを繋ぐ、この道が中心だ!」
リオが副鍵を重ねる。
「二つに分けさせない!」
アデルも外周から光を流した。
「全外周を、一つの学園として閉じる!」
二つに割れていた中心が、ゆっくりと動き始める。
ヴェルニはその光を見て、疲れたように息を吐いた。
「そうだ。それでいい」
サキが振り返る。
ヴェルニは傷ついた体を支えながら、わずかに笑った。
「学校ってのは、建物ごとに別れるもんじゃねえんだろ」
「だったら最後まで、一つで帰れ」
アデルが横目で見る。
「珍しくまともなことを言うな」
「俺はいつでもまともだ」
「それは違う」
短いやり取りの間にも、白い光路はさらに太くなっていった。
まだ一つには戻っていない。
だが、固定は破れた。
◆ ◆ ◆
【現実世界・旧学園跡地周辺/仮設指揮所・朝】
佐伯の端末に、一本の太い白線が表示された。
「二群の間に光路が形成されました!」
村瀬が叫ぶ。
「校庭側が近づいてきます!」
「体育館と校舎の固定も解除!」
城ヶ峰は無線を開く。
『全班、外周を一つとして維持しろ』
『校舎、体育館、校庭を分けるな』
『学園全体を受け入れる準備に入れ』
日下部が同期率を見る。
「七十二……七十五……」
木崎は森の奥を見た。
半分だけ見えていた体育館の下に、校庭の白線が浮かび始めている。
「今度こそ戻ってくるのか」
日下部は答えた。
「まだです」
「でも、もう欠けたままでは止まりません」
◆ ◆ ◆
Cは、中心を二つに分けた。
体育館と校舎。
校庭。
学園は、二つの世界に欠けたまま固定されかけた。
だが、名前を呼ぶ声が届いた。
レアが残した光が道となり、reがその道を示した。
サキは選ばなかった。
大勢か、少数か。
体育館か、校庭か。
全員で戻る。
その言葉によって、二つの中心は再び近づき始めた。
学園帰還は、最後の段階へ入る。
#一次創作
眠狂四郎
590
麗太
593
Cafe Latteベース隊長
48
コメント
1件
第219話、すごく好きな回でした。二つの中心に分かれてしまう絶望感と、それでも「全員で戻る」と叫ぶサキさんの強さが胸に刺さりました。特にヴェルニが「口くらいは動かせる」と笑いながら、向こうの声に応えるシーンはグッと来ます。レアが残した光が、みんなを繋ぐ道になる—その優しさが本当に沁みました。次の展開が待ち遠しいです。