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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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第3話 現状

「なんでだよ、別にいいだろ!?」

「危険だ。第一怪しいだろ?白い海の海水だって?あんなの染料をとかせばいくらでも作れる。」

家に戻ると、すぐに口論が始まった。

「あの旅人が嘘をついてるっていうのか?」

「白い海は伝説上の海だ。本当にあるかどうかなんて、分からない。」

「あるかもしれないだろ?」

「…あのなあ、本気で信じてるのか?黒の海で消えたものが白海に現れる?現実味に欠けてる。」

「じゃ、じゃあ、ないって言い切れるのかよ。父さんは生きてるかもしれない。それなら迎えに行くのが筋ってもんだろ…」

パシャッ!!

冷たい水が、頬を伝い、首を伝い、体に籠った熱を一瞬にして冷ました。

「頭を冷やせ、ノア。」

「……後悔、したくない。」

去りかけていたルイスがこちらを見た。

「今なら会えるかもしれないんだ。どうするんだよ、あいつの話が本当で、父さんは生きてて、今行けば間に合ったかもしれないのに…… 」

ノアは苦しそうに言った。

「もし、死んじゃったら。」

「……。」

「嘘だとしても、失うのは時間だけだろ。でも、嘘じゃなかったら俺はチャンスを逃したってことだ。なあ、頼むから……っ!」

と、ルイスが言葉を紡いだ。

「あいつみたいに、傲慢だな。」

「…… 」

「早く準備しろ。」

「……えっ?」

「早くしないと、メイスに捕まるぞ。あいつは絶対に行かせないだろうから……すぐに発った方がいい。」

「……!」

「さっさと帰ってこいよ、我儘野郎。」

太陽は、まだ昇っていない。そんな早朝だったが、ノアは酒場へと向かった。昨日と変わらず、きちっとした服装で、旅人はいた。

「おや、早いですね。」

「母さんにバレる前に出発したいんだ。」

「そういうことでしたら、時刻を早めましょう。忘れたものはありませんか?」

「……ああ、ない。」

すると、彼女はフードを落とした。

「ノア、私はウィット・アステリア。これからよろしくお願いします。」

「…改めて、ノア・コール。よろしく。」

綺麗な人だ、と思った。透き通る空色の瞳に、柔らかな茶色の髪。今までこれほど美しく笑う人を、ノアは見たことがなかった。

…いや、いつも地面ばかり向いて歩いていたからかもしれない。

この時、久しぶりに正面から人の顔を見たと思った。

「どうやって向かうんだ?」

「そうですね……暫くは海沿いを進みます。そして、青の海の堺まで。」

「青の海?」

「おや、ご存知ない。」

「青色の海は聞いたことがない。」

ウィットは静かに、得意気に話し始めた。

「実は、世界では青の海が普通なのです。 」

「青が普通だと?」

「黒やら白やら、そちらの方が希少ですし、信じて貰えないはずですよ。」

「……はず……」

「友人によれば、です。」

彼女は地図に目を落とす。確かに、青色で地図は塗りたくられていた。

「青の海なんて気持ち悪いな。」

「美しいそうです。一目見ていただきたいですね。」

ウィットは穏やかな目をしている。

「そうだ、海の魚を食べたことはありますか?」

「川魚なら。」

「私は旅に出て初めて食べました。川魚とは比べ物にならないほど大きく、驚いた記憶があります。 」

「どれくらい大きいんだ。」

「そうですね、軽く成人男性の身長を超えます。」

疑いの眼差しで見つめていると 、はっとした顔でノアを見た。

「本当ですよ、ノア!」

「信じ難い。」

「もう…絶対にみせてあげますからね。」

ウィットはノアの知らないことを何でも知っている。同じ歳のように見えるのだが、中身だけ年齢が違うように思えてしまう。

(旅って、いいな。)

世界を知り、その目で、耳で、感じる。きっと忘れられない経験となり、人生を豊かにしてくれるだろう。

「楽しいか、旅は。」

「…ええ。貴方の、想像以上に。」

「…………そういえば、ウィット。お前ここに来るまでなんともなかったのか。」

「え?」

「この村から他の村に出る人間はいない。黒の海から、よく亡霊が這い上がるからな。」

「亡霊……?」

「亡霊は人間を騙す。死の世界へ、誘うんだ。」

ウィットは僅かに顔を強ばらせた。怖がらせるつもりではなかったが、言っておかなくてはいけないことだ。

(ただの1度も会 わないとは…ウィットは強運なんだな。)

「亡霊にあった時はまず……」

と、強い風が葉を巻き上げる。黒海が騒いでいる。鳥が、空気が、妙に重い。

(…まさか。)

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