「待って! 死んじゃダメだよ。冷静になろう」
ここで死なれると僕が彼女に何かしたんじゃないかと疑われるに違いない。死ぬなら僕ではなく、君を傷つけたリクという男の前で死んでほしい。なんならリクを道連れにしてもいいから。とにかく今は困る。彼女を止めるために僕もフェンスを登った。
フェンスの向こうは人一人分立てるほどの幅しかない。彼女はそこに立ち、黙って大きな空を見渡していた。
僕もそこに降り立ち、彼女の腕をつかんだ。一瞬下を見てしまって、恐怖で頭がクラクラした。グラウンドで昼練している運動部の部員たちが豆粒くらいにしか見えない。校舎の前はコンクリート。運よく植え込みのある場所に落下できたとしても、それで助かるとも思えなかった。
「どうした? 顔が青いぞ」
「そりゃ、怖いから……」
「心配するな。飛び降り自殺は落下してる途中で気を失うそうだ。だから痛みを感じることはない」
「心配するなって、なんで僕まで死ぬみたいに……」
「当たり前だ。私が死にたくなったのは男のせいだ。おまえが責任取っていっしょに飛び降りてくれ」
「……………………!」
そんな連帯責任は聞いたことがない。だいたい僕はまだ死にたくない。彼女と違って僕はまだ恋もしたことがない。死んでも死にきれないとはこのことだ。
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