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私は決意にアベル様を見上げ、


「傷の治療は、初めてではありませんわ。女とはいえ、私もこの国の貴族の一員。有事には戦う覚悟は出来ております。ですから、アベル様」


ご許可を、と。繰り返した私に、アベル様が苦々しく眉間を寄せる。

けれども重い口を開き、


「……わかった」


「! ありがとうございます、アベル様!」


「だが、約束してくれ。決して無理はしないよう、少しでも辛いと思ったその時は、必ず、王座の間へ向かうと。……キミに、治療義務はない」


私の肩に触れる掌は、優しくも力強い。


(本当に、お優しい方ね)


私はしっかりと頷き、


「必ず、お約束いたしますわ。……アベル様もどうか、お気をつけて」


「ああ。……今の話、この場の隊員に周知しておいてくれ。マリエッタ嬢。また、必ず戻ってくる」


名残惜しさを振り切るようにして、背を向けたアベル様が足早に去っていく。


(私も、出来ることをやらなきゃ)


「私も中へ」


頷いた隊員さんと共にダンスホールに踏み入れる。

彼は手早く私の参加を周知すると、私へと頭を下げ、


「先ほどは大変失礼いたしました。そのお力、どうか我々にお貸しください」


「そんな、頭を上げてくださいませ。貴族の女性が治癒魔法を学んでいることのほうが稀ですもの。無理を通してくださり、感謝いたしますわ」


と、彼は「ありがとうございます」と頭を上げると私をじっと見て、


「マリエッタ様、と呼ばれておりましたが、もしやルキウスのご婚約者であるマリエッタ様で?」


「へ!?」


突然の指摘にすっとんきょうな声を上げてしまうと、彼は「やはりそうでしたか」と微笑ましそうに笑んで、


「アレを心酔させるご令嬢とはと色々考えておりましたが、なるほど、一気に視界が冴えた思いです」


「えと、ルキウス様をご存じで……?」


「ええ。アレは私の部下ですから」


(ルキウスが部下って……もしかして!)


遊撃隊隊長を務めるルキウスの上司といったら、一人しかいない。


「騎士団長様でいらしたのですね……!」


彼は肯定するようにして頷くと、


「アベル様もおっしゃっていましたが、どうか、無理だけはしませんよう。貴方様になにかあっては、ルキウスが使いモノにならなくなってしまいますし」


「そ、んな……」


ことはない、と言いたかったけれど、どうにも素直に口に出来ない。

私がうっかり倒れでもしたら、たしかにルキウスが付きっきりで看病をと言い出してもおかしくはない気がする。


そして易々とそんな想像が出来てしまう事実が、なんだかちょっと恥ずかしい。

そんな私の葛藤を見透かしてか、団長は大人な笑みを浮かべると、


「では互いに、ご武運を」


気遣う言葉を残して、足早に部屋を去っていった。

まさかこんな形で、騎士団長様をお目にかかれるとは。


(どうか、ご無事で)


胸中で祈りを捧げ、看治隊の手が回っていない、緊急性の高い患者から治療を試みる。

私の魔力では傷を癒せても、浄化は出来ない。傷の治った人は看治隊へと引き渡して、また、痛みにうずくまる患者の元へ。


一人、二人。三人、四人と、周囲の疑わしい視線を意識的にないものとしながら、必死に治療を続けていく。

そうして何人目の患者かもわからないご令嬢の治癒を完了させ、看治隊の浄化待ちの場へ連れて行こうとした時だった。


「マリエッタ様、彼女は私が。さあ、歩けますか?」


すっと現れたご令嬢が、治癒の終わった彼女の手をとって先導し始める。

突然のことにあっけにとられていると、今度は別のご令嬢が、


「マリエッタ様、お水をいただいてきましたわ。お飲みになってくださいまし」


「あ、ありがとうございます……」


反射的に受け取り、期待の眼差しをに負けカップに口をつけた。

どうやら自分でも気が付かないうちに、随分と喉が渇いていたよう。冷たいそれがごくりごくりと喉を通るたびに、じんわりと身体に沁みわたっていく感覚。

ありがとうございました、とカップから口を離そうとした刹那、


「マリエッタ様! お椅子をいただいて参りましたわ! こちらに」


「汗がひどいのでお拭きさせていただきますわね! お水ももう一杯おもちしますか?」


「え? え?」


集まってきたのは皆、軽傷だからと後回しにされているご令嬢方。

あれよあれよと椅子に座らされ、汗を拭かれとされるがままに。疲労からかいまいち理解の追いついていない私は、


「あと、ありがとうございます、皆様。ですがその、大変申し訳ないのですが、今はまだ怪我の深い方を優先に――」


「あら、嫌ですわマリエッタ様。私達、なにも先に治療をしていただきたくて動いているのではありませんのよ?」


「え?」


すっと。一人が頭を下げたのに倣うようにして、ご令嬢方が頭を下げる。


「お詫びさせてくださいませ、マリエッタ様。私達、ずっとあなたを誤解しておりましたの」


「誤解、ですか……?」


「ええ。侯爵家であることをいいことに、幼少期からルキウス様を振舞わしている、高慢なご令嬢なのだと」


「な……っ!?」


いったいどこで!? そんな話が!?


(あ、でもルキウスを振り回しているのは間違っていないけれど……。ううん、お父様が侯爵だったから、幼い頃からルキウスと交流があったというのも事実だし……)


自覚のある口の悪さは、高慢ととられてもおかしくはない性質のものだし……。


(あ、あれ? 誤解どころか反論の余地がないような……)

黒騎士さま、溺愛しすぎです!~ぼっち令嬢は悪役令嬢ではなく真の歌姫になる~

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