テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
雨の後の虹
月乃島 星絆
〈登場人物〉
清花 菜紬 せいか なつ
この物語の主人公
苦しい生活が嫌になり、家を飛び出したところ事故にあう。
生きる価値がないと感じていた菜紬が異世界で、、、!
町田 南海 まちだ みなみ
菜紬のただ一人の親友。
唯一の理解者だと思っていたのに裏切られる。
エルリア・フォス・エリフィア
菜紬が転生した人物
平民のふつうの女の子。
ユリアナ・ライト・セレニア
セレニア王国の王女。
魔力が少ない。
アリア・マリー・デュレット
王族に使えるメイド。
清花 美桜 せいか みお
菜紬の妹。
両親の前ではいい子だけれど裏で菜紬に嫌がらせをしている。
セレニア王国
菜紬の転生した先の国の名前。
王宮の奥にある噴水に入っている魔力によって国が守られている。
近頃は魔力の量が少なくなっているらしい。
〈あらすじ〉
中1の菜紬は大企業の社長令嬢。
みんなはそんな菜紬をうらやむけれど、菜紬は幸せな生活とは程遠い生活をしていた。
妹を気にいっていて菜紬をないものとしてあつかう両親、妹からの嫌がらせと居場所のない生活を送っていた。
菜紬の唯一の理解者は親友の南海だけだった。でも、南海もわたしをうらやむあの子たちと一緒だった。
心が折れた菜紬は家を飛び出し、事故にあう。
目が覚めるとそこは異世界で!?
平民として生活することに!
今度こそ幸せに生きるんだ!
そんな少女の物語ーー
〈プロローグ〉
わたしは、居場所がなかった
南海といるときだけ、わたしって生きてていいんだって思えてた
みなみだけはわたしの味方だって信じてた ーー
あの日までは
出ていってよ
妹の美桜は冷たくそう言った
欠点なんてない完璧な妹
両親の宝物
だけど、あの子の完璧が表だけということにだれも気づかない
大企業セイカの社長令嬢で裕福に暮らせることを羨ましがるクラスメイト
それをひがんだいじめっ子
みんなは本当になにもわかっていない
この生活の何がいいと思えるんだろう
そんなことを思っていたわたしに妹の言葉は強く刺さった
そっか、それで抜け出せるんだ、、、
この生活から、、、
わたしは家を飛び出して、冷たい雨の中をひたすら走った
もう、すべてどうでもいいーー
そう思ったときだった
ブレーキの音、光。
世界がひっくり返り視界がぼやけていった
あの夜、噴水の水にひとつの水滴が落ちた
空から淡い光がさすー ー
きてくれたんだね、次は絶対守るから
そう、わたしはつぶやいた
〈わたしの日常〉
「今日は午後にかけて天気が崩れていくでしょう。とくにお昼過ぎから四時頃にーー」
ニュースでは今日の天気について天気予報士さんが話している。
「美桜様、朝飯の時間です」
朝、本を読んでいるとメイドさんが美桜を朝ご飯に呼ぶ声が廊下からする。
これを聞いていればわかる通りわたしの家はお金持ちである。
お父さんは大企業セイカの社長だ。
まもなく、わたしの部屋にもノックがやってくる。
「菜紬様、失礼します」
そう言ってメイドさんがわたしの部屋に入ってくる。
わたしの部屋に卵焼きやお味噌汁といった質素な朝ご飯が運ばれていく。
「失礼しました」
と用事を済ませたメイドさんがわたしの部屋から出ていく。
すぐにご飯を食べる気にはなれず、少し本を読み進める。
そこには、楽しそうに家族と食卓を囲む描写があった。
「はぁ、、、」
とたん、思わずため息が出てしまう。
わたしも、こんなふうに家族とご飯食べたいな、、、
まあ、あんな家族と一緒に食べたいとは思わないけど。
すこし気落ちしながらも、朝ごはんを食べる。
学校に遅れるわけにはいかないからね。
ささっと食べ終え、学校に行く準備をする。
つけっぱなしのテレビから、「時刻は7時50分です。次のニュースに映ります」という声が聞こえた。
まずい、遅刻しちゃう!
わたしはバタバタと部屋を飛び出した。
だけど、なかなか玄関に辿り着かない。
もう、なんなのこの家!
無駄に広いんだから!どんなお屋敷よ!
時間に余裕がなさすぎて、テンションは狂うし、そんなことにまでイライラしてくる。
しかも、わたしの部屋は玄関とは逆の端にある。
遠いよっ!!
走って走って、玄関に着いた時にはもう汗だく。
学校じゃないからね。家だからね。
どれだけ走ろうが、走ったとこからやり直しにはならないんですー!
メイドさんに
「菜紬様いってらっしゃいませ」
と丁寧に見送られたけど、軽く頭を下げて学校へダッシュ!
ごめんなさい、ごめんなさい!
「はあ、はあ、、、」
疲れた〜家を出たところでギブアップ!!
ここからは早歩きで行くことにしよ。
わたしは基本的には徒歩通学にしている。
別にお金持ちアピールがしたいわけじゃないし。
なんてしてたとき、
「菜紬!おはよ〜!」
ドンッ!
わたしに突進する音とともに元気な声が聞こえた。
「おはよう、南海!今日も朝から気だね〜」
彼女はわたしのたった一人の友達であり、親友の南海だ。
「いやー今日も菜紬と一緒にいれて嬉しい!」「ふふっ。何それ」
もう、南海ったら。
「ねえ、菜紬、今何時か知ってる?」
「えっと、、、」
ーキーンコーンカーンコーンーー
遠くからチャイムの鳴る音がする。
「やばい、ほんとに遅刻だ!」
「どっちが速いか学校まで競走ね」
そういって南海が走り出す。
「え、ちょっとまって!」
あわてて南海を追いかける。
自然と笑顔が溢れてくる。
やっぱり、南海といるのが一番楽しい、、、!
あんな家にいるよりも何億倍も。
南海の元気のよさに少し救われた気がした。
「いや、結局間に合わなかったね〜」
「ほんとだよ〜」
あのチャイムが聞こえた時点で走り出して、誰が間に合うって思うのよ。
地球上で南海だけだよー
はい、もちろん。
わたしたちは遅刻したわけです。
「次の授業、移動教室だね」
次の時間割を確認する。
ほんとだ、理科だ。
「ちょっと待って教科書とってくる」
そう言って、棚にとりにいく。
わたしの棚は結構ぐちゃぐちゃだから探すのに時間かかるかも。
一番上に社会の教科書、その下に国語で、、、あれ?ない?
え、うそ。
どうしよ、どうしよ!
あの、理科の先生怖いのに〜!
いや、待って。
こういう時こそ冷静になれ、わたし!
あまりわたしは忘れ物をしないので、こういうときは焦る。
一つ深呼吸をすると、後ろの方から何人かの笑い声が聞こえる。
あーあいつらのせいかあ。
面倒だからほっとこ。
「ごめん、南海おまたせ。教科書、忘れちゃったみたい」
「え〜そうなの?はやく行って先生に言わないとね」
「うん」
先生に怒られませんように、、、
わたしは、わかっている。
今回もあいつらのせいに間違いないだろう。
このクラスにはわたしのことをよく思わない人がたくさんいる。
その理由は、お父さんがセイカの社長で、わたしの家がお金持ちだからである。
そんなわたしが羨ましいんだろう。
そして、わたしのことが気に食わない一部はこうやってちょっとした意地悪をしてくる。
まだ、いじめまではいかないから無視してるんだけど。
別に、わたしがお金持ちなわけじゃない。
お父さんが社長なだけ。
みんなこの生活の何がいいと思ってるんだろう。
わたしはあんな家、大嫌いだよ。
わたしはみんなが羨ましいよ。
テンションが下がったまま一日のスタートをきることとなった。
帰り道。
わたしは一人で下校していた。
南海は提出が遅れた宿題を出してくるらしくて、先に帰っててと言われた。
はぁ。今日も一日疲れたな~
「あれ、清花さんじゃん」
「一人なの珍しいね~」
え、、、
また、あの子たち?
い、嫌な予感がする。
無視したいところだけど、まだそんなに大きな嫌がらせはされてないからな、、、
ここは普段通り接しておくしかないか。
「南海が用事があってね」
「そっかぁ」
その瞬間足に何かが引っ掛かる。
体が前に倒れていく。
「痛っ!」
わたしは転んでしまった。
「あれれ〜?どうしたの?」
「いいざま!ふふっ」
「社長令嬢がはしたない!」
彼女たちはわたしを見て笑う。
ついに、本性をあらわした、、、?
「清花さん早く家に帰ったら?豪華な生活してるんでしょ?」
その言葉がわたしの心の深いところに刺さる。
聞きたくない言葉を聞いてしまった。
そう思うのに、無視する方法もわからなくて下を向くことしかできない。
そんなこと言われてもわたしはそんな生活、、、
「そ〜だよ。どうせ庶民の私たちのことバカにしてるんでしょ?」
そんなこと、してない。
息が苦しくなる。
もう、彼女たちの言葉を聞きたくない。
耳をふさぎたくなる。
もう、やめて、、、!
「あれ、あなたたちが菜紬といるの珍しいね」
顔を上げると、南海の姿。
「えっと、清花さんが転んでたから大丈夫かなーと思って声をかけたの!お大事にね!」
そういうと逃げるように去って行った。
彼女たちがいなくなった瞬間、思わず、南海にしがみつく。
「みなみぃ〜」
「大丈夫?怖かったよね」
南海に聞かれて、心配をかけるわけにはいかないと南海から離れる。
「あ、大丈夫!たいした怪我じゃなかったし!」
なんとか笑顔をつくる。
「よかった」
南海はほっとしたような表情を浮かべる。
その後、たわいのない話をしていたけれど、あの言葉が耳にこびりついて離れなかった。
家に着いて、自分の部屋に行ってドアを閉める。
自分だけの空間になって、やっと息をすることができた。
荷物を置く。
落ち着いた事で周りが見えるようになった。
机の上に何か紙がある、、、?
お姉ちゃんへ
今日からお姉ちゃんの部屋は外の倉庫だよ!
今日中に部屋のものを移動させてね。
お姉ちゃんってもの少ないから早く移動できるでしょ?
その部屋はわたしの物置になるから、よろしくね♡
かわいい、かわいい妹より
倉庫?
理解が追いつかない。
つまり、わたしにこの部屋を出ていって倉庫で生活しろと?
あいつ、頭おかしいんじゃないの?
こんなにかわいこぶってるけど裏の意味ではこうだ。
邪魔なお姉ちゃんへ
その部屋から出て行って。
倉庫で暮らしてわたしやお母さんたちの目にうつらないようにして!
お姉ちゃんのことを必要とする人なんて誰もいないんだから。
こんなもんだろう。
わたしが移動するしかないか。
あいつに逆らうといろいろ面倒だし。
ここは従っておくのが正解だ。
わたしは箱に物をつめていく。
美桜のいうとおりわたしの所有物は本当に少ない。
中学校のカバンと教科書、制服、スマホぐらいしかない。
忘れ物がないか確認する。
何もなくなった部屋を見て、やっぱりこの部屋広いな〜と感じる。
箱をかかえて部屋から出る。
最後にドアを閉めると心の中で何かが終わった気がした。
美桜はわたしをここから追い出したいというのが本心なんだろう。
そう思いながら倉庫への道を歩く。
「あ、手紙読んだの?さっさとどっか行ってくれる?」
途中で美桜とすれ違う。
こいつの裏の顔はこれだ。
他の人の前ではいい子を演じてるくせに。
みんな表の顔に騙される。
成績も良くて完璧で欠点なんて見当たらない。
だから、怖い。
そうしてたどり着いた倉庫。
狭いのは狭いけれど、綺麗なのがまだ救い。
なんでか知らないけど、ありがたいことに敷布団や小さな勉強机、スマホを充電するところもある。
意外と快適かもしれない。
片付けが一通り終わって立ち尽くす。
静かだな、、、
静かなのに、心がざわざわする。
思い出したくないのに。
目を閉じるとあの頃の景色が蘇る。
四人で囲んでいた食卓、笑い声。
「ねえ、見てみて!今日もテスト満点だったの!」
そう言って、テストを見せる美桜。
「美桜は本当にいい子ね。今日は熱中症の子を保健室まで連れて行ったんでしょ?先生から聞いたわ」
「そう!具合悪そうだったから」
「お、さすがだな。美桜は優秀だな」
隣でそんな会話が繰り広げられているけれど、わたしは出された豪華な食事を黙々と食べる。
お母さんとお父さんはいつも、仕事の話か美桜の話か。
それ以外を話しているのを聞いたことがない。
三人はいつも楽しそうに話して、笑っている。
わたしがその輪の中に入ることはなかった。
「菜紬は?今日、どうだったの?」
そんな声がかかることをわたしはずっと待っていた。
今日はもしかしたらって毎日少し期待してた。
だけど、そんなことはなかった。
「今日ね、ノートでいい評価もらったの」
頑張って話してみた日もあった。
でも、、、
「あら、そうなの。頑張ってね」
棒読みなお母さんの言葉。
「当たり前だろ。社長令嬢なんだから。うちの評価が下がらないようにしとけよ」
全く興味がないというようなお父さんの言葉。
返ってきた言葉は美桜に対する言葉とは似てもつかないものだった。
他にも、勇気を出して聞いてみた日もあった。
「お母さん、明日の授業参観、来てくれる?」
「ごめんね、美桜のほうを見に行くから行けないの」
「お姉ちゃんは一人でも大丈夫だもんね」
隣で美桜が笑っていた。
わたしはだんだんと広いテーブルの端の席で食事するようになった。
その場にいることも嫌になって、最近は自分の部屋で食べるようにしている。
もう、お母さんたちと話すこともあんまりないな。
それも全部あいつのせい。
「お母さん、わたしのバッグがないんだけど〜」
「あら、いつものとこにないの?」
「ないの。あ、お姉ちゃん?昨日、わたしの部屋に入るの見たんだけど、、、お姉ちゃん?」
「菜紬、人の部屋に勝手に入ったらだめよ!」
「菜紬、、、なんてことしてるんだ」
気づいたら、わたしのせいになってる。
「ち、違うっ!わたしじゃない!」
「菜紬以外にいないでしょ?」
否定しても、お母さんたちはわたしの言葉には耳もかさない。
結局、バッグは見つかったけれど、わたしは怒られた。
わたしはお母さんたちから”問題児”として見られるようになった。
そのうち、この家ではわたしは必要とされないんだなって思うようになった。
頬に手を当てると、ぬれていた。
あぁ、わたし、泣いてるんだな。
今まで、悲しいとか、思うことなかったのに。
こんな、わたしにどうして南海は優しくしてくれるんだろう。
入学初日。
知らない人ばかりの中学校。
小学校のときはみんながわたしのことを遠くからみてて、友達なんて一人もいなかった。
中学校でもそれは同じなんだろうって思ってた。
休憩時間。
ざわざわする教室。
よろしくね!という声が聞こえてくる。
わたしは言うことがないんだろうな。
よろしく、だなんて。
「ねえ、清花さん、だっけ?わたしと友達になってくれない?」
え?
一瞬、理解が追いつかなかった。
わたしと、友達になりたいって?
そんな人がいるわけ、、、ない。
と思うけど、目の前で目を輝かせている彼女を見たら、これが現実なんだってわかる。
「わたしでいいのなら、、、よろしくお願いします!」
わたしにもよろしくって言えるときがくるだなんて。
「よろしく!わたし、町田南海!」
彼女ー南海は元気よくそう言った。
悲しいのは、南海に出会って人の温かさを知ってしまったからかもしれない。
そう思ったら少し元気がでた。
南海、ほんとにありがとね。
次の日の朝。
ふぁー眠いな〜
学校で席に座りながら目をこする。
わたしは敷布団に慣れてないから、あんまり寝れなかった。
そのうち慣れると、思う。
「菜紬〜先生から呼び出し!」
「え?」
南海の一言で目が覚める。
わたし、なんかした、、、?
「職員室ね。なんか手伝ってほしいことあるって」
あ、お手伝い?
「わかった」
怒られなさそうでよかった。
職員室に行くと、先生にノートを配っておいてほしいと言われた。
教室に戻り、ノートをそれぞれの席に配る。
南海と話そうかな〜って思ったけど、他の人としゃべってるからいっか。
そんなことを思ってたけど、、、
帰り。
「南海〜帰ろ〜」
いつとのように南海に声をかけにいく。
「あ、今日は他の子と帰ることになっちゃって。ごめん」
その声はいつもと同じ明るさだったけれど、どこかよそよそしく感じた。
「全然いいよ。そしたら、わたし帰るね」
南海が他の子と帰るの珍しいな。
でも、そっか。
南海って元気だから友達すぐできそうだし。
あんまり、わたしは気に留めてはいなかった。
次の日、学校に行くと、机に何かが書いてあった。
消えろ、、、
文字を見た瞬間、心臓がちぢんだ気がした。
あの子たち、なの、、、?
そう思って、彼女たちの方を見る。
彼女たちはわたしを見てクスクスと笑っていた。
その声がさわがしい教室でもはっきりと聞こえる。
空気が冷たくなっていく。
わたしは彼女たちを見て言葉を失った。
なぜなら、、、
そのメンバーの中にはーー
親友であるはずの南海がいたからだった。
信じていた人に裏切られるなんて、、、
その光景を信じることができなくて、わたしは教室を飛び出した。
どこへ向かっているかなんて自分でもわからなかった。
ひたすらに教室から離れたい。
走って、走って、走ってーー
もうどれぐらい走ったかわからない。
ただ、涙は、ずっと止まらなかった。
「清花さ〜ん?どうしたの〜?ふっ」
どうしたらいいの、、、?
ある日、わたしは廊下の隅に追いやられていた。
「、、、もう、、、やめて、、、」
しぼりだした声はあまりにも小さくて、誰にも届かない。
彼女たちの高い笑い声だけが静かな廊下に響く。
「弱虫だね〜」
「社長令嬢がそんなんでいいの〜?」
耳をふさぎたいのに、手は冷たく動かない。
涙が頬つたっていく。
何もすることができず、立っている。
次第に立つ力もなくなり、床にへたりこむ。
しばらくすると、彼女たちは去っていった。
とぼとぼと力なく戻った教室。
そこでは、いつも通りの楽しそうな話し声や笑い声が広がっていた。
わたしだけ、一人ぼっちのようだった。
どうして、、、なの、、、?
心の中ではそんな言葉が響く。
そんなわたしの前を南海が通り過ぎる。
「み、南海、、、」
なぜか、声をかけてしまった。
まだ、南海に裏切られたことを信じきれていなかったのかもしれない。
お願いだから、こないだのは嘘だって言って、、、
「なに?わたしみたいな庶民に関わらない方がいいよ?」
その言葉は冷たかったけれど、言い方は少し温かった。
南海はわたしから一瞬だけ、目をそらした。
え?
わたしにはその理由がわからなかった。
直後何もなかったかのように、南海は微笑む。
でもその笑顔にはいつもの元気さはなく、どこか曇ってた影のあるものだった。
ー南海視点ー
菜紬の肩が小さく震えている。
その様子をわたしは遠くから見ていた。
その場でただ息をひそめる。
静かな廊下から聞こえるのは甲高い笑い声と蚊のなくような小さな小さな泣き声。
その光景がわたしの心に刺さって、じわじわと胸を締め付けていく。
ーー助けたい、、、
今すぐ、あいつらに菜紬をいじめるな、と言いたい。
ありがとうって、わたしを見て安心そうにしている菜紬が見たい。
でも、、、
この気持ちを声に出すことはできない。
わたしに今できるのは、見ていることだけ。
思わず、下唇をかむ。
「次は、、、必ず、、、」
わたしは心の中でそっとつぶやいた。
戻った教室では、菜紬がぼーっと立ち尽くしていた。
「み、南海、、、」
素通りしようとした、足が止まる。
話しかけられると、無視ということはわたしにはできない。
「なに?わたしみたいな庶民に関わらない方がいいよ?」
どうしても冷たい言葉になってしまう。
本当はこんなこと言いたくない、、、
わたしは菜紬が嫌いなわけじゃない。
むしろその逆なのに、、、
ごめんね。
いつもみたいに、優しい声を意識して、にこっと口角をあげる。
そう思ったけど、いつもの高さまであげることができなかった。
菜紬の顔を直視することができない。
今、菜紬を見てしまったらわたしの中の”何か”が崩れてしまうような気がしてーー
これ以上、菜紬といてはいけない。
わたしの心のどこかでそんな声が聞こえる。
わたしは菜紬とまともに話せないまま、逃げるように菜紬のそばを離れた。
ーーキーンコーンカーンコーンーー
今日の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
「ねえ、今日放課後遊ぼうよ〜!」
「え、いいね!!どこ行く!?」
隣の席に女子たちが集まって盛り上がっている。
その声は隣から聞こえるはずなのに、どこか遠くから聞こえる。
わたしにとってこのチャイムは地獄の始まりを告げるもの、、、
今日は何をされるんだろう、、、
そんなことを考えると背筋が寒くなる。
でも教室にずっといるわけにもいかなくて、重い足を引きずりながら、やっとの思いで廊下に出る。
ただでさえiPadが入っていて重いリュックが今日は特に重い。
昇降口まで何もなく辿り着いた。
あ、今日は何もない、、、?
そんな淡い期待があったけど、
わたしの靴箱には紙が置いてあった。
清花さんへ
今日の放課後、音楽室前の廊下に来てね
その下にはいじめっ子の一人の名前が添えてあった。
音楽室のほうは人気が少ない。
何かされても、誰にも助けてもらえない。
でも、行かないと明日どうなるのか、、、
わたしは覚悟を決めて行くことに決めた。
そうして、たどり着いた音楽室前。
「だれも、いない、、、?」
いや、正確には一人だけいた。
「なんで、ここにいるの、、、?」
南海が普段は行かない場所なのに、彼女がいた。
ひとりごとのような小さな声だったから南海に届いていないとは思う。
それでも答えを待ってしまった。
南海は無言のままわたしのほうを見ずともせずに去っていった。