テラーノベル
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こさめはその場から動けなかった。
頭の奥がぐちゃぐちゃだった。
火。
煙。
泣き声。
断片的な景色だけが浮かんでは消える。
でも、一番強く残るのは——。
すちの泣きそうな顔だった。
🦈「……なん、で」
やっと声を絞り出す。
🦈「気づいてたの……?」
すちは静かに目を伏せた。
🍵「最初は似てるだけだと思った」
🍵「笑い方も、泣き方も、誰か放っとけないとこも」
苦しそうに笑う。
🍵「でも、あまりにも同じで」
こさめは胸が苦しくなる。
すちは続けた。
🍵「左肩の傷、ほぼ確信した」
🦈「……っ」
🍵「俺が、つけた傷だから」
空気が止まる。
こさめの呼吸が浅くなる。
左肩をぎゅっと掴む。
昔からある、小さな傷。
理由も覚えていなかった傷。
それを——。
すちが。
🦈「……こさめ、に?」
🍵「火事の時」
すちは震える息を吐く。
🦈「崩れた木材から庇おうとして……」
そこで声が止まる。
言葉にするだけで苦しいのが分かった。
こさめは何も言えない。
怖い。
でも、不思議と逃げたいとは思わなかった。
すちは静かに鉄格子へ額を預ける。
🍵「……死んだと思ってた」
その声は壊れそうだった。
🍵「遺体、見つからなかったけど、あの火の中で子どもが生きてるわけないって」
こさめの胸がぎゅっと締まる。
だから、すちは。
自分を許さなかった。
ずっと。
🍵「……俺ね」
すちは目を閉じたまま呟く。
🍵「死刑が怖くなかった」
こさめは息を呑む。
🍵「だって、当然だと思ってたから」
諦めきった声。
🍵「でも、こさめくんが現れて」
そこで、ゆっくり目を開ける。
赤く滲んだ瞳。
🍵「……生きててほしいって言われて」
声が震える。
🍵「初めて、死にたくないって思っちゃった」
その言葉が、胸に突き刺さる。
こさめの目に涙が滲んだ。
この人は、ずっと罰を受け続けてきたんだ。
自分自身から。
🦈「……すっちーは」
自然と、昔の呼び方が零れる。
すちははっと顔を上げた。
こさめ自身も驚く。
でも、その名前はひどく自然だった。
🍵「……え」
🦈「ぁ……」
頭が痛い。
でも同時に、温かい記憶が少しだけ浮かぶ。
優しく頭を撫でる手。
「こさめちゃん、転ぶよ」
笑う声。
夕焼け。
全部ぼやけてるのに、ひとつだけ分かる。
——すちは、自分にとって大事な人だった。
涙がぽろりと零れた。
🦈「……思い出せないの」
悔しくて、苦しくて、声が震える。
🦈「でも、すっちーのこと、怖くないよ……」
その瞬間。
すちの表情が崩れた。
耐えきれなかったみたいに、顔を覆う。
肩が震えている。
泣いているんだと分かった。
🍵「……なんで」
🍵「なんで、そんなこと言えるの……」
こさめは鉄格子越しに、そっと手を伸ばした。
触れられない距離。
でも。
🦈「だって」
涙を拭いながら笑う。
🦈「こさめ、すちのこと好きだから」
コメント
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藍翠 瑠蒼さん、第15話読ませていただきました……! すちが「死んだと思ってた」って、あんなに壊れそうな声で言うところ、本当に胸が痛みました。ずっと自分を許せずに生きてきたんだなって。でも「生きててほしい」って言われて初めて死にたくないと思った――その言葉が、すちの苦しみの深さと、こさめに出会えたことの意味を同時に教えてくれて、じんときました。 最後の「こさめ、すちのこと好きだから」で、記憶は戻らなくても心は覚えてるんだなって……泣けました。素敵なエピソードをありがとうございます🌸