嫉妬心丸出しの大葉の愚行が恥ずかしくて、心の中で(大葉のバカぁぁぁ!)と恋人を罵った羽理だったけれど、ふと視線を転じた先。華南部長のすぐ横で、親友の法忍仁子がホッとしたように男性陣二人のやり取りを眺めているのを見て、案外大葉の行動は正解だったのかも? と思い直した。
「あのっ、あのっ。華南部長。俺も! 俺も握手してもらっていいですか?」
大葉と華南部長がグッと手を握り合っているのが羨ましかったんだろうか。
幻のしっぽをブンブン振りながら、五代懇乃介が華南部長に手を差し出して、部長が「ああ構わないよ」とその手をギュッと握り返した。
「わぁーっ、ちょっ、待っ。痛いっす、痛いっす! 部長、もっと力を緩めて下さい」
途端ギャーギャーわめく懇乃介に、仁子が楽しそうに笑うのを見て、羽理は大葉と二人、顔を見合わせて微笑み合った。
実は人混みを抜けてからすぐ、岳斗と杏子はコンビニに猫神様への貢物を買いに行ってくれていて、今ここには大葉、羽理、仁子、華南部長、懇乃介の五人しか残っていない。
「あのぉー、俺、さっきから気になってたんっすけど……」
状況がイマイチ呑み込めていない懇乃介が、スリスリと赤らんだ手をさすりながら、仲睦まじげに隣り合って立つ仁子と華南部長を見比べて小首を傾げた。
「お二人はお付き合いされているんですか?」
そうして、いきなり特大級の爆弾を投下するのだ。
懇乃介の言葉にビクッと肩を跳ねさせて、「お、おちゅきあぃ!?」と呂律が回らなくなった仁子に代わって、しっかりとした問い掛けを行ったのは意外にも華南部長だった。
「五代くん、な、んで、そう思ったの、かな?」
ドギマギとした口調はともかくとして、懇乃介に理由を尋ねながらも彼が仁子の方を気にしているのを見た羽理は、(あらあらあら♥)とニマニマする。
そんな羽理の横で、大葉が「えっ。あの二人、そうだったのか!?」と羽理に小声で問い掛けてきた。
そっと三人に背中を向けるようにして大葉の耳元へ唇を寄せると、「仁子がね、ずっと華南部長にアプローチしてたんですよ」と羽理が囁いたら、大葉が「へぇー、法忍さん、ああいうタイプが好みだったかぁー」と吐息を落とす。
「あ、それで……猫神探し!」
羽理と杏子が仁子に縁結びの御守の説明をしているのを補足しながら、大葉はてっきり『相手の定まらない仁子にもいい人が出来たらいいな?』くらいのつもりで女性陣が盛り上がっているのだと思っていた。
それで羽理たちに倣って、気になる相手へ御守の片割れを渡せと仁子へアドバイスしたのだが、まさかその相手がすでにロックオンされているとは思いもしなかった。
「ふぅーん、なるほどなぁ」
妙に納得してしみじみとつぶやいた大葉の背後で、まだ何も分かっていないはずなのに何故かやたら核心を突きまくっている五代懇乃介が、「なんでって……今日もお二人で一緒にジムへ行かれた帰りなんでしょう? で、ここでこっそりお祭りデートの待ち合わせをしてらしたのに、なんにも知らない俺たちが邪魔しちゃったもんだから実は戸惑っていらっしゃる。そうでしょう?」と更なる追い打ちをかけている。
そんな懇乃介の足元に、いつの間にきたのだろうか?
羽理たちのお目当てなふくふく三毛猫がスリスリと擦り寄っているのだが、みんな各々の会話に夢中で気が付けない。
そんな中、猫は懇乃介、仁子、華南部長の周りを、まるで円陣でも描くようにぐるぐると回り始めた。
「あ、いや……ジムで一緒だったのは確かだが……別に待ち合わせをしていたわけじゃなく……」
ゴニョゴニョと語尾が尻すぼみになっていく華南部長に、「確かに待ち合わせはしてなかったですけど、私……ちょっとだけ謹也さんにお会いできるかな? とか期待しちゃってました」と仁子が頬を染めてソワソワする。
実は仁子が押せ押せな発言をしている間中、まるでそれを後押しするみたいに仁子の足にふくふくニャンコのワガママボディが擦り寄せられていたのだが、好きな相手しか見えていない仁子の五感は、ただひたすらに華南部長へと注がれていて気付いていない。
「えっ、ちょっ、仁子さん」
そんな仁子の言葉に釣られたように仁子の名を呼んでブワリと赤くなる華南部長を見て、懇乃介が二人を交互に見つめながら言うのだ。
「どう見てもお二人、両想いじゃないっすか。もう、四の五の言わずに付き合っちゃえばいいんですよ」
懇乃介がそう言った瞬間、三人の真ん中にちょこんと座った三毛猫の目がキラリと光ったのが、三人のやり取りをただただ見守るしか出来なかった羽理と大葉にはハッキリと見えた。
それと同時――。
「お待ち遠さまぁ~。猫ちゃん用の焼きカツオのパウチ、買ってきましたぁ~」
「ついでに冷たい飲み物も買ってきたんで、あっちの日陰で飲みませんか?」
ホワンとした声音で、何も知らない美住杏子と倍相岳斗が五人+一匹に、のほほんと声をかけた。
コメント
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こんのすけ、鋭い!