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2日後…
太齋さんのお店に足を運んで
昨日のことについて談笑していた。
スイーツを運んできたついでに
昨日のことについて談笑していたとき
太齋さんがふと思い出したように
「あ、そうだ。昨日石田さんから連絡があったんだけど、よかったらスイーツ好きな友人を一人連れてきてもいいですよってことだったんだよね」
と嬉しそうに、続けた。
「それで、その当日、ひろくんを付き添いにお願いしたいんだけど、どう?」
「い、良いんですか?僕なんかで……」
「もちろん、むしろ身内でひろくんほど俺のチョコレート好いてくれてる子いないし。」
太齋さんにそこまで言ってもらえるのが嬉しくて、僕は二つ返事で了承した。
そしてパーティ当日がやってきた────。
僕は会場である高級ホテルの前にいた。
「す……凄い……!」
思わずそう声が漏れてしまうほどには立派な建物だった。
車で一緒に会場についた太齋さんはというと
「じゃあ、行こっか。ってひろくん大丈夫…?」
と、いつも緊張しがちの僕を心配してくれた。
「だ……大丈夫です!」
太齋さんは洗練された大人の雰囲気を感じさせるフォーマルなスタイルを身にまとって
チェック柄のグレーのスーツジャケットがメインで、インナーには白いシャツ
その上に黒いベストを重ねており、全体のコーディネートに深みを与えている。
シャツのボタンは首元までしっかり留められており、タイを省いたスタイリッシュな印象
シンプルながらもエレガントな装い
我が幼馴染ながら、そのカッコ良さに
とても見蕩れてしまう…
そう言う僕も、普段とは違い
太齋さんに髪を少し
オシャレに巻いてもらったのだ。
それだけでもいつもと印象が180度違うような気がして、少し浮かれていた。
僕はそんな太齋さんの後をついて行くように会場に入っていった。
そしてホールに入ると
そこには煌びやかに輝くシャンデリア
ドレスコードやスーツを身にまとった人達が大勢いた。
辺りを見渡すとテレビで見た事のあるショコラティエやパティシエの人達も何人かいて
思わず見惚れてしまった。
「す、凄い……!こんなの初めて見ました……!」
太齋さんに聞こえるぐらいの声量でそう口にした。
僕が目を輝かせて辺りを見回していると、その様子が可笑しかったのか太齋さんはクスクスと笑う。
「ほんとひろくんって可愛いね」
その言葉に僕は思わず、はしゃいでしまったことが恥ずかしくて、赤面しそうになった。
そんなやり取りをしていると、太齋さんがなにか見つけたように、僕に話しかける。
「あ、そうだ。石田さんに挨拶しに行こうと思うんだけど、いい?」
「は……はい!」
そう返事をすると、僕達はその方向に歩いて行った。
多くの人が石田さん目当てで来ているのか
彼の周りには人だかりが出来ていて
とても近づける雰囲気ではなかった。
そんなとき、丁度石田さんがこちらに気付いてくれた。
「お待ちしていましたよ。おや、太齋さん、そちらの方は……?」
「ああ、私のショコラトリーの常連で、友人です。」
太齋さんがそう答えると石田さんは少し驚いた様子で言う。
「太齋さんの……常連さんですか。それは光栄ですね。初めまして、私は石田淳士と申します、今日のパーティー、ぜひ寛いでいかれてください」
そう言って丁寧にお辞儀をしてくれるその男性に僕も頭を下げた。
そんなやり取りをした後、石田さんは僕達にパーティを楽しむように言ってその場を後にした。
そしてその後すぐに、太齋さんの元には多くのショコラティエやパティシエが押し寄せてきた。
「あ!あの!石田淳士さんからご紹介していただいたのですが……」
と口々に言う女性陣に対して太齋さんは笑顔で対応していた。
太齋さんが戦場と言っていたのはコレでもあるのかもしれない。
目をハートにした女性たちがあれやこれやと太齋さんを褒めちぎり、お近付きになりたいと連絡先を聞いている。
「あ、あの、太齋さん……」
僕が声をかけると、太齋さんは笑顔で言った。
「ひろくん、スイーツあるから自由に食べててくれる?すぐ戻るからさ、ごめんね」
とだけ言うと再び女性陣の対応に戻って、1階からでも様子が伺える2階の方へと上がって行った。
店や街で連絡先の交換を求められたなら
太齋さんは断ってくれる。
でも今回は社交界であり仕事の場
僕はそのやり取りをただ見ていることしか出来なかったが、大人しく太齋さんの言う通り
壁際に白いテーブルクロスの上に
ショートケーキ、ロールケーキ、シフォンケーキ
フォンダンショコラ、ザッハトルテ
という見慣れたスイーツの他にも
アップルパイ、ミルフィーユなど
間を挟むようにケーキスタンドに
マカロンやマドレーヌ、タルトが陳列されていた
ご自由にお召し上がり下さいという張り紙もあり、
どれから食べようかと迷っていると
そんな僕を見かねてか
一人のショコラティエが話しかけてきたのだ。
「君、もしかして太齋さんのお友達かい?」
そう僕に聞いてきたのは、黒髪で長身の男性だった。
年齢は30代前半くらいだろうか。
「あ、えっと……そうです。僕は太齋さんのお店の常連に3年ぐらい通ってて…」
そう答えると、その男性はニコリと微笑んで言った。
「それならこの機会に是非仲良くなりたいな。私は佐伯トオルと言うんだ」
その名前を聞いて驚いた。
最近雑誌で引っ張りだこのパティシエの一人だったからだ。
「し、知ってます!スイーツ雑誌の特集でも見ましたし、SNSでもよく紹介されてるので……!」
「それは嬉しいね。…にしても3年はすごい、やっぱり、通いつめてしまうぐらいに美味しいのかい?」
「はい、それはもちろん…!…実を言えば学生の頃からファンなんですけどね」
僕がそう言うと、佐伯トオルさんは驚いたように言う。
「おや、太齋さんと同じ学校だったのかい?それは知らなかったな」
「はい、年は4歳ぐらい離れてましたけど家が近所でよく遊んでたんです…!」
「そのときによくお菓子とか作って渡してくれて、その当時から太齋さんのチョコレートには魅了されてて…今は完全に太齋さんの虜になっちゃってますね、えへへ」
僕がそう言うと佐伯さんは、少し驚いた様子で言った。
「虜か……それはいい表現だ。君、特に好きなスイーツはあるかい?」
「えっと…ガトーショコラと生チョコ、モンブラン、ティラミス、あとマドレーヌなんかも好きです!」
「ってすみません、まとまりが無くて…」
「ふふ、良い事だよ」
「しかしそれなら、是非うちの店に食べに来て欲しいな。うちの名物はティラミスとマドレーヌなんでね」
「丁度、そこのケーキスタンドに並んでるマドレーヌがうちのなんだけど、一口どうかな?」
「え、いいんですか?」
「もちろん、置いてあるものは自由に食べていいものだから遠慮せずに。それに美味しいものは共有したくなるだろう?」
そう言って佐伯さんがプレーンなマドレーヌを近くの小皿に移して、同時にフォークを差し出してくれた。
「あ、ありがとうございます…!いただきます…」
僕はそれを受け取って口に運ぶと
バターとたまごの香りがふわっと鼻に抜けていき
口いっぱいに広がるバターの風味
甘すぎない味は絶品で思わず顔がほころんだ。
「お、おいしい…!舌触りも滑らかで、甘すぎなくて丁度いい感じで、これならいくらでも食べちゃいたいぐらいですね」
そう言うと佐伯さんも嬉しそうに口元を手で隠して笑った。
「はは、そう言ってもらえると嬉しいな。気に入ったなら、無料でお持ち帰りにしてあげるよ」
「え!?ほ……ほんとですか?」
思わず佐伯さんに詰め寄ってしまった。
そんな僕の反応が可笑しかったのか佐伯さんもクスクスと笑う。
僕は佐伯さんとスイーツやショコラティエの話で盛り上がった後
佐伯さんとの会話ですっかり打ち解けた僕だったが、そんなとき
太齋さんが僕の姿を見つけて声をかけてきた。
「ひろくん、こんなところにいたんだ。」
「あ!太齋さん……!つい夢中になってて……」
「いいよ、俺も良い話が出来たからね。…トオルさん、でしたよね?初めまして、私、太齋敦と申します」
そう太齋さんが言うと佐伯さんがにこやかに答えた。
「これはご丁寧にどうも、太齋さんのことは存じ上げていますよ。今波に乗っているショコラティエの一人ですから」
太齋さんと佐伯さんが自己紹介を交わしていたとき、会場の一角から聞こえてきたのは、明らかに挑発的な声だった。
「あらぁ?あなたは太齋さんじゃないですか。こんな場に出てくるなんて、驚きです」
振り向くと、そこには派手な紫のドレスコードを身にまとった女性が立っていた。
彼女は手にグラスを持ち、余裕たっぷりの笑みを浮かべている。
『この人は……?』
僕が小声で尋ねると、佐伯さんが少し顔をしかめて答えた。
『花園カレンだよ。業界でもクセが強い女性として有名だ。実力は確かだけど、競争心が強くて、特に最近名の挙がっている太齋さんには何かと敵対心を抱いてるんだろうね』
その言葉通り、花園さんは挑発的な態度で話を続けた。
「貴方の店、最近人気みたいだけど、あまりに調子に乗らない事ね、3年店が続いている分際で」
場の空気が一瞬で張り詰める。
「認知されているとは光栄です。ご忠告、心に留めておきますね。」
太齋さんが静かに返すと、花園さんの表情がわずかに歪んだ。
「なによそれ…だったらここで一つ、腕を競うのはどうかしら?会場にいるショコラティエたちに審査して貰って、どちらが上か決めようじゃないの!」
その提案に、周囲が一斉にざわついた。
どうやらこの場で即興の勝負をしようというのだ。
『太齋さん、どうします?』
僕が心配そうに尋ねると、彼は少し考え込んだ後で、にこりと笑った。
『元々ここはそういうコンテストでも使われるし、競い合いの場だから。これでも花園さんのことは知ってる…ショコラティエとしての腕は確かだし、勝てるとは思ってないけど…』
太齋さんは続けて言った。
『俺のチョコを振る舞える絶好のチャンスだよ』
その言葉を信じて、僕は太齋さんの勝利を願った。
30分後
即席で始まった勝負は、会場の注目を集めた。
厨房真ん中のキッチンを使い
太齋さんは全力でチョコレートデザートを仕上げていく。
そして、ついに完成したのは、2層になったガトーショコラ。
上には太齋さんの作ったバラを模した繊細なチョコレート細工が飾られ、横には滑らかなチョコムースが添えられている。
「どうぞ、お召し上がりください」
一方、大河さんの作品も完成したようで、彼女は自信満々の様子だ。
「さあ、審査員の皆さん、どちらが優れているか判断してください!」
審査員たちは慎重に両方の作品を味わい、コメントを交わした後、ついに点数結果が発表された。
「今回の勝者は、二点差で太齋敦さんの勝利です!」
その瞬間、会場に拍手が鳴り響く。
僕は信じられない気持ちで太齋さんを見ると
彼は喜びを瞼に浮かべていた。
一方、大河さんは悔しそうに唇を噛んでいたが、やがて肩をすくめて立ち去った。
────────────……
───しばらくして…
佐伯さんと僕の元に戻ってきた太齋さん
太齋さんは、勝利の余韻に浸りながらも、どこか疲れた様子だった。
「お疲れ様、太齋さん。すごいですね、短時間であんなに素晴らしい作品を作れて、会場の胃袋も掴んでしまうなんて…」
僕がそう言うと、太齋さんは苦笑いを浮かべた。
「ひろくんが応援してくれてると思ったらいつも以上に集中できたよ。ありがとね」
そう言われて、僕は照れくさくなった。
「そんな、大げさですよ…」
「いやいや、本当に感謝してる。おかげで、また一つ自信になったし」
太齋さんはそう言うと、僕の方へ手を差し出してきたので、僕はその手を握り返した。
「ちょっと、ふたりの世界入ってない?私もいるんだけどなぁ…」
「あっ、すみません!そんなつもりじゃなかったんですけど」
「ふふ、冗談さ。それよりひろくん、マドレーヌ、ココアと抹茶とイチゴ味があるけれど、全部持っていくならお持ち帰りの箱に詰めてあげるよ?」
「えっいいんですか…ぜひ!!」
僕が喜んで佐伯さんにそう言うと、後ろから太齋さんに体を引き寄せられて言われた。
「こらこらひろ、トオルさんにあんま甘えないようにね。すみませんねトオルさん、《《うちのひろ》》が」
「えっ、だ、太齋さん……?」
明らかにバチバチしているのが分かる。
太齋さんが僕のことを「ひろ」と呼び捨てにするなんて、滅多にない。
その呼び方をするときは大抵
機嫌が悪い────。
…その夜、会場を後にして
太齋さんの|車《助手席》に座った。
ハンドルを握る太齋さんの横顔は
会場に来たときの表情とはまるで違って
ふと、太齋さんが口を開く。
「トオルさんとずいぶん仲良くなったみたいだね?」
「えっ?えぇ……まぁそれなりには」
僕が返すと、太齋さんは静かな低音で訊いてくる。
「…あの人のこと、そんなに気に入った?」
「えっと、はい、マドレーヌも美味しかったですし…紳士でしたけど…あ、あの…太齋さん?なんか……怒ってます?」
「んー?別に。ひろくんが他の男と笑ってんの見てんのは面白くなかったけどさ」
や、やっぱり怒ってる……!
「そ、そんな、普通ですって!ね?」
「でもちゃっかり餌付けされてたよね」
「え、餌付けって、言い方…っ!」
「え、?だからあのとき…トオルさんの前で呼び捨てでうちのひろが、とか言ったんですか!?」
「それ以外ないでしょ」
不機嫌そうに言い放って、ハンドルを握る太齋さん
さっきまで大人らしい振る舞いで紳士に微笑んでいたのに
僕が他の人と話していただけで、こんなに拗ねてしまうなんて
「ふふふっ…」
思わず口角が上がって、笑みが溢れた。
「ちょ、ひろくん?何笑ってんの?」
「いや、なんか太齋さん…かわいいなと思って……」
「……かわいいって…それ普通嫉妬してる彼氏に言う?」
「だって、いつも大人っぽいのに、そんな子供みたいなこと言うから…僕は日頃からしてるとこありますけど、ヤキモチ妬いちゃうの僕だけじゃないんだって、おもしろくて」
語尾に軽くふふっと笑いが着いたままそう言うと
「え、ひろくん日頃から俺に嫉妬、してくれてんの…?」
「え?いや、違っ、そういう意味じゃないです!今のは、たまにしちゃうって意味で…!!」
「ふーん…どんなとき、しちゃったの?」
「いや、言いませんけど??」
「えー、どうしても?」
「言いませんったら言いません!」
「そっかそっか~…」
「今日はご褒美に、さっき会場で出した俺の新作のチョコプリン食べさせてあげようと思ったけど、やっぱやめよっかなー」
「えっ?!」
「ふっ、食いついた」
「…そ、それって、まだ店に出てないやつですよね…?」
「そ、食べてみたいでしょ?なら教えてよ」
「ぐ……っ、なんて卑怯な…いや、で、でも!ちょっと我慢すればいい話ですし?」
「それに駅前に着くまでの辛抱…」
「いやひろくん、もう今日このままホテル直行だけど?」
「は?!え?な、なんで…!」
「なんでって、ガソリン足んないし、足してから駅向かうより楽でしょ」
そうこう言っているうちに車はホテル街の駐車場に止められた。
車から降りると、目の前にはピンクで光り輝くビル聳え立っていた。
(…「Still」って書かれてるけど…完全にラブホだ)
隣にいる太齋さんに「え、ここラブホ…」って様子伺う風に聞けば
「シなきゃどこも変わんないって」って語尾に|星マーク《☆》でも付きそうなぐらい
爽快に言って僕の手を引かれ
半ば強引にホテルに連れていかれた──。
受付を済ませて案内された部屋に入れば、すぐに太齋さんが
「疲れたねー」
と言ってスーツを脱ぎ始めた。
太齋さんも疲れてるんだろうな、と思って
僕は上のコートを脱いでハンガーにかけると
太齋さんよりも先に
ふたつあるうち、右側のふかふかとしたベッドに体を沈みこませた。
すると急に「ねえ、ひろくん」と言われ、ハッとして体勢を治す。
ベッドに座った状態で声のする方に視線を向けると、上のスーツをベッドにだらしなく脱ぎ捨てて
ネクタイを緩める太齋さんがいて。
「さっきの続き、聞かせてもらおっかな?」
「さっきの続きって……」
『え、ひろくん日頃から俺に嫉妬、してくれてんの…?』
『…どんなとき、しちゃったの?』
───なんて太齋さんの言葉が脳内で蘇った。
思わず口を押さえると
「言えたら新作のプリン、2つ食べさせてあげてもいいよ?」
「ふ、2つも……!」
「ほら、どーすんの?」
「こ、これもスイーツのためですから……絶っ対に笑わないって約束してくれるなら、話してもいいです…!」
「ふふ、笑わないって」
もう笑ってると言いたいところを我慢して
こっちを見てニヤニヤとしてからかう気満々の太齋さんから視線を逸らして、口を開いた。
「太齋さんって、お店でも女性人気高いじゃないですか」
「ま、顔だけはいいからね、俺」
「まあ、だから…妬くときってのはよくあるわけで…」
太齋さんの方をちらちら見ながら言うと
「じゃあ今日もしちゃったんだ?」なんて意地悪く聞いてくるから
そっぽ向いて「仕事だっての分かってるのに、親しくしてるの見るだけで、胸が痛くなる…っていうか」
「へえ…俺が女の子とベタベタしてたら我慢できなくなっちゃうんだ」
「ま、またそうやって、分かってるくせに意地悪なこと言う…」
「太齋さんと付き合ってからやばいんですよ、ほんと」
「やばいって…?」
一口本音を言ってしまえば、簡単に言葉が出るようになって言わなくていいことまで溢れ出てしまう。
「独り占めしたく、なる…んです。なんだか、僕のことだけ考えてくれたらいいのにって…」
太齋さんはまるで鳩が豆鉄砲でも食らったかのように固まった。
「…って、違くて…!これは」
なにかまずいこと言っちゃった…?!と思って慌てて否定するも、言葉を重ねられた。
「…っ、ひろくん、それはやばいな」
「えっ、僕そんなに変なこと…」
考える暇もなく、気付くとベッドに押し倒されていた。
「ちょ、だ、太齋さん!」
「ひろくんのせいでしたくなってきたんだけど」
天井を向けばそこには太齋さんの顔が間近にあって
僕が混乱する中、太齋さんは緩めたネクタイを外す。
「え……?いや、あの、ちょっと?!」
「だってひろくんが可愛いこというのが悪い」
「か、可愛くなんか……っ!」
「ほら、そういうとこが可愛いんだって」
「太齋さんはそうやってすぐ子供扱いして……」
「ふふ、じゃあ今から大人扱いしてあげよっか?」
「……っ!」
「ははっ、嘘だって。」
「か、からかわないで下さいよ…」
「本番はまだしないけど…その代わり、今日はひろくんが俺に触る練習してみるのはどう?」
「え?僕が太齋さんに…?」
「そう。どうせ本番はお互いの体触るんだし、性的接触?て言うのしておくのが大事かなと思ってね」
「そ、それは……そうかもしれないですけど…」
そう言われ、太齋さんの下の方に目を向けると
ソレはズボン越しからでもわかるほどに大きくなっていた。
太齋さんは僕の視線に気付くと、ふっと笑って言った。
「別に今日はそこお願いするつもりなかったんだけど、まさかしてくれるの?」
その余裕な表情は、いつも僕をからかって楽しんでる時の表情で。
「い、いや!し、しませんけど……!!」
慌てて否定すると
「普通にさ、まずは簡単なことからしよ」
僕に向かって手のひらを見せてきた。
「ひろくん、手出して」と言われ
僕は言われるがままに手のひらを出す。
「それで、こーすんの」
言いながら指と指の間を広げて
「ほら、ひろくんから握って」
「こ……こうですか?」
僕が恐る恐る太齋さんの指の間に自分の指を絡めて握り返せば
今度は太齋さんがぎゅっと強く握り返してきた。
「そうそう、上手。これだけでもなんか安心しない?」
「そう言われてみれば、確かに…」
「じゃあ次は……」
太齋さんはそう言って今度は僕から手を離し
両腕をこちらに突き出しながら左右に広げた。
「ひろくんからハグしてほしいな」
(は、ハグなんてしたら…ドキドキしすぎてやばいんだけど…っ?)
「ほら早く、俺が待ちくたびれちゃう」
「うぅ……わ、分かりましたよ……」
恐る恐る太齋さんの胸に体を預ける。
太齋さんの方のベッドに2人揃って寝転がる。
そしてゆっくりと背中に腕を回すと
太齋さんは片手で僕の背中に手を回し
もう片方の手で僕の頭を優しく撫でた。
「どう?安心するでしょ?」
「すごく……」
僕は恥ずかしさで、太齋さんの胸に顔を埋めて隠す。
「ひろくんってハグ好きでしょ」
「え?…そりゃあ、太齋さんとハグするのは、ぽかぽかして好き…です」
「ははっ、なにそれ。照れるんだけど」
「とか言って全然照れてないのも余裕すぎてムカつきます…っ」
「えー、俺の心臓の音聞いてもそう言える?」
そう言って、太齋さんに自分の手を胸の位置まで持って行かれると
少しバクバクとしているのが伝わってきた。
「え、太齋さんも緊張とかするんですね…?」
「当たり前でしょ、好きな子とハグしてんだよー?」
「だって太齋さんって女性慣れしてるし、百戦錬磨の男って感じじゃないですか」
「そんなに?まぁ今俺が抱きしめてるのはカワイイ恋人だからね」
「かわいい、恋人…っ」
「そう、俺だけの可愛い恋人」
耳元で囁かれて、体がびくりと跳ねた。
「ほんと、耳弱いね」
「だ、だって……耳元で囁かれるの、くすぐったい……」
太齋さんは僕の耳から唇を離して、また僕に甘い声で言う。
「じゃ、最後にひろくんからキスして」
「へ?」
「ほら、練習だよ?ひろくんからキスしてくれたら俺としては一番嬉しいんだけどな」
「……っ」
僕は言われた通りに体を密着させたまま
太齋さんの唇にちゅっと軽く触れるぐらいのキスをする。
離そうとすると
「だめ、もういっかい」
と、僕が逃げないように
後頭部を押さえて言われて
太齋さんの首に腕を回して、また唇を重ねた。
今度はさっきよりも長く、そして何度も角度を変えて唇を重ねる。
「ん……っ」
つい声を漏らすと
太齋さんは僕の下唇を甘噛みしてきたり
舌でぺろりと舐めてきて。
僕はそれに反応して体がぴくりと跳ねる。
「ひろくん、口開けて」と言われ
素直に口を開けると、太齋さんの舌がぬるりと入ってきて、僕の舌に絡みついてくる。
「んぅ……っ」と声が漏れる。
(な、なんかこれ……変な気分になりそう……)
「舌出して?」と言われ従えば
舌をじゅっと吸い上げられ、絡め取られる。
「んっ、ぁ……?!」
舌がじんじんして、まるで唇が性感帯になったかのような感じになる。
(あ……やばい、これ気持ちよすぎる……っ)
太齋さんが唇を離したときには、僕はもう完全に蕩けた表情になっていた。
「はぁ……っ、はぁ……」
「…大丈夫?」
「……だ、だいじょぶです…前よりは、慣れてきた気がするので…」
そう言うと、そのまま僕を抱きしめて頭を撫でてくる太齋さん。
「まぁこれから先はまた追々ってことで」
「は、はい……っ」
太齋さんの胸に顔を埋めて、僕は小さく返事をした。