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「はい、仁人あ〜ん」
「ん!めっちゃうまい!」
「だろ?これ、限定のやつ。仁人が喜ぶと思って、めっちゃ並んだんだよ。」
「いやマジでありがと。ちょうどプリン食べたいと思ってたからさ。」
「仁人プリン好きだもんね〜」
(…………)
さっきから隣が気になって仕方ない。
二人部屋に文句をつけたからには、相手のプライバシーも尊重したいと思い、左隣から背を向け、意識して瞼を閉じていたのだが。
「ふふっんっほほっ」
「なんだよ。キモい笑い方すんな」
「いや〜、ちょびちょび食べてる仁人可愛いなあと思って」
「…、っ!……おまっ、、っとにさ」
「え〜?ツンツンすんなって」
こんな状況で寝られるわけがない。というか、彼が病室に入ってきてから一気に空気が変わったんだ。妙に緊張するような、しないような。
それは彼の非の打ち所がない容姿が関係しているのだろうか。
音を立てないようにそーっと寝返りを打ち、吉田君と和気あいあいと談笑している彼をまじまじと観察する。
骨格がはっきりとした男らしい輪郭。ほんの少しだけ丸みを帯びた力強い鼻筋。僅かに非対称にも見える、絶妙な分厚さの唇。
黒髪のオールバックがよく映えるその風貌は、まさしく
“男前”と形容するのがふさわしい。
そんなことをつらつらと考えていたせいだろう。
彼の顔がこちらに傾いたことに気づくのが遅れた。
「あ。」
彼としっかりと目が合う。
自分の顔に何かついているのか疑問に思うかのように、彼はぽかんと首を傾げている。
まずい。じろじろ見すぎた。
今すぐ目を逸らさなければいけないのに、まだ視線は絡んだまま。
すると、彼は何かを閃いたようにぱっと表情を変え、紙袋を持って突然ベッドサイドまで距離を詰めてきた。
『これ、いります?』
「え?」
ガサゴソと紙袋の中から小さな瓶を取り出し、半強制的に受け取らせてくる。
「えっ、ちょっ」
『高級プリンです。多く買いすぎちゃったんで、ぜひ!』
曇りのない瞳を向けられる。
気持ちはとても嬉しいけど、受け取るわけにはいかない。
というか、隣のベッドの患者にお見舞いをよこす奴なんて見たことないし…
「いやっ、も、申し訳ないから…
ッほら、残りは吉田君に食べさせてあげてください、」
『寝ちゃったんですよ、仁人』
「え、」
再度左隣を見ると、スウスウと静かに寝息を立てながらいつの間にか吉田君は首をコテンとさせて眠っていた。
「あ…」
彼の方を振り返る。
その反応を楽しむかのように、左側だけ口角をあげ、ニヤリと笑っていた。
『だから、残りは俺ら二人でたべましょ、ね?』
―――――――――――――――――――――――――――
無言の時間が続く。
出会ったばかりの人間と二人でプリンをつついている不思議な空間。
この何とも言えない空気を断ち切ったのは彼だった。
『そういや、俺名乗ってなかったっすね』
「え?ああ、、そっか」
『勇斗っていいます。佐野勇斗。』
覚えてくださいね、と彼は微笑した。
改めてしっかりと名前を認識した。
佐野勇斗くん。人の名前を覚えるのが苦手な俺でも、多分忘れないだろう。なんだかぱっと思い出しやすい名前だなあと思った。
『お兄さんはさ、なんで入院してるんですか』
プリンに目を落としたまま勇斗君が聞いてくる。
「ああ…えっとねえ」
ついさっきも吉田君に同じことを聞かれたな。
正直、過労で倒れた、なんて言うのは少し恥ずかしい。
弱い自分を一気に確立してしまう言葉のように感じるから。
でも、勇斗君を前にすると何故か何でも話してしまう。
「実は…」
ぽつりぽつりと俺が話し出すと、勇斗君は目を見て聞いてくれた。
勇斗君は聞き上手だとつくづく思う。
話の途中の心地よい相槌や程よい反応が、話しベタの俺にとってはありがたい。
『そうだったんですね……』
話し終えて、勇斗君はそれ以外は何も言わないけど、勝手に気が軽くなったように感じる。
俺の話を自分のことであるかのように聞いてくれる勇斗君の話も聞きたいと思った。
「勇斗君は、吉田君と仲がいいんだね。」
俺がそう呟くと、彼はなんでかちょっとびっくりしてからぱっと笑顔になった。
『あ、そうなんすよ、めっちゃ、仲、いいですっ』
なんだか声色がワントーン上がったような?
そんな俺の表情に気づいたのか、少し照れくさそうに勇斗君は続けた。
『いや、俺実は……
今ちょっと踏み込みすぎたかな、とか、今の返しで合ってたかな、とか、会話の度に思っちゃうんです。
俺の周りの人は、あんま信じてくれないけど……』
ボソボソと話し始める勇斗君。
そうだったのか。
てっきり俺も、勇斗君は話し上手、聞き上手で誰もが憧れる完璧な人間だと思っていた。
でも、本当に真面目な人なんだなあ、勇斗君は。
彼がこんなにも言葉を選んで話しているなんて、思いもしなかった。
『だから、お兄さんから話振ってくれて今すごい安心したし、嬉しいです!』
勇斗君はニヒヒと笑った。
「俺も、勇斗君が話しかけてくれたの、なんかすごい嬉しかった。ありがとう」
自分がこんなこと人に言うなんて。なんからしくないな。
『え〜?マジすか。なんか照れるなー
あっ、さっき話したことは、仁人には内緒で!』
「笑分かった」
勇斗君は一瞬吉田君の方を振り返ってから、人差し指を唇の前で立て、おどけて笑った。
思わず自分も笑みが溢れる。
誰かと親しく話すのはこんなにも楽しいものだったのかと今更気付かされた。
勇斗君とは10歳以上も離れているけど、対等に喋れてる感じがする。
「…そういえば、」
『?』
「勇斗君は、吉田君の高校の同級生?同級生にしても、すごく仲いいなと思って……幼なじみとか?」
小田先生が、吉田君は高校の同級生がお見舞いに来ると言っていたことをふと思い出した。
本当に、軽い気持ちで聞いたつもり。
でも、なかなか彼から言葉が帰ってこない。
もう終わりかけのプリンを口に運びながらちらっと勇斗君の横顔を見る。
でも、彼の顔をみて何も言えなくなった。
彼は、溢れだしそうな何かを静かに取り繕うような、寂しいような笑顔を浮かべていた。
勇斗君とは日が暮れるまで話したけど、見たことのない彼が、そこにいた。
『まあ、そんなところです』
そう言って勇斗君は眠りこけている吉田君を見つめた。
穏やかな優しい目。でも、うら寂しさを帯びた、夕日に染まった彼の表情があった。
(………ああ…、)
俺は気づいてしまった。
きっと勇斗君は、____
吉田君のことが好きなんだ
コメント
2件
最高ですほんとに👍続き待ってます