テラーノベル
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時間が経つのは早いもので、俺が入院してからもう1週間が経った。
最初は慣れなかった入院生活も、2、3日で随分と慣れたものだ。
今となってはここが俺の居場所のようにも感じるくらいに。
―そして、あの日から勇斗君は毎日お見舞いに来る。
1週間前、勇斗君は吉田君が目覚めるまでベッドサイドでずっと吉田君を見つめていたけど、彼の眠りが思いの外深かったので、根負けして帰っていったのだ。
病室のドアに手をかけた瞬間、勇斗君はこちらを振り返り、
『仁人と仲良くしてやってくださいね!』
と言い放ち、無邪気な笑顔でこちらに軽く手を振った。
「あっ、も、もちろん!気をつけて帰って、、」
俺がそう返すと、じゃあまた、と言い残してスタスタと帰っていった。
そんな日から1週間も経った今でも忘れられない、彼の吉田君に向ける眼差しが未だ脳裏に焼き付いている。
たった一瞬の表情だったけど、勇斗君が吉田君に抱く感情を語るには十分すぎた。
だって、今この瞬間だってほら。
「今日はねえ、仁人にプレゼント用意してきたから。」
「えっなんで?嬉しいけど」
「見せるまで目ぇ瞑ってろよー」
今日も左隣からいつもの会話が聞こえてくる。
もはや俺の寝たふりをする、なんて思考はこの7日間でどこかへ言ってしまったので、思いっ切り耳を澄ませて聞いてしまう。
「目開けていーよ」
「ん、、…わあっ!えっすごっ!!勇斗が作ったの…!?」
吉田君らしからぬ天真爛漫な声が聞こえたので、びっくり。
思わず自分も隣に目線が向かう。
勇斗君の手のひらの上には、淡い桃色のふわふわとしたものがあった。
「そう、調べて作ってみた。バラの髪飾り!しかもこれ、ドライフラワーだから枯れないんだよ。かわいいでしょ?」
「え、めっちゃかわいい。てかお前こんなの作れたんだな」
「なにそれ、失礼じゃない笑?」
あれはバラの髪飾なのか。
再度勇斗君の手のひらを横目で見てみる。
げんこつサイズの一番大きな薄紅色のバラの周りに、濃さの違うピンクの小さなバラと葉が散りばめられている。
本物の花にしか見えない。
お店に売っているものと比べても、遜色ないぐらいの完成度。
勇斗君は手先も器用だなんて。
本当、なんて完全無欠な人なんだ。
勇斗君に改めて感心していると、吉田君のおどおどした声が聞こえてきた。
「ど、どう………?」
隣を向くと、いつの間にか彼の綺麗な黄金色の頭の右端
―ちょうどこめかみの高さの辺りの髪にさっきの髪飾りが乗っていた。
俺が呑気に考えている間に、勇斗君につけてもらったようだ。
女の子のような髪飾りをつけているせいか、すごく恥ずかしそうにしている吉田君。
勇斗君はというと―――
(あ、)
また、あの顔。
バラをちょこんとまとった吉田君を、愛おしくて尊くて仕方ない、って目で見ている。
勇斗君が何にも言わないもんだから、ついに吉田君はしびれを切らして早口で言葉を紡ぎ出した。
「お、お前さぁ、何かいえよ…似合ってないなら似合ってないって言えばいいもんをさぁ、、も、もーいーよ、恥ずいんだってば、今すぐはずし
「綺麗だよ」
あれだけ勢いを増していた吉田君の言葉は一瞬にしていとも簡単に遮られた。
反射で自分の視線が吸い寄せられる。
勇斗君の腕がゆっくりと髪飾りに近づくと同時に、ベッドサイドの椅子に勇斗君が座り直したことで二人の距離も少し近づく。
さらりと吉田君の髪を手ぐしで解くように髪飾りに触れた勇斗君を、ひゅっと息を呑んで見つめる吉田君。
そしてそのまま彼の手は耳をなぞるようにおずおずと吉田君の頬に引き寄せられた。
勇斗君のごつっとした親指は、割れ物を扱うかのように吉田君の頬骨の辺りを撫で、掌は頬を包み込むように動いている。
「綺麗だよ、仁人」
彼の口から出たのは、信じられないくらいに甘い声。
まだ二人は絶妙な距離で見つめ合っている。
鳥の鳴き声や葉の擦れる環境音が聞こえるくらい静まり返った世界。
この空気に先に耐えられなくなったのは吉田君だった。
「っだぁーっ!もうやめろっって!」
ぷいっと顔を背けた吉田君。反対方向を向いた彼の表情は見えなかったけど、頬から手を退けた勇斗君の顔は、言わずもがな、ニンマリとしていた。
「あれ〜?仁人怒っちゃったの?せっかく似合ってたのにな〜」
「うるっさい!お前もう帰れッ」
「ハイハイ、じゃあ明日も来るからね、」
そう言って荷物をまとめ出す勇斗君。
さっきまでの空気が嘘のように崩れて、いつも通りの世界に一気に戻った。
「じゃ、仁人また明日ね、お兄さんもまた!」
「あっまた明日」
にこやかに俺に手を振りながら勇斗君は軽快な足取りで病室を出ていった。
(……………)
また静まり返る病室。
正直、まださっきの出来事の余韻が残っている。
あそこまでされても吉田君は彼の気持ちに気づかないのだろうか。
吉田君は俺に背を向けて横たわっている。
寝ているわけじゃなさそう。
でも、いつもよりきゅっとしていて、体がこわばっているような。
吉田君の髪にはまだバラがついたまま。
(………そういえば)
ベッドサイドのテーブルに置いた自分の携帯を取る。
迷わず検索バーへ
“バラ 花言葉”
検索ボタンを押すと、思った通りの結果だった。
「ガチじゃん……」
呟いた自分の言葉は吉田君に届いていたかもしれないけど。
勇斗君のいなくなった病室には今まさにあの瞬間の空気が流れ込んだような気がした。
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バラの花言葉
貴方を愛しています
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