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うい、我です。
(以下略)
ーーとーます視点ーー
勢いよくドアを開けた瞬間。
「かえるくん!!!!!」
目の前には倒れている君が居たんだ。
その姿を見たとき、俺の中で全てが繋がったような気がした。
通話中に聞こえてきたかえるくんの嫌がる声。
知らない男の声。
そして、固いもの同士がぶつかったような鈍い音。
その鈍い音は、かえるくんが倒れたときの音だったんだ…。
かえるくんの傍に駆けつける。
横たわっているその体は動かず、顔も安らかに眠っているようだった。
でも、額の左側に赤黒く腫れている跡がある。
おそらく倒れたときにぶってしまったのだろう。
「ねえ…かえる…!!ねえってば…!!」
震える手で肩を揺さぶる。
お願い…返事してよ……。
まだ意識はあるのか…?
息はしてるの…?
俺の耳元にかえるの顔を近づける。
あぁ…良かった…。
かすかに呼吸が聞こえてきた。
「かえるくん…!聞こえる?」
「今救急車に電話するから…!」
急いでスマホの電源を着け、119に電話を掛ける。
指が震えて思うように数字が打てない。
「…はい、意識があるかどうかは分からないんですけど、まだ息はしてるんです…!それと、額に怪我をしてて…。場所は、~マンションです…!早く…!早く来てください…!」
安堵と一緒に、胸の奥深くから怒りがこみ上げてくる。
誰がこんなことに…!
部屋の中を見渡すと、不自然なほど静まり返っている。
物が散乱している事なども無く、綺麗にされているままだ。
犯人は物やお金が目的じゃないのか…?
そんなことを考えながらも電話を終わらせる。
そして、再びかえるの顔を覗き込む。
俺が来ていなかったらどうなっていたんだろう。
俺がもっと早く来れていたら…。
後悔と自責の念が、俺の心を支配する。
「かえるくん…。大丈夫だよ。俺が居るから…。」
「絶対に助かるから…!」
君の手を握り、必死になって声を掛け続ける。
ほんのりと温かく、柔らかな手。
そんな手が、俺の言葉に応えるように小さく動いた。
ーーかえる視点ーー
頭の左側が、じわじわと痛くなってくる。
重たい瞼を開けようと頑張るけど、今ではそれすらが億劫で、深い海の底に居るような感覚だ。
ぼんやりとしている遠くの意識で、誰かが僕の名前を呼んでくれている。
さっきまで通話で聞いていた、安心できる声。
とーます…かな…。
もう1度、瞼を開けてみようと試みるが全身に力が入らない。
ただ、漂っている感覚だけがそこにあった。
自分の意識が遠くなる前、最後に見えたのは、見知らぬ男が俺の事を押し倒してきた事。
あの人が僕の家に踏み込んで来た時の事だけが、鮮明に思い出される。
静かな殺気に満ちた、凍りつくような眼差し。
いったい、何が目的だったんだろう…。
怖いという気持ちよりは、困惑の感情の方が今は強いかもしれない。
が、頭の痛みが次第に強くなってきて、その痛みに全てが包み込まれてしまいそう。
誰か…助けて…。
心の中で一生懸命に叫ぶと、またあの声が聞こえてきた。
「ねえ…かえる…!!ねえってば…!!」
肩を揺らされている感覚。優しい手。
とーますだ…。
来てくれたんだ…。
僕の心から、じんわりと温かいものが広がっていく。
僕は…独りじゃない…。
「かえるくん…。大丈夫だよ。俺が居るから…。」
「絶対に助かるから…!」
遠くから聞こえてくるその声に、僕は手を握られている事に気がついた。
少し大きくて、僕よりも温かい手。
僕を掴んで離さないその手に。
ありがとう。とーます。
そう伝えたいのに…。声が出せない。
言葉が出てこない。
ただ、その優しさに応えたくて、僕は指先をピクリと動かすことができた。
大丈夫。
とーますがここに居るから。
僕は大丈夫だ。