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5 - 勿忘草と君の想い 第5話 ♯青桃

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2022年11月10日

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【ないこside】

りうらに花吐き病のことを話してから1週間ほどのち。俺はいつも通っている病院に行った。

「あの、1週間くらい前から咳した時に花が一緒に出るようになって、多分花吐き病なんですけど、治療法とかないんですか」

「…………残念ですが、その方と両想いになること以外解っておらず……治らない場合、発症から1年後には亡くなる方がたくさんいらっしゃいます。そのため、今現在では罹った場合余命は1年、という言い方しかできません」

「…………わかりました」

「一応咳止めは出しておきますが根本的な治療にはならないので、そのお相手と結ばれることを祈ります」

悲痛な声で言う主治医の言葉も、遠くに聞こえた。


余命一年。

いれいすの結成から3年を待たずに俺は死ぬのか。

涙が溢れそうなのを我慢して病院を出る。必死に堪えていたが、玄関の扉を開けたら堰を切って溢れ出した。



俺の人生の中で、1番楽しいと思えたいれいすでの活動。来年には武道館に立っているのかな、とか、りうらの成人式を見たいな、とか、俺の余命じゃ足りないことばっかりで。苦しくて苦しくて、抑えきれない嗚咽が漏れる。

俺がまろにあんな思いを抱かなければ。まろのことを好きにならなければ。

後悔は俺の心を壊していった。嗚咽と共にまた花を吐く。最近は前の日よりも吐く花の量が増えていることが多かった。初めは花びらがひらひらと舞うくらいだったのに、今では両手一杯に花を吐いてしまう。何の花かはわからないが、小さくて青い、可愛らしい花。その可憐な花は、俺の命を蝕んでいく毒の花のようだった。




【りうらside】

ないくんから花吐き病のことを聞いてから半年とすこし経った。

俺はこのことをメンバーに話さないでくれというないくんのたのみをそのまま守っていた。

少し冷たい秋の風を受けて、ないくんの桃色の髪が風にそよぐ。ないくんが咳をすることは減った。しかし、その代わりなのか、ふとした時にとてつもなく苦しそうな表情をするようになった。それに、吐く花の量も格段に増えてしまっている。特にないふ配信とか、まろと2人でいる時。まろは気づいているのかいないのか、ないくんに今まで通りの接し方をしているようだ。

気づいていないなら気づいてほしい、気づいているならないくんに言ってほしい。

これ以上ないくんを壊さないでほしい。

人見知りの俺が心から信頼できる人だから。

俺の救世主だから。

好きとかそういうものではないが、何となく家族みたいな存在になっているのだ。心配で仕方がない。


「りうら〜、お前も焼き芋やる?」

「……やる!りうら食べないけど焼きたい」

あにきの声で現実に引き戻された。落ち葉の山に近づく。

キャンプ場を貸し切ったのか、あたりに人はいなかった。落ち葉で作られたキャンプファイヤーは、冷たい風を温めてくれる。

「また来年も全員で来られたらええなぁ」

何とはなしに呟いたであろうまろに、思わず目を見開いてないくんの方を向いてしまった。ないくんは目を細めて辛そうにし、「ごめん」と言ってその場を去ろうとしているところだった。

「ちょ、ないこどこ行くん」

「ちょっとだけだから!」

素早い動きでないくんの手を引っ捕まえたまろは、ないくんのことをじーっと見つめ、言った。

「ないこなんか隠してることあるやろ」

「ない」

「あるやr」

「ないから離し……ッッゲホっ”」

ないくんがまろの手を振り解いた瞬間、ないくんの口から無数の勿忘草が溢れた。

「なッッ、ないこ!?」

目の前で起きた出来事に、他のメンバーも驚きで言葉を失っていた。

「ヒュ–……ゲホッッゲホッッ、ゴホッ」

ないくんの喉から細い音が漏れる。花が溢れてしまって気道を塞いでいるようだった。

「あ……あにき救急車!」

りうらは咄嗟にあにきに叫ぶ。

「ないくん!?ないくん!」

背中を摩ったりしたが、ないくんの顔色は悪くなっていく。

「……っ、ごめん」

ないくんに声をかけて、近くにあった、まだ綺麗な手袋をつけてないくんの口に手を入れる。

「ぅ”、え”ッッ」

えずいて吐いたものには、花が大量に散らばっていた。

「……大丈夫、ゆっくり、ゆっくり……」

背中を摩って、喉の奥に手をゆっくり入れる。しばらくそれを続けていると、救急車のサイレンが聞こえ、すぐに救急隊員が駆け寄ってきた。

「担架の上乗せてください!ご同行する方は救急車の中に!」

まろとあにきとりうらが同時に顔を上げて、救急車に乗り込んだ。

「いむしょーにはあとで連絡すっから、すまんが一回ホテル戻っててくれ!」

「わ……わかった!」

あにきが叫ぶ。

「あの!彼花吐き病なので、くれぐれも吐いた花には触れないでください!」

りうらの言葉に目の前にいたまろが目を見開き、りうらを睨みつけた。

「……、わかりました」

そういうと隊員は後ろの扉を閉め、救急車を発進させた。




【If side】



「……おい、いつからや」

「…………」

「いつからやって聞いてるやろ!!答えろや!!」

「……ごめん、答えられない」

救急入口、病室前。何も言わずに俯くりうらに、怒りをぶつけてしまう。

「まろ、落ち着けや。今ここでりうらを責めても意味あらへんから」

「せやけど!」

「しゃーなしやったと思うで。ないこのことやから、どうせメンバーには言わないでくれって言うとったんやろ?りうらが断れるはずないやん」

「…………ら、な……よ」

「あ”?」

「そんなにないくんのことが大事ならさっさと声かけてやればよかっただろ!」

大声で叫んだりうらの言葉にハッとした。

りうらの抑えきれなかった葛藤や後悔が溢れ出して、俺の心を濡らしていく。

「まろだってほんとはないくんがなんか隠してるの知ってただろ!こうなるまで散々放っておいて今更俺に文句つけてきてどういうつもり!?俺だって言いたかったさ!ないくんのこと助けてほしいって。誰か気づいてって。ないくんは俺のお兄ちゃんみたいなものだから。このまま壊れてくのを見たくなかった!でもないくんがみんなには言わないでって言うから、俺は言わなかったんだよ。なんで俺がこんなに苦しい思いしないといけないんだよ……」

「っ、……」

泣きじゃくるりうらを見て、俺はりうらの心を壊してしまったのだと、今更気づいた。

ないこがおかしくなったのも知ってた。体調が悪そうな日が多いことも、ある日を境に遠い目をしてどこかをぼんやりと見つめていることが多くなったことも。

まさか病気にかかっていることまではわからなかったが、俺は信じたくなくて目をそらし続けてきた。全部気付かないふりをした。


―――――もしそれでないこが死んだら自分を恨むくせに。



りうらのすすり泣く声が廊下に響く。気まずい沈黙の中で、俺は口を開いた。

「……りうら、ごめんな、全部お前に背負い込ませて」

「…………」

りうらが口を開く前に、治療室の扉が開いて医師が出てきた。

「あの……、ないこは、ないこは大丈夫なんですか⁉」

「一命は取り留めましたが、まだ予断を許さない状況であることは確かです。花吐き病がかなり進行していることもあって、また花で気道がふさがってしまう可能性もあります。さらに言うとこの頃は季節の変わり目なので体調もあまり優れているとは言えませんでしたので、肺炎などの合併症を引き起こすこともなくはないです。しばらくは入院になると予想されます」

背の高い男性医師は沈痛な表情をする。

「花吐き病となると現在でも治療法が確立されておらず、治療薬の開発も進んでいないので、早急にお相手の方と両想いになる必要がありますが……」

「……わかりました。ありがとうございます」

何も言えなかった俺とりうらに代わって、あにきが礼を言ってくれた。

「それでは失礼します」

医師はまた治療室に消えていった。

「……りうら、申し訳ないんやけどないこの花吐き病について詳しく教えてくれん?まだ今一わからんのよ」

「……うん」

あにきの問いに、りうらは首を縦に振った。




「花吐き病っていうのは、簡単に言うと片思いを拗らせて罹る病気で、咳をしたときに花が一緒に出てきちゃうの。それで、その花に直接触るとその人も花吐き病にかかっちゃうんだ。病状がよくならないまま1年が経つとそのまま死ぬ」

「は⁉ないこが発症したのは⁉」

「去年の3月のはじめくらい」

「……あと半年もないってことか……」

あにきが悔しそうに呟いた。病室のベッドにはあまり血の気のない、白い顔をしたないこが寝ている。

「ないちゃん!」

「ないこ!?」

ガラガラっと騒がしく病室の扉が開いて、いむしょーが入ってきた。どちらも慌てている。

「どういう状況⁉」

「ないこが花吐き病で倒れて、もっと言うと肺炎が併発する可能性もある」

「ぅわあああああん……ないちゃぁぁぁ……」

ほとけが大声で子供のように泣き出した。それを初兎が見かねて抱きしめる。

「いむくん大丈夫やで、きっとないこは戻ってくるから」

「でも……でもっ、ぼ、くっ、ないちゃんがたいちょ、わるい、の、きづけなかったっ」

「ないこが本気で隠してたら僕らは気づけへん。それくらい僕らに心配かけたくなかったんやろ。ないこなりの優しさやと思うよ」

初兎はほとけを抱きしめたまま、まるで子供をあやすように背中を優しくたたいている。

「…………あにき」

小さい声で呟いてあにきの袖を引っ張るりうらに、あにきは何も言わずにその手を握る。

「……よく頑張ったな」

あにきの撫でる手に安心したのか緊張の糸が切れたのか、りうらは手を握ったまま眠ってしまった。閉じられた目にはうっすら涙が滲んでいた。

「……俺がりうらの役変わってやればよかったな……りうらには背負わせすぎた」

俺は暗い声で言った。俺自身、気づいていたのに何も言えなかったこと、寄り添えなかったこと、それをすべてりうらに背負わせてしまったことで、強い罪悪感でいっぱいになっていた。

好きで仕方なかったのに、ないこの命を捨てるような真似をさせてしまったことに、自分への怒りが募る。と同時に、ないこに想われている顔も知らない人に嫉妬した。身を焦がすほど愛してもらえるなんて。俺がないこに向ける恋情よりももっと深いなにか。

ないこのその気持ちが俺一人に向いてくれたらなんて、何回想像したことだろう。

『俺にしておきなよ』、なんて気障なセリフを言える勇気があったら、ないこの愛は俺に向いてくれていたのだろうか。過去に戻れるなら聞きたかった。


ないこがこうやって倒れる前に。


「……僕といむくんでなんか飲み物買ってくる」

「頼むわ」

初兎のありがたい提案で、いむしょーは病室を出ていった。さしずめほとけを泣き止ませるためだろう。それでも今の俺にはありがたかった。

「まろ、お前ないこのこと好きやろ」

扉が閉じていむしょーが出ていくと、あにきが単刀直入に聞いてきた。思わず顔を上げる。

「なんで、気づいて……」

「普通気付くやろ、ダダ洩れやで」

「いつ……から気付いとった……?」

「結構前から。それこそかなり前にないこのことで二人で吞みに行ったことあったやろ?あの辺。お前ないこがりうらとビジネスBLやってるときものすっごい顔してるで。鏡見てみ?人殺してそうな顔しとるで。ないこが花吐き病やって知った今やから言えるけど、それこそお前の方が花吐き病にかかるかと思ったわ」

焦りで顔が赤くなったり青くなったりしてるのが自分でもわかる。

なんでそんな前から気付いてて言わんのや。きっとあにきの優しさではあるんやけど。

「ないこが起きたら言ったらええやん。『俺にしとかん?』って」

「でも……」

「よく言うやろ?やらないで後悔するよかやって後悔したほうがええ」

「……わかった」

あにきに励まされ、俺は頷いた。



いむしょーが帰ってきて、腫れぼったい目のほとけが口を開く。

「みんなでかわりばんこでないちゃんのお見舞いこようよ」

「ええなぁ」

「俺はしばらく休み取る」

ないこが起きた瞬間にそばにいたいから。口には出さなかったが、あにきは気づいているはずだ。こくりと頷きあい、目配せを交わした。

結局その日は解散となって、俺は誰よりも後に病室を出た。


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